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9 少年少女は壊したい

感想いただきましてありがとうございます!

モチベ上げて頑張りたいと思います(・∀・)

 

 二人並んで一つの傘で歩いているとふいに電子音が響いた。どうやら夕月のスマホらしい。ポケットから取り出して小さな手で操作し始める。


「………………藍原さん……から?」


 メールであろうか。差出人は陽のようだ。盗み見するつもりはなかったがチラッと見たら何やら写真のようなものが確認できた。


 それを見た途端に夕月はすぐにスマホをポケットにしまった。随分と慌てている。「……見た?」と不安そうな顔で見つめられたので首を横に振って否定した。するとほっとしたように小さく息を吐いた。


「メール返さなくていいのか?」

「…だ…大丈夫………………藍原さんの…バカ」


 最後のほうはよく聞き取れなかったが、まぁ相手は陽だし無視するのは正解の一つだ。と納得した。


「……………待ち受け……しよう…かな」

「ん?どうした?」


「なんでもない!」と即否定された。夕月にしては反応が早くて驚いてしまった。妙に顔が赤いのは楓の気のせいなのだろう。





 ◇ ◇ ◇



 隣の夕月をちらっと見ると、何か気になるのだろうか無言で一点を見つめていた。視線の先にはゲームセンター。興味があるのだろうか。ああいった場所に入るイメージが無かったため意外だ。


 あまりに凝視しているためさすがに確認する。


「ん? ゲーセン行きたいのか? 寄っていくか?」

「………………うんっ!」


 元気な返事が返ってきた。あまりにうれしそうだったため提案してよかったなと思う。


 ゲームセンター。実は楓も中に入るのは久しぶりだ。入学したての頃に陽に無理矢理連れて来られて以来だ。あの時は陽と楓を含めて五人だっただろうか。騒がしい雰囲気が嫌いなわけではないが、青春を謳歌しているであろう同年代の男女の空気はどうも肌に合わない。


 積極的に何か遊びたいものがあるわけでもないし、来る理由が無かった。たしか前回来た時も後ろで飲み物を飲んで眺めていただけだった気がする。


 決して楽しかった記憶では無いが、それでも隣の少女があまりにうれしそうに笑うので、まぁいいかと納得した。


(…ま、たまにはいいか。休養中だしこいつが楽しそうにしてるの見るのも悪くない)


 裾をグイグイと引っ張られ苦笑しながら一緒に中に入る。


 煌びやかな装飾を見ているとふと思う。リングに立った時のスポットライトの眩しさはこんなもんじゃないんだろうな、と。そう考えると拳にも自然と力が入る。


 隣の夕月を見るとある機械を指差していた。


「ん? パンチングマシーン? へーこんなのあるのか」


 夕月は楽しそうに何度も頷く。どうやらやってみろということらしい。ゲームにはあまり興味がないが、そういうことであれば話は別だ。


「よし! やってみっか!!」

「……………壊してしまえ!」


 ぐっと拳を握って物騒なことを言っている。楓は不敵に笑うと備え付けのグローブを右手にはめる。この男もまた壊す気満々である。


 両の拳を目の前に構えると、アストライドポジション。脚を開き重心を低く構える。


(グローブは…16オンス以上あるな)


 楓の階級はミドル級。グローブは10オンス(約283g)。今手につけているものはどうやら2倍以上の重さがある。全力で叩いてもよさそうだ。


 鋭く踏み込むと右手を全力で振る。


 ドゴォォォン!!


「はっはっは!! どうよ? これは立てねえだろうが」


 肩を回しながら夕月に近付く。

 夕月は「おー」とパチパチ拍手をしている。


 結論から言うと壊れた。ピクリとも動かない。KOだ。

 店長らしき人が来て苦笑いしていた。


「キミすごいな! まさか壊す人が出るとは。古くなってたし廃棄するつもりだったから。まぁいいんだけどね。むしろいいものを見せてもらったよ」


 と言ってくれたので事なきを得た。練習生だという事を伝えると「どうりでなぁ」と納得していた。


 楓はマシンを破壊できたためかなり満足している。なので後は夕月の好きにさせることにした。もとからそのつもりではあったが。


「…………うさぎ…さん?」


 視線の先にはクレーンゲーム。こんな時に陽ならイケメンらしく取ってあげるのだろうが、楓は無理だ。そもそも触った事すらない。眺めていると何回か夕月は挑戦しているようだが上手く取れない。


「ふーん。このアームを欲しいのに合わせればいいのか?」

「………うん…難しい…のだ」

「ちょっとやらせろよ」


 百円玉を入れるとボタンに手を置く。


(ようはタイミングだろ。それなら)


 アームはうさぎのぬいぐるみを掴んで持ち上げた。だがスルリと間から抜け落ちた。


「…まぁ簡単にはいかねえよなそりゃ」

「………………あ!」


 落ちたと思ったぬいぐるみだったが、タグの輪がアームにうまく引っかかっていた。取り出し口にぬいぐるみが落ちる。


 取り出すと「ほらよ」と夕月の顔に押し付けた。


「……………いいの?」

「俺の部屋にそんなうさぎいたら、むしろホラーだよ」


「…ありがとう!」と一言、うさぎのぬいぐるみを抱きしめて幸せそうな顔をしている。


 楓から見てもあまりに魅力的な表情だったため思わず目を逸らした。周りでその様子を見ていたのだろう。ヒソヒソと聞こえてくる。


「あの子…芸能人かなにか?」

「同性でも見惚れるってやばくない? 可愛すぎっしょ」


 女性の二人組は夕月を見て驚いている。


 次に同年代ぐらいの男子高校生だろうか。着崩した制服はもはや制服の体をなしていない。夕月に話しかけようとしていた。だが隣の連れから止められている。


「やめとけよ! 隣の男。あいつさっきパンチングマシーン壊して笑ってたぞ」

「まじかよ…彼氏か? やっべえな」


 楓が隣にいると邪な考えを持った者は近寄ってこない。そういう意味でも二人はうまく噛み合っているのだろう。






 ◇ ◇ ◇



 店を出る頃には雨は止んでいた。


「おー、止んだな。よかったわ」

「……………もう少し……降ってて…よかった」


 小声すぎてうまく聞き取れない。「どうした?」と聞くと「……なんでも…ないよ」と少し不満そうな顔。


 不思議に思いながらも歩き出す。雨上がりの道は水溜りに夕陽が反射して眩しいぐらいに綺麗だった。隣の夕月の顔が朱く染まっていたのは夕陽のせいだろう。


 帰り道にゲームセンターに寄って、しかも思っていた以上に楽しかった。自然と楽しめていたことに自分でも驚いた。


 ぬいぐるみを大事そうに抱える少女を見て「こいつと一緒にならまた来てもいいかもな」と楓は思った。


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