8 初めての交換日記
なにやらたくさんのブクマをしていただきまして恐縮しております。
評価していただきまして感謝感謝です(;ω;)
引き続き頑張ります!
日記を恐る恐る開いていく。
綺麗な字が目に入ってきた。年頃の女子高生の可愛い字というよりは習字を習っていたようなしっかりと綺麗な字。とりあえず読み進めていく。
『小日向夕月です』
(おう、知ってる)
『今日は晴れて気持ちいいです』
(雨降るらしいぞ)
『神代くんがこれを見ている時私はなにをしているのでしょうか?』
(授業の準備とかじゃね? つーかなんで死亡フラグ立ててんだこいつは。いや笑えないけどな)
どうでもいいことばかり書いてるのか、と思っていたら少し様子が違ってきた。
『神代くん。まずは私と友達になってくれてありがとう。私は今が人生で一番楽しいです。隣に神代くんがいて、藍原さんもいて。二人とも私のことを考えてくれているのが伝わってきます。それが泣きたくなるぐらいうれしいんです』
「………」
『神代くんは私達が初めて会った日のことを何も聞かないよね。自分では認めないだろうけど神代くんはとっても優しい人なんだ。あの日だってぶっきらぼうな態度だったけど、その気になれば素通りもできたと思う。だから感謝してます。改めてありがとう。助けてくれたのがあなたでよかった』
『まだ全部をお話しするには気持ちが整理できてなくて。だけど整理できたらあの日の訳もお話しします。聞いてくれますか? 多分聞いてくれるよね、神代くんは優しいもん』
『初めての交換日記は随分と長文になってしまいました。いいよね? 最初だし。私は口で伝えるのが下手だから、足りない分をこうして書いてみました。面倒臭い私だけどこれからもよろしくお願いします』
『それと土曜日は暇ですか? この交換日記で教えてください。楽しみに待ってるね』
最後まで読み終えるとゆっくりと日記を閉じる。目を閉じて上を仰ぐ。もっと砕けた内容だと思っていたので面食らってしまった。
(あいつこんなこと考えてたのか)
口で伝えるのが下手だから書いてみた。それも夕月らしいなと思った。
(俺が優しい? 何をバカな…)
日記を再度開く。返事を書き始めたが…思い直して全て消した。夕月は話すのが下手だから文章で伝えてきた。楓はきちんと言葉で伝えられる。だったら文章じゃなくて口で伝えるべきだと思った。真剣に考えた内容なのは嫌でも伝わってくる。だからこそ誠実に向き合うべきなのだ。
楓は日記を静かに閉じると隣の陽の肩を叩いた。
「お? もういいのか? 夕月さんのことだから面白い内容だったんだろ?」
ニヤニヤしながら楓の様子を伺っている。
「…あぁ。自己紹介と今日の天気の話だったよ。あいつらしいな」
「ほのぼのしてんなー。たしかに夕月さんなら書きそう!」
(話すんなら昼休みじゃなくて放課後だな)
◇ ◇ ◇
午前中の授業が終わって昼休みになった。夕月が来るため楓と陽は売店で既に買ってきてある。
陽と談笑しながら夕月を待つ。来れば教室がざわつくからすぐにわかる。
しばらくすると夕月が来たようだ。男共が騒がしくなっている。
「…………おまたせ……しま…した」
「いらっしゃーい夕月さん! 待ってない待ってない! むしろ早いぐらいだよ」
「遅いぞ。腹減った」
「おまえぇ…」と陽は楓を睨む。夕月はクスッと笑う。
「…………神代くん…らしいね」
「夕月さんも怒っていいんだからね? ほらボクサーはやり返せないから、叩きまくっても大丈夫だよ」
「陽が相手ならやり返すけどな」
真顔になっている陽を無視して食事を進める。夕月は今日も弁当持参だ。中味はやはり手作りでレベル高めである。だが妙に量が多い気がする。
「……今日は………余分に…作ってきて…みた」
ドヤ顔である。どうやら少しお裾分けできるように多めに作ってきたらしい。それを聞いた陽の喜びようはそれは凄かった。楓ももちろんうれしい。夕月の味付けは好みのものであったから。
「めっちゃ美味しい! さすが夕月さん」
「だろ? その卵焼きは俺のだ返せチャラ男」
取り合いをしている二人を見て夕月はどことなくうれしそうだ。
食事を進めていると思い出したように陽が口を開いた。
「あ、 夕月さんならわかるよね? 今日の俺いつもよりカッコ良くない?」
陽は期待感からソワソワしている。夕月は陽を凝視して考える。何かわかったようだ。口元がほころんでいる。
「………藍原…さん…………太った?」
「おまえら二人はお似合いだよちくしょう!!」
黒髪になったことを指摘すると、あわあわと必死にフォローする夕月であった。
◇ ◇ ◇
――放課後。
陽は別件で用事があるらしくチャイムと同時に下校した。騒がしい奴である。
だが陽には悪いが今日は居なくてよかったのかもしれない。今日は夕月と二人だけのほうが都合がいい。
帰る準備を終え正面玄関へと向かう。外の大雨を見て呆然としている夕月がいた。
「……あ………神代くん」
「日記にあんなこと書いてたから傘無いんだろ?」
コクリと頷く。楓はため息をつくと傘を広げた。
「何ぼーっとしてんだよ。早く来いよ」
夕月は目を見開いて驚いている。だがすぐに満面の笑顔になるとうれしそうに駆け寄ってくる。
「………失礼………します」
「おう。失礼しろ」
躊躇いがちに横に並ぶ。顔を赤らめ少し俯いている。その顔を見て衝撃を受けているのは楓、ではなくそれを見ていた他の男子生徒達だ。
恥じらいの顔を見せる学校で1番の美少女。楓は見慣れているが、耐性の無い者には衝撃的すぎた。おまけに相合傘ときたものだから、楓に対する羨望の視線も多い。
既に一緒に登下校しているから、楓もこの視線にはある程度慣れてきた。正面から文句を言ってくるような者も皆無であるから実害はゼロ。要するに放っておけばいい。
夕月が濡れないようにゆっくりと歩き出す。しばらく歩いていると唐突に裾を引っ張ってきた。至近距離で楓の顔をじっと見つめると口を開く。
「………日記…………読んだ?」
「あぁ読んだ」
「……じゃあ……はい」
手を出してきた。日記を寄越せということだろう。
「ほれ」
日記を手渡す。ワクワクしたような様子で躊躇いなく開き始めた。
(ほらやっぱこいつやりやがった。俺が目の前にいても平気で読み始める。マジであぶねぇ)
中を確認した夕月は頰を膨らませてご機嫌斜めである。
「…………むう…少ない…」
それもそのはずで、楓が書いた返事は「土曜は空いてる」その一文だけだった。
夕月の様子を見て苦笑するとゆっくりと話し始める。
「そんな顔しないでまぁ聞けよ。真面目な内容だったから口で伝えようと思ったんだよ。そうだなまずは…」
「俺は小日向と一緒にいるの割と楽しいぞ。コロコロ表情変わるから見てて飽きない。それは多分陽も同じはずだ。勘違いすんなよ? 俺も陽も自分の意思でおまえと一緒にいるんだ。感謝するのは勝手だが恩に感じる必要は無い」
夕月はぽかんとして話を聞いている。思考がどうも追いついていないようだ。
「助けたのも気まぐれみたいなもんだ。優しいとかそんなんじゃない。自分本位で勝手な考えだったしな。あの日の事は話したくなったら話せばいい。気が向いたら聞いてやるよ」
(あとは…)
「面倒臭いけどよろしく、だっけ? あぁいいぜ。よろしくされてやるよ。おまえと一緒だと何かと楽しそうだ」
ぶっきらぼうに夕月が書いた日記に答えた。夕月はその言葉を一つ一つ丁寧に受け取っていく。
「……ふふっ………神代くん…らしい…ね」
「ちゃんと文面での返事も書いたろ? 土曜はOKだ」
夕月は泣きたいような嬉しいような複雑な心境だったのかもしれない。楓にはそんな表情に見えた。それを考えると今日は雨でよかったなぁと思った。
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