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77 準備を始めます

いつも読んでいただきありがとうございます。


いつもより投稿が少し遅くなってしまいました。

申し訳ありません。

 

 黒板に羅列された見慣れないワード。

 文化祭におけるクラスの出し物候補である。


 来月に迫った文化祭に向けて、学校全体が活気付いてきた。楓のクラスも同様に、皆がそわそわしたような落ち着きのない様子が見て取れる。


 朝や夕のSHR、昼休みの一部などを利用して話し合いをしている訳であるが、候補は増えるものの一向に決まる気配はない。


 クラスの委員長の女子が指揮をとり、副委員長の男子が補佐する。二人とも有能なのは楓から見ていても間違いないのだが、それでも相当難儀しているようだ。


「とまぁ……候補はこれで十分です。後はこの中から決めてしまいましょう」


 委員長がそう説明すると、傍らで見守っていたあずみも黙って頷く。ようは「自分達で考えろ」という事らしく、基本的にあずみからは口を挟んではこない。予算の問題など助言が必要だと判断したら、その都度アドバイスするぐらいであろうか。


 ――候補は。


 ① メイド喫茶

 ② タピオカ

 ③ 焼きそば

 ④ たこ焼き

 ⑤ チュロス

 ⑥ おばけ屋敷


 最終的には六つまで絞ったようだ。


(知らねぇ単語があるな。なんだよタピオカとかチュロスとか)


 難しい顔をしている楓に陽が隣から口を出す。


「楓は何がいいと思う?」

「何でもいい。つーかタピオカとかチュロスとかって何だ? 強いのか? なんか外人ボクサーにいそうだぞ」

「おまえはタピオカと戦うのか。異次元すぎるだろ……」


 呆れながら陽は説明する。戦う者ではなく食べ物だという事を。


「はい! 傷だらけな顔の神代くんはどれがいいと思いますか?」


 唐突に指名された楓にクラス中の視線が集中する。


「何でもいいんじゃ――」

「何でもいいは無しですよー? どれがいいですか?」

「…………」


 どうやら委員長は逃がす気はないらしい。「なんで俺が」と苛立つ楓であったが、陽やあずみは楽しそうに見守っている。


「とりあえずメイド喫茶、おばけ屋敷はめんどくせぇ。喫茶店って事はメニュー複数用意するって事だろ? 単純に怠い。おばけ屋敷とかも素人がやったところでショボいだろ」

「……ふむ。確かにそうですね。では他の案についてはどう思いますか?」

「タピオカ、チュロスってのは俺は知らん。だから消去法で焼きそば、もしくはたこ焼きになるな。以上だ」


 思った以上に考えられた回答に、クラスの皆は驚いたまま固まっている。陽は「おぉ」と感心しているようだ。


「神代くんの意見はもっともだと私も思います。皆さんはいかがでしょうか?」


 クラスの意見は男女ではっきりと分かれているようだ。


 男子はメイド喫茶という意見が多い。女子のメイド姿を見たいという不埒な理由が大半であろう。


 女子はタピオカ、チュロスという意見である。流行りものに乗っかろうとする姿は、如何にも女子高生らしいといったところか。


 纏まりがなくなり騒がしくなってきた様子に、委員長は頭を抱えている。


「委員長! ちょっといいかな?」

「はい、陽くんどうぞ!」

「えっとさ、タピオカは無理だと思う。仕入れがかなりキツイと思うよ」

「藍原の言う通りだな。タピオカは生産が追いつかないぐらい流行っているようだ。私もそれは難しいと思う」


 陽の意見にあずみが補足していく。陽はニッコリと笑うと続けて話し始めた。


「だからさ、混ぜたらいいんじゃない? チュロスを出すメイド喫茶みたいな感じで。メニューでコーヒーぐらい足しておけば形にはなるんじゃないかな?」

「……なるほど」


 その話を聞いたクラスの面々も次々に頷いている。ようやく話が纏まりそうな気配が出てきた。なぜか響が誇らしげにしているのが不思議ではあったが。


「ではメイド喫茶を主軸として、メニューにチュロスと飲み物を載せるという事でいいでしょうか?」


 賛成多数でパチパチと拍手が鳴る。どうにか決まったようだ。


「よし! 決まったようだな! それではさっそく今日から準備に取り掛かるように。並行して勉強するのも忘れないようにな。テストもあるのだから勉学も疎かにしてはいけないぞ」


 準備は基本的にクラス全員で協力して行う事とした。全員協力して準備をする――。部活動などで止むを得ず参加が難しい者もいるだろうが、可能な限り手伝うという方針である。


 クラスの雰囲気は悪くない。他のクラスがどうかはわからないが、少なくとも楓のクラスは皆が一致団結して進む空気である。


 だが楓本人はどうかと聞かれると……。


(めんどくせぇ……)


 額に手を当て顔を引き攣らせながら、クラスの中で一人だけ溜息をついた。





 ◇ ◇ ◇



「って訳でうちのクラスはメイド喫茶! 夕月ちゃんのクラスは?」

「……縁日の……再現……みたいな……感じ?」


 昼休みに教室に来た夕月は、持参した弁当を広げながら響と話している。


 どうやら夕月のクラスは縁日を再現するという事らしい。金魚掬い、射的、型抜きなどあまり準備に手間がかからないものを選んだようだ。


「つーかメイド姿って、男は何を着たらいいんだ?」

「執事みたいな格好らしいよ。まぁメインは女子だろうから、あまり気にしなくていいんじゃないか?」

「なんだよ執事って。スーツでいいのか?」

「燕尾服じゃないか? クラスの女子達が用意してくれるみたいだぞ。持ってる人もいるみたいだし、足りない分はレンタルなりで調達するみたいだ」

「なんで燕尾服持ってるんだよ……」

「さぁ。コスプレ好きな子とかいるんじゃない?」


 ドン引きしている楓を見て、陽はケラケラと笑っている。夕月は動かしていた箸をぴたりと止めると、自分にしか聞こえないような小さな声で呟く。


「……執事の……楓…………撮らないと……むふふ」

「ん? 何か言ったか?」

「……なんでも……ない」


 よく聞こえなかった楓であったが、響にはバッチリ聞こえていたようだ。


「ねぇ楓!! 夕月ちゃんがね――」

「……や……やめて!」


 夕月は響の口を小さな手で一生懸命抑えている。「ごめんごめん」と言いたそうに響が苦笑すると、若干疑いながら夕月は手を離す。


 響は夕月にだけ聞こえるように小さな声で話し掛ける。


「楓の写真欲しいんでしょ?」

「…………うん」

「任せて。クラス同じだから私なら盗撮し放題」

「……おぉ」

「そういえば、楓の昔の写真とか見たい? 持ってたりするんだよねー私。ふふふ」

「……見たい!」


 昔の楓の写真はいくつか響のアルバムの中にも入っている。楓は昔から写真が嫌いであったため数は少ない。ある意味貴重な写真なので大事に保管していた。


 夕月にとってはまさにお宝である。目を輝かせて響に詰め寄るが、あまりの勢いに響も若干驚いているようだ。


「そ、そんなに見たいんだ。りょーかい! 写メ撮ってきてあげるよ、任せなさい!!」

「……任せた!」

「でもその写メどうするの?」

「……寝る前に……眺めたり……愛でたり……妄想したり?」

「可愛すぎでしょ夕月ちゃん……」

「おまえら、いきなり大声で何話してんだ?」


 最初は小声で話していたのだが、ヒートアップした夕月につられるように響も声が大きくなっていた。楓と陽は不思議そうにしている。


「ふっふっふ! ねぇ楓!! 夕月ちゃんがあんたの写メで――」

「……だ……ダメ!」


 夕月は響の口に卵焼きを突っ込んだ。


「何やってんだよおまえらは」

「はははっ! 俺はなんとなくわかっちゃったー! 軽く聞こえてたしね。夕月さん、それなら俺も盗撮してあげるね!」

「……おぉ……藍原さん」

「なんだよ盗撮って」

「ん? いやこっちの話」


 ――一人だけ除け者にされたような空気が気に入らない。


 陽や響はまだしも、夕月がニヤニヤしているのは楓としても気になるところではある。とはいえ聞いても教えてはくれないのだろう。結局は「どうせくだらねぇ事だろ」と一笑した。


「それにしてもさ。ムカつくけどあんたって燕尾服似合いそうなのよね。身長あるし、筋肉ある割にはムキムキって感じでもないし」

「たしかに楓は似合いそうではある。他校の生徒も来るだろうから注目されるぞ、たぶん」

「どうでもいいな。ま、変に目立つようなら裏方の仕事でもしていればいいだろ」

「……モテるの……禁止」


「おまえが言うな」と心の中で呟く。夕月達のクラスは縁日の催しと言っていた。ということは夕月もおそらくは浴衣姿を晒す事になるのだろう。


 こういう時にクラスが違うのはもどかしい。近くにいればナンパ野郎を牽制できるのだが――。「あまり目立つな」と夕月の頭に手を置く。


「……心配?」

「あぁ。おまえの浴衣姿は異常に可愛いからな」

「――っ!」

「なんで固まってんだよ。変な事言ったか?」


 気が付くとクラス中の生徒が楓を凝視していた。


「もう無理。殺して」

「なんで神代だけ」

「誰でもいいから彼女になってくれ!!」

「リア充は死ね!!」


 などと、地獄絵図になってしまった。


 ちなみに文化祭に向けたこの準備期間で、クラス内ではカップルが増えた。楓・夕月カップルの無自覚なイチャイチャが少なからず影響したようだ。


 無論、本人達が知る由はない。




面白いと感じていただけましたら、下の評価欄から評価いただけますと幸いです。


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