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68 夕月の仕返し【3】

 

 遅めの夕食は近所のスーパーで買ってきた半額の惣菜などで済ませた。夕月は「作る!」と息巻いていたものの、楓も夕月も本人達が思っているより疲れが溜まっていたようで、結局は買って済ませた。


 大勢で泊まる事を想定していないので、予備の布団や毛布にも限りがある。そもそも夕月や響は男二人と一緒に一夜を過ごす事に抵抗はないのだろうか。慣れているとはいえ少々心配にもなる。まぁ二人とも気を許す相手は決まっているだろうが。


 楓がシャワーで簡単に汗を流した後は、夕月が浴室に向かった。


(……響はいいとして、陽か)


「陽。寝ろ」

「なんでだよ! せっかく四人でいるんだから楽しく会話を……」

「寝ろ」

「響ぃ! 楓が怖い!」


 響は腕を組みながら楓の様子を眺めると、「なるほどね」と小さく呟いた。


「ふーん。見せたくないって感じ?」

「ま、そんなとこだ」

「確かに凄い破壊力だしね……。よし! じゃあ陽は端ね。それと壁のほうを向いて寝なさい」

「なんで響まで!!」

「は? 明日が終わるまであんたは敵よ。黙って従いなさいチャラ男」

「……」


 陽が寝やすいように電気を消す。

 ちなみに陽は大きめの寝袋を持参していたようで、それを敷布団のように広げると、丁度二人分のスペースとなるようだった。響の事を考えての選択だったのだろう、さすが気の利く男である。


 五分ほどすると小さな寝息が聞こえてきた。意外にも女性のように静かな姿であった。イケメンとは寝る姿さえも絵になるようだ。

 その隣で横になった響は、陽の頭に手を伸ばすと優しく髪を梳いている。楓は少し距離を置いて響の隣に寝転んだ。


 寝ている陽を起こさないように小声で話し掛けてくる。


「その様子だと復活したのね」

「まあな。次に慧とやったら俺の圧勝だ」

「ふーん、つまんないの。泣き顔見たかったのに」

「馬鹿が。泣くかよ」


 響は楓の泣き顔を見たことがない。もっとも楓は人前で涙を流さないので、幹や梓でさえも暫く見ていない。相当昔まで記憶を遡らないと思い出せないレベルであろう。


 響の中では泣かないという事は美徳ではない。涙を流すという行為は、ストレスを吐き出すというか、心のバランスを保つというか、いずれにしろ我慢しなくてもいいと思っている。それゆえに、昔から弱音を吐いた事がない楓は少しだけ危うく見えていた。


 だから慧にやられて落ち込んでいる姿は新鮮であったし、どこか安心もした。「神代楓も同じ人間」とようやく思えたのだ。やはり涙は見せなかったが、少なくとも初めて内面の弱い部分が露呈した。その事実を響は少しだけ嬉しく思う。


 普段はいがみ合っているものの、響にとって楓は大切な一人である事は昔から変わらない。そこに恋愛感情はないが、繋がっていたいと思うし、一緒に成長していけたらとも思っている。


「あんたって泣かないのよね。イラつく、忌々しい」

「急になんだよゴリラ女」

「でもまぁ……いい感じよ。人間味が出てきた気がする。ムカつくけど」

「俺は機械か何かだったのか?」

「機械……ふふっ! なるほど、そうかそうか!」


「確かに」と響は心の中で同意した。感情を持たない殺戮マシーンと言われたら、それは言い得て妙かもしれない。


「そういや、おまえと組むのも久しぶりだな。というか初めてか?」

「そうかもね。足引っ張らないでよね? 陽に負けるとか死んでも嫌だから」

「あ? 誰に言ってんだ。俺は神代楓だぞ?」

「とりあえず休戦ね、絶対に負けられないわ。死んでも勝つわよ!」

「あぁ」


 響は握り拳を作って横に伸ばしてきた、楓も同じように握り拳を作ると「コン」と拳同士を軽くぶつける。


 するとその間に何か柔らかくて暖かいものが割り込んできた。


「……う…………う…………浮気!」


 いつの間にか浴室から戻ってきた夕月は、楓と響の間に強引に身体をねじ込んできた。どうやら部屋の電気が消えているのを見て、気を遣って静かに来たようだ。


 既に暗い室内ではあるが、至近距離で睨んでくる夕月の顔はかろうじて確認できた。頰を膨らませて胸を叩きながら抗議してくる。響は笑いを堪えるように声を殺している。


「響と俺がそうなると思うのかおまえは」

「……何が……起こるか……わからない!」

「いやわかるだろ」

「……むう! …………ふぇ?」


 背後から伸びてきた両手に夕月は抱き締められる。


「もう!! なんでこんなに可愛いの!!」

「……響ちゃん!?」

「あぁ! 柔らかいし、抱き心地はいいし、甘い匂いはするし……めちゃくちゃにしたい!」

「おっさんかおまえは」


 夕月にはベッドを使うように言ったのだが、「ここがいい」と楓と響の間から動こうとしなかった。狭くて窮屈であったため、楓は立ち上がるとベッドへ向かおうとした。だが夕月に手を掴まれ制止される。


「……どこに……行く?」

「おまえがベッド使わないなら俺が使う」

「……ダメ」

「は?」

「……楓は……私の……隣」

「暑いだろ」


 そんな楓の言葉は無視して腕を引っ張ってくる。どうやら離す気は微塵も無いようで、諦めて再び元の位置に寝転がる。


 すると今度は響の手を振り払って抱きついてきた。


「……へへ……楓の匂い…………好き」

「何してんだよおまえは。ったく」

「二人とも私達がいる事忘れないでね? 事が始まったらさすがに寝たふりできないわよ?」

「何もしねえよ!!」

「……私は……いいよ」

「何言ってんだおまえは!!」


 結局夕月は楓にしっかり抱きついたまま夢の中へ。

 楓と響も少ししたら寝落ちた。


 そんな中で実は起きていた者が一人。


(寝れる訳ないよなー。バカなのかなこの三人)


 陽は目を瞑って必死に羊を数えた。五千匹を超えたあたりでようやく夢の中へ落ちていった。







 ◇ ◇ ◇



 ――翌日。


 早朝のロードワークを終えた四人は、夕月が作ってくれた朝食を済ませると、早速ボウリング場へ来ていた。


「さて、覚悟はいいな。夕月とチャラ男」

「陽、覚悟しなさい。命令は何にしようかな……。楽しみにしてて」


 なぜか自信満々の楓と響は、もうすでに勝ったかのように不敵に笑う。その自信がどこからくるのかはわからない。


「……ふふ」

「ふっふっふ」


 夕月と陽は、それとは対照的に静かに笑う。




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