50 お気に入り
なんと今回で50話となりました。
いつも読んでいただきありがとうごさいます。また、感想もいただきまして感謝しかありません。
これからもどうぞよろしくお願いします。
早朝のロードワーク。
夏休み中はほぼ毎日朝は4人で走っている。最初は全くついてこれなかった陽も、なかなかどうして……加減しているとはいえ響にはついていけるようになった。
身体の線もただ細いのではなく、少しだけガッシリしてきたように見える。見えないところで筋トレなどしているのかもしれない。
陽のくせに生意気である。
「おまえ筋トレとかしてんのか? 身体一回り大きくなったよな?」
「わかっちゃうよなぁ!? いやー陽凪がさ、男の人はガッシリしてたほうがカッコいいとか言っててなー!」
「あんたねぇ。私と陽凪ちゃんどっちが好きなのよ」
響は呆れるようにジト目で陽を見る。
「どっちも好きだよ。愛してるまである」
「ば、ばかっ!! 何言ってんのよ!!」
「…………ふむ」
そのやりとりを見ていた夕月は楓の横に並ぶと2人を羨むように指差す。
「……私も……あれ……やりたい」
「は? 何言ってんのおまえ」
「…………愛している」
「そうか。よかったな」
「…………楓が……デレない」
「知るかよ。黙ってついてこい」
「……ひどい」
敢えて顔は確認しない。見なくても大体わかるのだ。
それはそうと今日の夕月は朝からドヤ顔であった。
楓からのプレゼントを身につけ、まるで見せびらかすように強調してくる。余程うれしかったのだろう。何度も胸元を確認してはニコニコしていた。響も陽も微笑ましいものを見ている表情だ。
喜んでくれるのは勿論ありがたいし本望なのだが、これほどまでに手放しで喜ばれると、見ているこっちが恥ずかしくなってくる。
まぁそれでも好きにさせるが。
「楓にしてはいい仕事したわね。夕月ちゃん! 超似合ってるよ!!」
「…………へへ」
「楓のセンスも人並みにあったんだな」
「ほっとけ」
とは言っても誕生石のアイデアは響から貰ったものだ。それを自分から言い出さないあたり気を遣ってくれているらしい。来年はさすがに頼れそうに無い。それを考えると少々憂鬱にもなる。
だが隣の夕月の顔を見ていると、悩む時間というのもそれほど悪くないなと思えた。
◇ ◇ ◇
ロードワークを終えた4人は楓の家で一休みしている。最近はこの光景が当たり前になってしまった。
高校生にとっての悩みの種。夏休みの課題は4人とも順調に進んでいる。朝のこの時間を利用して分からない問題を質問するのだ。主に夕月先生に。
「夕月ちゃん! ここ教えて。意味わかんない」
「…………公式を……当てはめる」
口数は少ないものの相変わらず教え方は上手く、楓も勿論お世話になっている。
陽はあまり質問しない。というより必要無いといった感じだろうか、かなり勉強は進んでいるようだ。
「おまえは陽に聞けばいいだろうが。夕月を独占してんじゃねえよゴリラ女」
「はぁ? ならあんたが陽に聞けばいいでしょうが」
「なぁ……俺嫌われてるの? 泣いちゃうよ?」
夕月はよしよしと陽の頭を撫でている。
結局、男は男、女は女と2組に分かれる。陽に教えてもらうのは屈辱的だが贅沢は言っていられない。
というか教えて貰う側なのに何故かこの男は態度が大きい。
「ほら、聞いてやるから早く説明しろ」
「なんかおかしくない!?」
文句を言いながらも説明し始めた。これが意外にも分かりやすくなかなかのものである。
陽のくせに。
「おまえ本当に頭いいんだな。殴っていいか?」
「いやいやいやいや、なんで?」
「顔が受け付けない」
「なに? 殴れば人相変わるって? いやその目やめて。怖いから普通に」
冗談の通じない奴だ。ちょっとだけ拳に力が入ったのは伏せておこう。
一通り問題が解決すると夕月が淹れてくれたお茶を飲みながら休憩をする。
すると何かを思い出したように陽が口を開いた。そして慌てて鞄から何かを取り出す。
手に持っていたのは紙。何かをプリントしたものだろうか。
「これ見てくれ」
「ん? って……はぁ……面倒臭え」
載っていた画像は楓と慧のもの。ご丁寧にスパーリングの内容まで記載されていた。駿河慧は既に期待の新星として有名人である。その慧と互角以上に戦ったとなれば……
最近はジムを外から覗く人が多い気はしていた。記者のような連中、そして明らかにボクシングなんかやらないだろうといった様子の女性。様々なタイプの見物人が増えた。
ジムの連中は見物人が多ければ多いほどやる気が出るので、ある意味いい傾向ではある。脳筋連中は実に単純で煽りやすい、だから特段問題にはなっていない。
「面倒臭えな。目立ちたくなかったが」
「こうなったら仕方無いなぁ。ま、早いか遅いかってだけだろ? いずれ注目されるんだから慣れておけばいいさ」
こうなってはどうしようもない。面倒な事にならなければいいなと願うばかりである。楓としてはもう諦めて無理矢理納得したのだが、意外にも夕月が難しい顔をしていた。
「……何か……嫌」
「何がだ? 確かにイラつくけど陽の言う通りだ。早いか遅いかってだけだ」
「……最初に……見つけたのは……私」
「は? 何言ってんだおまえ」
さっぱり理解できないのだが響はいち早く反応した。
「夕月ちゃんかわいー!! えー? なになに? ヤキモチ?」
「……い……言わないで」
「大丈夫だって! まぁ見た目だけなら……モテてもおかしくないけど、中身が絶望的だから無理無理。そもそも夕月ちゃんより可愛い子なんてなかなかいないから。チッ、本当に何でこんな男が」
「喧嘩売ってんのか? あ?」
夕月はこれ以上無いぐらいに顔を真っ赤にしてあわあわと慌てている、耳まで染まっているのでよっぽどだろう。響はそんな様子を見て、どうやらからかって楽しんでいるようだ。
「そういえば何回かジム出た直後に、連絡先書いた紙渡されたな」
「は? おまえそれどうしたの?」
「どうもしねえよ。何が目的かもわからねえし普通に怖いぞ」
「いや、それ目的1つだろ……」
机の引き出しからそれを取り出すとテーブルに広げた。捨てると呪われそうだったので一応持っていた。
「名前と連絡先ね。あんたねぇ……これラブレターみたいなものよ?」
「知るかよ。スマホもねえし面倒臭え、余裕でスルーだ」
「……うむ……それで……よい」
呆れる響であったが夕月は満足気にうんうんと頷いている。
とはいえ受け取った手前、連絡をするのが筋なのだろうか。少し迷ったが面倒な気持ちが勝ったのでやはりスルーすることにした。
「まぁ夕月以上なんて俺の中では存在しない。選択肢なんてそもそもねえんだよ。確定してんだ、だからそれ以外は全て無駄だ」
「…………か……楓?」
「響という彼女がいるのに壁を殴りたい」
「奇遇ね。私も殴りたい」
見つめる熱い視線に楓は気が付かない。呆れるような視線には気付いたが。
すると突然夕月はテーブルの下で手を握ってきた。
「どうした?」
「…………」
答えは返ってこなかった。何の意味があるのかはわからないが更に強く手を握られた。
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