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48 贈りたい物は

感想いただきましてありがとうございます。

遅くなってしまうかもしれませんが必ず返信させていただきます!

 

 ふと思いつきで書いただけであった。

 それがまさかこれほど悩みの種となるとは……


 目の前に開かれて置かれた交換日記。腕組みをしながら睨めっこしている。



『誕生日は?』



 という楓の問いに対しての夕月の返答は。



『8月5日だよ。でも何もしてくれなくていい』



 なんと本日は8月4日。

 こんなことならもっと早く聞いておけばよかったのかもしれない。タイミングが悪すぎた。

 だが意外だったのだ。誕生日ならばもっと強く主張してくるものと思っていた。


 文面からも伝わってくる。夕月は自分の誕生日を喜んではいない。むしろその逆なのだろうか。

 だが知ってしまったからには何もしないというのも引っかかる。だからこうして悩んでいるわけであって。


(……そうか。誕生日なんて祝ってもらったこと無いのかあいつは)


 嫌がるのを無理矢理祝うのはさすがに気が引ける。だが何もしないのも納得いかない。板挟み状態で悶々としていた。


 贈り物も考えたが何を買ったらいいのかさっぱりだ。可愛い物が好きなのはわかる、だが改めて考えてみると好みはよく知らなかった。夕月は自分のことを積極的には話してこない。付き合っている相手の事なのに知らないことは数多ある。


「どっか連れてくか? じゃあどこに?」


 考えてみてもやはり答えは出ない。

 床に大の字で仰向けになると自然と大きな溜息が出た。


(仕方ないな……奴に聞くか)








 ◇ ◇ ◇



「で、私を呼び出したと。彼女の事なのにどうなってんのよ。呆れるわ本当に」

「うるせえな。仕方無いだろうが。俺だっておまえに頼りたくはねえよ」


 近所の喫茶店に呼び出した人物は夏目響。苦肉の策であった。

 陽に相談することも考えたが、女同士という事で響のほうが適任だと判断した。


 できれば避けたかった人選であるが……


 だが意外にも響はすんなりと応じてくれた。そこに関してはありがたい。


「あんたと世間話しても仕方無いから本題に入るわよ」

「ああ。そうだな」

「誕生日ねぇ……軽く聞いてみたんだけど夕月ちゃんって物欲無さそうなのよね。可愛い物には興味あるみたいだけど。ぬいぐるみとか? でもそれが誕生日プレゼントってのもちょっとね」

「だろ? だから困ってる」

「そんな事だろうと思って考えてきたわ。でもあくまでヒントよ。何を贈るかは自分で考えなさい。ほらこれ見て」


 手元のスマホを操作すると画面を楓に向ける。


「……そうか。なるほどな」

「あとはあんたが考えなさい。予算とかもあるでしょ? そのあたりも考えて。気持ちが大事なのよ、それも忘れないように」

「今思い浮かんだ。悪いな助かった」

「いいわよ別に。夕月ちゃんのためよ。勘違いしないでよね?」


 照れ臭そうに外を眺めている。感謝されることに違和感があるのだろう。相手は楓なのだから無理も無い。


 だが響のお陰で目処が立った。予算的にも行けるはずだ。

 夕月が喜んでくれるかは分からない。だが不思議と何を贈ったとしても喜んでくれそうな気がした。自惚れなのかもしれないが。


 そんな様子を察したのだろう。響が口を開く。


「あんたが他人の事をこんなに考えるなんてね。なんか不思議だわ」

「ああ。俺も自分でそう思う。わざわざプレゼント用意するとか意味わからん」

「いいんじゃないの? 今のあんたのほうが人間的に見えていいと思うわよ。前は……いえ、なんでもない」


 都合が悪そうに俯き視線を落とす。


 響の言いたいことはわかった。自分でもわかってはいる。目標のために不要な物は全て排除するような生活をしてきたのだ。見方によっては狂人、そんな風に見えていても不思議は無い。きっと響が言おうとしたのはそういう事なのだろう。


 奇妙な感覚だった。


 正直なところ誰かの為に何かをするなど面倒だ、それは変わらない。だが夕月の笑顔を想像するとそれも悪くないと思えてくる。自然と口元も緩む。


「とにかく、私にできるのはここまでね。ということでもう行くわ、会計よろしくねー」


 紅茶、そしてちゃっかりケーキまで注文していた響はそう言うと立ち上がる。今回は何も言えそうにない、不満ではあるが。


「チッ。今回だけだぞ」

「奢ってくれるんなら話ぐらいは聞いてあげるわよ。ごちそうさま」


 そう言った響の表情は何故か少しだけうれしそうに見えた。







 ◇ ◇ ◇



 ――翌日。午前10時。



(くそ。入りたくねえ)



 夕月のプレゼントを買うためにある店の前に来ている。できることなら入りたくない、すぐにでも帰りたい。

 だが他に選択肢は無いのだ。意を決して店内に入る。


 それらしきコーナーを見つけるが種類が多く選べない。そんな様子を見ていた店員が近付いてくる。


「何かお探しですか?」

「すいません。こういったもの初めて購入するので何もわからなくて」

「贈り物ですか? こちらなどいかがでしょう?」

「あ、すいません。中のそれは決めていまして」

「なるほどそういうことですか。それではこちらなどどうでしょう?」

「それはちょっと」

「ふふっ。彼女さんですか? ではこちらはいかがでしょう?」

「…………いくらですか?」


 店員に値段を聞くと思っていたよりも安かった。迷っていても時間だけが過ぎていくので即決した。

 何より一目見て納得できたというか、これがいいなと感じたのだ。終始恥ずかしかったがどうにかプレゼントは用意することができた。


(なんとかなったな。夕月に連絡するか)


 今朝もロードワークで顔を合わせていたものの、照れ臭くて言い出せなかった。響は終始ニヤニヤしていたが。

 意図せずサプライズという形になってしまった。


 公衆電話を見つけると夕月に電話をかける。


『……はい……小日向……です』

「夕月か? 俺だ」

『…………楓? ……どうか……した?』

「今から時間あるか?」

『……大丈夫』

「そうか。それなら悪いが俺の家まで来てくれるか? 迎えに行きたいが俺も出先でな。遅くなっちまう。鍵の場所わかるだろ? 入っててくれ」

『……うん』

「悪いな。じゃあまた後で」

『……いいよ……じゃあ待ってる』


 通話を終えると大きく息を吐く。柄にも無く少しだけ緊張してしまったようだ。


 夕月が待つ自宅へ帰る。

 その足取りは何故かいつもより軽かった。

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