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45 遊園地よりも

書きたいことが多かったのですが......なるべく短くしてみました。

 

「落ち着いたか?」

「……うん」


 観覧車が1周する頃には落ち着きを取り戻し、普段通りとまではいかないものの平静を取り戻したようだ。

 赤くなった目を隠したいのか頻りに目を擦っている。


「あまり擦るとよくねえぞ。腫れるぞ」

「……うん」

「聞いてんのか?」

「……うん」

「はぁ……」


 心ここに在らずといった感じだろうか。聞いているのかいないのか……

 夕月の正面に立つと顔を覗き込む。両手で頰を挟むように触れると強引にその顔を自分に向ける。


「おい。こっち見ろ」


 至近距離で目が合うと、時間差があって状況を理解したのだろう、途端に顔を薄く桃色に染めて恥じらいの表情を見せた。


「……ち……近い」

「知らねえよ、んなこと。おまえが上の空なのが悪い」


 一瞬いつもの夕月に戻ったかと思ったがそうでもなかった。無理矢理作って貼り付けたような笑顔は見ていて辛くなる。


(どうしたもんか。これは遊んで服買ってなんて空気じゃねえぞ…………いや、待てよたしか今日って)


「夕月。陽の連絡先わかるよな? ちょっとスマホ貸せ」


 呆然としながらもスマホを取り出すと、陽の連絡先を表示してから差し出してきた。それを受け取ると早速電話をかける。


『もしもーし? どうしたの夕月さん』

「俺だ」

『なんだ楓か。オレオレ詐欺みたいに聞こえるぞ』


 後ろでは歓声だろうか、なかなかに騒がしく声が聞き辛いほどだ。だが予想通り。


「響の参加してる実業団チームって今日練習試合だよな? 朝練やって、午後から試合だろたしか」

『そうだぞー! まだアップだから始まってないけど』

「今から行く。市立体育館だろ?」

『そうだけど。今日ってデートじゃなかったっけ?』

「そうだな。ま、観戦もありだろ。普通におもしれーし」

『そっか! んじゃ一応2人分の席取っておく。響も喜ぶと思う!』

「悪いな。じゃあまた後で」


 通話を終えるとスマホを返す。その会話を聞いていた夕月は不思議そうに口を開く。


「……見に……行くの?」

「おう。初めてだろ? 生でバスケ観戦するの。遊園地もいいけどよ……ま、たまにはいいだろ。それにな、バスケしてる時の響はちょっとカッコいいぞ。観る価値はある」

「……響……ちゃん」


 僅かに表情が明るくなった。どうやら正解だったようだ。半ば強引に手を取ると歩き出す。夕月のために電話をかけたのだが……


 実は楓もワクワクしていた。


 その様子が夕月にも伝わったのだろう。クスクスと笑っている。


「……楓……遊園地より……楽しそう」

「まあな! ワクワクするだろうが! 観ればおまえもわかる」


 早足で、だが夕月の歩幅に合わせて。2人は市立体育館へと向かう。








 ◇ ◇ ◇



「おーい! こっちこっち!」


 手を振っている陽に気付くと近付いていく。2Fの観客席。練習試合なのにそれぞれのチームの応援団で思ったより席は埋まっていた。どうやら席を確保してもらったのは正解だったようだ。


 地元の小・中学生だろうか。ジャージ姿の見物人も多い。


「間に合ったか?」

「まだ始まってないぞー! セーフセーフ! ……って夕月さんめちゃくちゃ可愛いね!! やばすぎでしょその格好」

「やかましい。静かにしろ」

「……ふふっ」


 陽の底無しの明るさが今はありがたい。それと試合前のこの空気。なんとも言えない高揚感が込み上げてくる。きっとそれは夕月も同じだろう。


 3人で並んで座るとそれに気付いた響が観客席に近付いてきた。


「えー!! なになに!? 夕月ちゃん観に来てくれたの? 楓は帰れ」

「黙れゴリラ女。下手なプレイしてみろ。野次飛ばしてやるからな」

「それ私に言ってんの? ま、見てなって!」

「……がんばって! ……響ちゃん」

「まっかせなさーい!! カッコいいとこ見せちゃうからね!!」


 自信満々の笑顔を見せると軽く手を振ってからアップに戻っていった。手を振り返す夕月も満面の笑みだ。


 タイマーの表示が3分を切った。間もなく試合開始である。


「せっかく楓きたからさ、解説してくれよ。詳しいんだろおまえ」

「まあな。響に飽きるほど見せられたからな。普通よりは詳しいぞ、というかNBA観るのが趣味になったまである」

「はは! 響らしいな、巻き込まれたのか!!」


 響に教えられたバスケのルール。基本的なところは勿論、ディフェンスの種類、オフェンスのナンバープレイなどなど。一般人よりは無駄に詳しくなってしまった。

 まあ楽しめているので全くの無駄というわけではないが。


 そうこうしていると試合が始まる。第1クォーター、最初の10分だ。

 基本的にはクォーター制である。10分の4クォーター。合間にハーフタイムなど間隔が入る。


(ふーん。響のチームはマンツーマンか、相手も同じ)


 マンツーマンディフェンス。それぞれの選手が決まった相手を守る。ゾーンディフェンスなどもあるが今回は両チームともマンツーマンだ。


 響はポイントガード。要は司令塔だ。ボールを運びパスを回す。勿論隙があれば自らも得点に絡んでいく。


 試合は序盤は得点の取り合いとなった。開始直後でバタバタしていることもあり両チームが得点を重ねていく。響の得点はスティールからの速攻で2点だけ。慌しいまま第1クォーターは終わる。


 16―18


 響のチームがリードを許す展開となった。


「うーん。相手強くないか? いや全然わからないんだけどな」

「ま、見とけよ。第2クォーターからはちょっと変わるぞ多分」


 2分のタイムを挟んでから第2クォーターが始まる。


 様子が変わってきた。どちらのチームも得点が入らないのだ。無得点のまま2分が過ぎた。


「なんか得点入らなくなったな」

「……静か」

「そうだな。それでいいんだよ。完全に響の時間だ」


 響がマークしているのは相手の得点源のフォワード。腰を落とし張り付くと自由にさせない。そのディフェンスに相手もイライラしているようだ。


「見とけよ。あいつは局所的にマンツーマンプレスってディフェンスをするんだ。要は自分のマークしている選手以外にも目を光らせている」


 マンツーマンはボールを持っている人がどこにいるかで位置取りが変わってくる。仮に味方が抜かれた場合ヘルプに行ける位置。響の場合はその距離を普通より長く取る。そして。


 味方がマークしている敵選手が中に切り込もうとする。それを背後から追っていく。


「で、あんな感じで敵選手は切り返しでターンをするわけだ。そこを狙う」


 ロールしたところに合わせてスティール。ボールを奪うとそのままゴールへ。こうなると才能も糞も無い。目の前に誰もいないコートを真っ直ぐゴールまで。


 ゴールを決めるとそのまま腰を落としてまたディフェンスへ。ファールぎりぎり、攻めるように圧力をかけていく。だがハーフラインを過ぎたあたりで抜かれてしまう。


「……あ……抜かれ……ちゃった」

「いや、まだだ。甘い」


 後ろからボールに向かって手を伸ばす。またもやスティール。ルーズボールは味方が拾い、既に響は相手ゴール下。パスを受けるとそのまま決める。そのままディフェンスへ。1人だけオールコートでマンツーマンを続ける。


 脚は止まらない。そのために必死で走ってきたのだ。


 相手を自由にさせない。オフェンスにセンスが無いのなら、ディフェンスからスティールしてファーストブレイク。これなら才能なんて関係無い。相手が守る前に決めてしまうのだ。それが響の出した答えだった。


「な? バスケしてる時のあいつはちょっとカッコいいだろ?」

「……うん! 響ちゃん……凄い!」

「凄いな響! なんていうか、とにかく凄い!」


 その後も響の集中力は切れない。シュートを全て防ぐことは勿論できない。だが体勢を崩して楽には打たせない。リバウンドは背の高い味方に任せ前線へと走る。ファーストブレイク。面白いようにこれがハマる。


「あいつは俺と一緒に走ってきたからな。スタミナが段違いだ。40分ぶっ通しで走れるはずだ」


 味方選手が抜かれても恐ろしい早さでヘルプに飛んでいく。ダブルチームで挟むとボールを奪う。すぐさま前を走る味方へ繋いでいく。流れるような速攻はチームとしての連携が取れている証拠。


「あれは3線速攻って言ってな。連携取って流れるように点を取るんだ。セットオフェンスより効率がいい」


 その後は一方的は展開になった。終わってみると圧勝。



 最終スコアは78―35



 ダブルスコアで響のチームの勝利。終わってみると一方的な展開となった。響がマークしていた敵のエースは6得点。完全に封じ込めた形になった。


 試合後響は楓達に近付いてきた。


「どーよ?」

「響カッコよかったぞー!!」

「……カッコいい!」

「へへ! でしょー!?」


 ドヤ顔でVサイン。その様子がどうにも気に入らない。


「ターンオーバー(ミスしてボールを失うこと)3。ボックスアウト忘れが3。それとセーフティが遅い」

「……チッ。見てたかやっぱり。反省してるわよ!」

「あの程度の相手にミス多すぎだろうが猛省しろ」

「ぐっ……ムカつく男!」


 悔しそうな顔をしている響を見て、陽も夕月も苦笑する。


「今日は片付けして終わりだからさ、皆ちょっと待っててよ!」

「夕月の弁当回収して食う予定だけどおまえらも来るか?」

「え!? 行く行く! でも量足りないでしょ? 途中どっかで買って行こうよ!」

「ははっ! それいいな! 楽しそうだ」


 隣の夕月に目をやると楽しそうに笑っていた。その笑顔を見て楓は胸を撫で下ろした。

面白いと感じていただけましたら、下の評価欄から評価いただけますと幸いです。


それを励みに頑張ります!

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