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38 夕月は遊びたい

 

 屋内プールはやはり外より快適である。日差しが無いというのは女性には魅力的であり、そのせいか客層は女性客の割合が高いように思う。

 夏休みということも手伝い普段よりは客も多い。


 5人は早速プールに遊びに来ていた。もっとも楓は遊ぶ気などさらさら無い。プールというのは泳ぐ所であって遊ぶなど意味がわからない、 とまで考えている。


 楓と陽は既に水着に着替えている。トランクス型の一般的な水着だ。陽がブーメランパンツを選ばなかったことに安堵する。


「響達遅いなあ。……って何してんの楓?」

「準備体操に決まってんだろうが。何しに来たんだよおまえは」

「むしろ楓が何しようとしてんだよ……」


 泳ぐ気満々なその姿を見て陽も顔が引き攣る。


「なんか見られてねえか? 鬱陶しいな」

「ははは。気にしないほうがいいぞ。慣れだよ慣れ!」


 女性客はタイプの違う2人の男が気になるようだ。 1人は正統派のイケメン。身体の線は細めでいかにも女性ウケがいい。

 もう1人はキツめの目つき。だがよく見ると顔は整っている。そして鍛え込まれたその身体。


「ねえねえ。高校生だよね? 私達もなんだー! よかったら一緒に遊ばない?」

「あ? ここは遊ぶ所じゃねえよ」


 陽は、腹痛い! と横で爆笑している。


「ふふっ、何それ! 君面白いね! ね、あっち行こうよ」


 落ち着いたのか陽は間に入るように楓の前に立つ。


「ごめんねー! 俺達彼女いるんだ。待ってるだけなんだよ。ほらあの2人」


 指差した先には水着姿の夕月と響、そして天使。その姿を見て唖然としていた。「ご、ごめんね」と逃げるように走り去った。

 予想通りというか当然というか……3人に集まる視線は物凄い。女神降臨みたいな感じだろうか。ささっと道が開く。


「はい!! 感想どうぞ!!」


 胸を張る姿には恥じらいなど一切無い。海色のビキニは彼女の天真爛漫な雰囲気とよく合っている。存在感を主張する豊満な胸は、男性客を虜にするのは容易いだろう。余程楽しいのか緑色の瞳はキラキラと輝いている。


 一方夕月はというと。意外にも白のビキニ姿。これまた最上級の破壊力である。小柄であるのに胸は大きめ。幼さの残る表情と小柄な体格。そこに不釣り合いな胸とくれば、そのギャップに射抜かれるのは必然。おまけに大きな瞳には恥じらいの色が見え庇護欲を掻き立てる。真っ赤な顔は見られている事が恥ずかしいが故だろうか。


 まさに大量破壊兵器。


「響。すっごく綺麗!!」

「お兄ちゃんには勿体無いねー!! でも響ちゃんがお姉ちゃんになるのかあ。お兄ちゃんはいらないけど響ちゃんだけうちに来てー!」

「そ、そんなことないだろ陽凪。お兄ちゃんは必要だと思うぞ。な?」

「いやー陽凪ちゃんがあまりに可愛くてさ! 話してたら遅くなっちゃったよ」


 陽凪は夕月に抱きついて離れない。そのままずっと抑えておけと心の中で応援する。


 が、その想いも虚しく、陽凪は陽と響の手を取ると強引に連れて行ってしまった。去り際に「楓くん頑張って」と小声で言われた。響もひらひらと手を振っていた。


 年齢詐称しているのだろうか。陽凪は見事に空気を読んだようだ。楓からすると正直どうでもいいことではあるが。


「……楓……私は? ……感想…………早く」

「普通に可愛いぞ」

「…………それだけ?」

「他に何て言えばいいんだよ。知るかよ」


 むう、と頬を膨らませてそっぽ向く。ご機嫌斜めのようだ。後ろからシャツを被せた。


「……ふあ?」

「着とけ」

「……どうして?」

「分かれ」


 首を傾げてきょとんとしている。だが意味が分かったのか急いでシャツを頭から被る。ニコニコと手を伸ばしてきた。


「おい。離せよ。泳げねえだろうが」

「……断る」

「真似するな」


 腕組みをしてきた夕月はご満悦だ。周りの男性客からは羨望の眼差し。意図せず釘を刺す形になった。面倒臭いナンパ連中が避けられるなら腕組みぐらいいいかと諦める。


「そういやおまえ泳げるのか?」

「……嗜む……程度」

「なるほどカナヅチか」

「……そうとも……言う」


 楓は思う。人を背負って泳ぐというのは可能なのだろうか。少なくとも簡単ではない、それはわかる。だが夕月というちょうどいい人材が横にいる。ならば試したくなるのも仕方ないのではないか。


(さすがに自重しとくか。普通に泳いだほうがいいな)


「俺は泳ぐけど夕月はどうする?」

「……1人で……泳ぐの?」


 不安そうに見つめてくる。おそらく泳げない夕月は楓を見ているだけになってしまう。その間は必然的に1人にしてしまうという事で……


(くそ。そうなるのか)


 不埒な考えで夕月に近寄ってくる連中は気に入らない。そんなことを考えていたら結論は出た。


「……はあ。わかったよ! 今日はジムにも行くしな。おまえに付き合う」

「…………へへ」


 嬉しそうなその顔を見てると、仕方ないなと思ってしまうのは惚れた弱みなのかもしれない。


「まあそれはいいけどよ。泳がねえなら何すんの?」

「……あれ」


 指差した先にはウォータースライダー。順番待ちで並んではいるが、進み具合を見るとそれほど待ち時間は長くはなさそうだ。


 パタパタと足を動かして早く早くと急かしてくる。結局、引っ張られるように順番待ちの列に並ぶ。


「上から滑ってくるのは楽しいのか?」

「……楓が……いれば……全部楽しい」


 その不意打ちは意外と楓に効果があったようだ。夕月は何回も見た。照れを隠すようにそっぽ向く癖。少し赤くなったその横顔を見るのが堪らなくうれしい。


 楓の腕を胸元で抱え込むように密着する。素肌が触れ合い体温が伝わる。意外にも楓は嫌がる素振りを見せなかった。


 数分待っているとようやく順番が回ってきた。


「で、ここから滑って行けばいいんだな」

「……そこ……座って……脚広げて」

「ん? こうか?」


 夕月はその脚の間にちょこんと座る。


「なにやってんのおまえ」

「……カップルの……義務」

「んなわけあるか。どけ。……お、おい!」


 夕月は楓の両腕を自分の胸元に持ってくる。後ろから抱きしめるような体勢になった。


 そして有無を言わさず滑り降りる。




「おまえなあ。やりたい放題しやがって」

「……楽しかった」

「……ったく、仕方ねえ奴だな本当に」


 楽しそうな顔を見ていると怒る気にもなれない。苦笑しながら眺めているとひそひそと声が聞こえてきた。


「いいか陽凪。あれがバカップルだ」

「お似合いだねー! 夕月ちゃんかわいー!」

「ぷっ! 楓デレデレしてるじゃん。気持ち悪っ!」


 ニヤニヤした響、シスコン、天使が後ろにいた。




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