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29 夏の夜に向けて

 

 喫茶店に少女が2人。

 向かい合わせに座っている。


 まったく違う種の美人が店内にいる。しかも2人とも信じられないほど容姿が整っているときた。

 男性客から視線を集めるのは半ば必然、声をかけてくる者も最初はいた。最初は。


『あのよければ俺達も相席してもいいかな? 君達本当に綺麗だよね。びっくりしたよ』


 爽やかスマイルの雰囲気イケメン3人組が近寄ってくる。しかしこれを一蹴。

 脚を組み、腕を組み、品定めするように男達を見る。


『お断りね。あんたらじゃ釣り合わない。出直してきな雰囲気イケメン3人組』

『うわー、強気な女の子っていいよね! ますますタイプだよ』


 なかなか引き下がらない男達に止めを刺す。


『まずあんた。ワックスつけすぎ。なにそれハリネズミ? 地面にナンパしたら? よく刺さりそう。次にあんた。眉剃りすぎ。なに目指してんの? ボクサーにでもなる? あ、でも無理だね弱そうだし。1Rもたないね、ご愁傷様。最後にあんた。臭い。それ香水? 近寄るな鼻が腐る。お風呂入ってから出直してこい。まあ体臭もやばそうだから無意味だけど』


 容赦の無い言葉の刃が男達に突き刺さる。


 ある者は呆然としている。ある者は顔が引き攣り絶句する。ある者は今にも泣きそうな様子で引き下がる。


 とまあ、このような光景を見せつけられたら、もうナンパをしようなどという勇者は出ないであろう。


 そう夏目響である。


 向かいには夕月。


 珍しく夕月から響に相談がある、ということで今2人で喫茶店にいるわけだ。


「やっと静かになったね。鬱陶しいわ本当に」

「…………響さん……すごい」


 胆で黙らせた響の姿。自分には無い物を持っているその姿は夕月にはキラキラと輝いて見えた。


「せっかく夕月ちゃんにお呼ばれしたのに、バカ男の相手なんかしてらんないよね。それで何の相談? 楓絡みかな?」

「…………これを」


 交換日記の最後のページを開く。


「これが例の交換日記か。あの男本当にやってたんだ。で、なるほどねー。また厄介な」


 中身を見ながら響は考える。


『好きな男性のタイプは?』


 仮に楓とまったく正反対の人物の特徴を書いてみる。楓が嫉妬することを狙って。


(うん。ありえない。あのバカは字面通りに受け取る。むしろ応援するまである)


 では次に楓の特徴を並べてみる。


(ダメだ。キャラが濃すぎてどんだけバカでも気付く)


 なんと厄介な。楓は面倒くさい爆弾を落としていったようだ。


「これはもう、あれじゃない? 優しい人とかそんぐらいで軽く返したほうがよくない? ていうかその前の夕月ちゃんの質問に答えてないのが腹立つ」

「…………優しい人」


 そうする、と小さく呟く。消え入りそうな声はいつもの元気が無い。その姿を見た響もいたたまれない気持ちになる。


(あの男。殴りたい)


 だんだんとイライラしてきたのか、指でタンタンとテーブルを叩き始めた。周りの男達がビクッとしている。


「夕月ちゃんはさ、楓がいいの?」

「…………うん……楓じゃなきゃ嫌」


「そっかあ」と短い返事を返す。


「あいつ面倒臭い奴なんだけどさ。最近変わった。他人の事を考えるようになった。昔はね……酷かったんだよ。本当に誰も寄せつけないの。俺の邪魔をするな、って感じ」

「でもね。少し優しくなった。夕月ちゃんを見る目は優しいの。むかつくけど。楓が変わったのは間違いなく夕月ちゃんの力だよ」

「…………そう……だといいな」


「そうなの!」と夕月のおでこを軽く突く。


「そっか。焦る必要は無いのか。楓と夕月ちゃんはお互いが必要としてるもんね。適当に書いて返しておきなよ。あいつが何を思おうが、どうせあいつには夕月ちゃんしか残らない」

「…………うん」


 少し表情が明るくなったのを見て響も安心する。同時にやはり楓に対して怒りが沸々と湧いてくる。


 どうしたものか、何かガツンとやれないか、と考えていたら1つ思い付いた。


「夕月ちゃん……明後日の夜ってもしかして楓と一緒に夏祭り行く、なんて約束してたりする?」

「…………ふあ? エスパーさん」

「当たりだね。だったらね、これ以上無いぐらい可愛くしてから行ってみたら? それこそ直視できないぐらいのレベルに仕上げて」

「……私……そんなに……可愛くないよ?」


 それが日本中の女性を敵に回す発言だと気付いていない。本当にそう思っているのだろうか。いや、多少の自覚はあるのだろう。ただその自覚が足りないというだけであって。


 自信無さげに俯く姿を見て響は口元をほころばせる。そして決めた。夕月を誰よりも可愛く仕上げて楓を驚かせてやろうと。そうすれば少しは楓も自覚するだろうと。


「夕月ちゃん。あたしに任せて。死ぬほど可愛くしてあげる」

「……任せる……ありがとう……響ちゃん」

「初めて()()()付けで呼んでくれたね! うれしいよ」


 あわわわと慌てる姿が愛らしい。相手が楓というのが癪だがこの際仕方ない。そう響も納得する。


(ほんとあのバカには勿体無い。こんなに可愛い子いないよね)


 大きくため息をつくと、甚だ不本意ではあるが、2人が結ばれますようにと心の中で祈った。





 ◇ ◇ ◇



 夏祭り当日の夜。


 ジャージに着替え、さあ行くかと思っていたところチャイムが鳴った。

 ドアを開けるとそこに立っていたのは紙袋を持った陽。


「陽か。どうした何か用か?」

「……楓、これから夕月さんと夏祭り行くんだろ?」


「ああ」と頷く。


「いや、その格好ダメだから。よかったよ響から聞いておいて」

「あ? どういうことだよ」


「いいからこれに着替えろ」と紙袋を押し付けられた。


「ジャージでいいだろうが。どこでも走れるぞ」

「おまえは屋台に囲まれている中を走るのか?」


 呆れたような顔を見せる陽。楓の背中を押して部屋に戻すと早く着替えるように急かす。


 納得がいかないが陽の顔が真剣だったため渋々従うことにした。


「めんどくせえな。これでいいのか?」


 少し余裕のある黒スキニーパンツ。トップスは白無地のVネックのシャツにサックスカラーのデニムシャツ。

 背丈もあるしスタイルもいいのでシンプルな格好が楓にはよく映える。髪も軽くセットしてもらった。


「うん! 完璧! んじゃ行ってこいよ。俺と響も行くけど遭遇しても無視して消えるからな。よろしく」

「は? どうせなら4人で行ったらいいじゃねえか」

「俺も響と2人がいいんだよ。察してくれよ」


 ああそういうことかと納得する。考えてみれば付き合い始めの2人だ。2人だけの時間を邪魔するのは野暮かもしれない。そう考えると納得できる。


「なるほどな。じゃあ俺もおまえらと会っても素通りしとくわ」

「ああ、そうしてくれ。それと……夕月さんと会ったらきちんと褒めてやれよ?」

「は? 何をだよ?」


「行けばわかる」と背中を押されながら部屋から出た。


 用が済んだのだろう。軽く手を振るとそそくさと帰っていった。何を急いでいるのか。


(とりあえず夕月迎えに行くか)


 夕月のもとへ向かう。途中見上げた空は雲ひとつ無い。今日は綺麗な星空になりそうだ。



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