28 姫、手を所望す
GW中はストック分を手直しして載せていきます。
良ければ読んでみて下さい。
様子がおかしい。
陽と響がなにかおかしい。
ロードワークを終えてクールダウンをしながらそう感じた。楓の家の前に着くと、響が少し躊躇いながら陽の手を握る。
「こういうことね。あたしが貰った」
「は? 何言ってんのおまえ」
皆が「うわあ」という視線を楓に向ける。
普段とは違う響の顔を見ると、なぜか夕月が顔を真っ赤にしてあわあわしている。落ち着きがない。
「付き合うことになったんだ。さっき告白……いや脅迫。それとも押し売り……まあそんなとこ」
「なによ? 文句あるの?」
「はは、無い無い」
なるほど。2人は恋人関係になったらしい。言われてみるとお似合いではある。容姿も性格もバッチリ嵌っている。美男美女の組み合わせだ。響の性格からして人前ではベタベタしないだろう。
ただ陽も相当苦労するな、とは思った。
「…………おめでとう……いいなあ」
「ありがと夕月ちゃん! 夕月ちゃんも、ね?」
「夕月ならその気になればすぐできるだろ。おまえとは違う」
「あ、あんたねえ!! 死ね!!」
「いきなりなんだよゴリラ女」
まあまあと陽がなだめる。なぜ響が怒っているのか意味不明である。それともう1つ、夕月も頰を膨らませてご機嫌斜めだ。
女性陣2人に睨まれそれでも楓は全く怯まない。傍若無人な態度は自分が悪いなど微塵も感じていない。
「陽はいいのか? こいつ見た目は最上級クラスだろうけど中身に問題あるぞ」
「お、お、おまえが言うなあ!!」
「うーん。でも響は中身も可愛いよ。男らしく見えるけど意外に女性らしい面が見え隠れするというか。そういうギャップって堪らないよね」
「ち、ちょっと……なに言って……」
夕月は両手で顔を覆うと、それでも指の間から2人を見て「はわわわ」と顔を赤くしている。意味がわからない。
「よくわかんねえけどよかったな。別れねえように頑張れ」
「楓もだよ? 彼女欲しくないのか?」
「うーん……別に欲しくねえな。こいついるし」
夕月の頭に手を乗せる。一瞬うれしそうにしたと思ったら途端に不機嫌な表情に変わった。
「はあ……本当に夕月ちゃんに同情する」
「楓は一ヶ月ぐらいボクシング離れたほうがいいと思う」
皆から軽蔑の色が少し混じった視線を向けられる。意味がわからない。心外である。
朝のロードワークが終わると響と陽は帰っていった。響の小言を笑顔で軽く流す陽。軽い喧嘩をしているように見えるがそうではない。なぜならお互いの手は指を絡めて固く繋がれていた。
キツめの目を向けながらも頬は朱に染まっている。響のくせに少しだけ可愛いと思った。
「……楓…………羨ましい?」
「どうだろうな。よくわからん」
本音だった。色恋沙汰と無縁であったため何が正解で何が不正解なのかわからない。そもそも正解や不正解などあるのだろうか。
愛しい。愛している。どのようなものなのだろうか。夕月に対しての想いとは違うのだろうか。
わからない。
真剣に考えているその姿を見て、仕方ないなあといった様子で夕月は笑う。
「…………いいよ……わからなくても」
「そんなもんか?」
「……うん……私が変えて……あげるから」
「なんかよくわからんが、じゃあ頼む」
小さく頷く。機嫌は回復したようだ。いつもの夕月に戻りひと安心である。
「……朝ごはん……作るね」
「作るっていってもそんな材料ねえぞ」
自転車のカゴを指差している。ロードワーク中は入れていなかったから気付かなかった。どうやら持参してくれていたらしい。
「そうか、悪いななんか。いつもすまん」
「…………楓に……作るのは……好き」
下から見上げるように見つめてくるその瞳はとても綺麗だった。他の表現が浮かばない。ただただ綺麗だった。
「おまえって本当に可愛いよな。びっくりするぐらい美人でビビる」
「……な……何言って」
「バカ!」と先に歩いて行ってしまった。楓も苦笑しつつ後を追う。
◇ ◇ ◇
軽めの朝食を一緒に取った後はコーヒーを淹れてぼーっとしていた。
「忘れるところだった。ほらよこれ」
交換日記を目の前に出す。それを見るや否や飛びつくように近寄ってきた。だが完全にはまだ手を離さない。
「……は…………離すのだ」
「おまえ。すぐ開こうとしてるだろ?」
「……うむ」
予想通りである。この少女は書いた本人が目の前にいても躊躇なく開く。というか前に開いた。
今回はそうはさせないと楓も策を練っていたのだ。
「だめだ。これは帰り際に渡す」
「…………なんで?」
「とにかくダメだ」
「…………むう」
プンプンしている。体全体で怒りを表現している。新種の阿波踊りだろうか。
ひとしきり暴れた後は、諦めたのか隣に座ってきた。
「部屋は狭いがスペースはまだ残っている」
「……うん」
「おまけにうちはエアコンも付いていない」
「……うむ」
「近寄るな。暑い」
「……断る」
そんな言葉もまるで聞こえていないようにニコニコしながら手を握ってきた。
単純に暑いので振りほどいて手を上げる。
「……うぎぎぎ」
座ったまま手を伸ばすが勿論夕月では届かない。すると頰を膨らませて無防備な身体に思い切り抱きついてきた。
「やめろ! おい! 暑い!」
「……ならば……おとなしく……手を差し出せ」
はあ、と諦めたように右手を差し出す。すると待ってましたと言わんばかりにすぐに握ってくる。そのまま繋いだ手を自らの太ももの上に置くと、それを眺めてニコニコしている。
(なにが楽しいんだか……まあいいか。幸せそうな顔だし悪くない。暑いが)
どうしようもないので好きなようにさせる。別に害は無いのだ。暑いだけで。
「……始めから……こうすれば……いいの」
「はいはい。悪かったよお姫様」
こういう空気もそんなに悪くはねえなと思った。
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