15 陽は欲しい
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さて、今回は陽くんがちょっと動きます。
――月曜朝。
朝4時に起きた楓は日課のランニングをしている。休養明けのため気合いは最高潮だ。動物園で昔のことも思い出し、それもプラスに働いている。今すぐサンドバッグを叩きたい。なんなら陽でも構わない。
基本的に練習は全力で自分を追い込む。10Rを全力で打ち合えるスタミナを想定しているため練習生の練習量では無い。
それでも目標は遥か先に霞んでいる。努力は決して惜しまないと決めていた。
いつもより捗ったランニングに満足しながら帰宅する。シャワーを浴びて軽めの朝食を取って登校。いつもならここまでが一連の流れとなる。
帰宅して家のドアの前を見て狼狽した。交換日記と書かれたノートを抱きしめるように体育座りで寝ている少女。
「おいこら起きろ」
おでこを軽く突く。
「…………いたい」
「いたいじゃねえよ、なんでここにいるんだ夕月。登校にしてもまだ早いだろうが」
「………なまえ…うれしい」
聞いてないなこいつと思い、ほっぺを両手で引っ張る。
「おい、答えろ。なぜここにいる?」
「……あ…あひゃ……ほはん」
指を離す。
「………いたい」
「おまえが悪い」
「…………あさごはん…つくる…のだ」
どうやらわざわざ朝食を作りに来てくれたらしい。右手には多少の食材が入ったビニール袋を持っている。楓としてはありがたい話なのだが、色々と聞いておかないといけないこともある。
「ありがたい話なんだけどよ、家族とか大丈夫なのか? 結構早い時間に出てきてんだろ?」
「………それは…大丈夫」
その表情を見て後悔した、迂闊だった。夕月の瞳はあの日に見た時と同じ、無機質で感情をどっかに置いてきたかのような暗い瞳。
「悪い。配慮が足りなかった」
「……………楓は…わるく…ない」
少しだけ元の笑顔が戻ってきたようで安心した。
「まぁそれでもだ。まだ薄暗い朝に1人でここまで歩いてきたんだろ? 普通にだめだろ」
「………歩いて…ない…自転車」
ドヤ顔で自転車を指差している。そういう問題でもない。
「そういうことじゃねえ! まったく!」
「……………楓…心配?」
「当たり前だろ」と言うと「……そっか」と呟く。頬がピンク色に染まりどこかうれしそうだ。
それでも来てしまったものはしかたがない。中に入れると台所へ駆け寄っていった。
制服の上着を脱ぐとエプロンを身につけ、鼻歌を歌いながら支度を始めた。
楓はと言うと着ていたものを脱ぎ始める。下はさすがに脱がないが、この男に遠慮などは無い。
上半身裸の楓を見て、面白そうに夕月は近付いてきた。楓の胸板にそっと触れる。
「…………かたい」
「おう、鍛えてるからな。ボクサー舐めんなよ?」
ボクサーは身体を見られることに慣れている。当然のことだが試合では服など身につけない。鍛えた身体のみで戦うのだ。
楓の身体を見ても恥じらう様子は無い。というより耐えている感じだろうか。実は顔は赤い。
「…見るの恥ずかしいんなら無理に見るなよ。なにがしたいんだおまえは」
「……………ずっと一緒…だから…慣れないと」
「そうかよ」と楓はそっぽ向く。話題を変えようとテレビを付けた。土日の県内ニュースが流れている。
『連休は動物園が大盛況! 市内の園児達も笑顔で大満足です!』
笑顔の子供達が動物と触れ合っている様子が映し出された。なにげなく見ていると映像が切り替わる。
「………………あ」
よく知っている男が仲睦まじい様子で、幼女と手を繋いでいる場面だった。
「おまえはなにも見ていない。いいな?」
「………………藍原さん」
◇ ◇ ◇
「……楓は…普段……何食べてるの?」
「冷蔵庫開けてみろよ。わかるだろ」
夕月は恐る恐る冷蔵庫を開ける。中に入っているのはサラダ、納豆、牛乳、オレンジジュース、ササミを調理済みのパックなど。冷凍庫には食パンやいくつかの冷凍食品が入っていた。
「…………割と…しっかり者」
「料理はしねえけどな。閉店間際のスーパー行けば半額のサラダとか色々あるし困ってねえ」
トレーニングに時間を回したいから料理などはまったくやらない。それでも自分なりに栄養バランスは考えているのだろう。
「……………1人は…寂しく…無いの?」
「おう。寂しくないぞ。俺は1人でも走り続ける。それだけだ」
ぶっきらぼうだが純粋で一途。目標に向かって真っ直ぐ進む姿は夕月には眩しく映る。だから何か手伝いたいと思ったのだ。
「……今日は……私が…作るね?」
「んじゃ頼むわ」
背を向けてシャワーを浴びにいった楓は夕月を見ないで返事をする。その背中を見て口元をほころばせた。
シャワーを浴びてタオルを被りながら戻ってくるとテーブルに朝食が用意されていた。
「マジか。早くねえか?」
「…………作ったの…持ってきた…から…調理は…少しだけ」
サンドイッチやマフィン、ひき肉入りのオムレツなど洋食のようだ。品数も多い。きちんとした朝食を取るのは久しぶりだ。温かい料理はやはりいい。テーブルを挟んで二人で座ると早速食べ始める。
「いただきます」
「…………どうぞ」
「うん。相変わらず美味い。料理人でも目指したらいいんじゃねえか?」
「…………主婦…希望…である」
「働け」
夕月なりの冗談なのだろう。なぜ恥じらいの顔を見せているのかはわからないが。
◇ ◇ ◇
朝食を終え、片付けも済ませると一緒に家を出る。
歩いているとチラチラと夕月が見てくる。視線の先は主に楓の右手。
「だめだからな?」
「……………むう」
ご不満のようだ。夕月はため息をつくと、仕方ないなぁという顔をして楓の服の裾をそっと掴む。ご満悦である。
「おい! 今登校中な?」
「…………うむ」
だから何? という顔。夕月は自分がどれだけ周りに影響があるのかきちんと理解できていない。
もうこの反応にも慣れてきたのが怖い。好きにさせて学校へ向かう。
途中で幼女使いと遭遇した。
「幼女使い」
「第一声でなんてこと言うんだおまえは!」
「大丈夫だ。俺は差別的なことは思っていない」
「はぁ、もおおお! 嫌だこんなの」
「…………牛さん」
「冗談だよ」と楓が言っても「冗談に聞こえねえんだよ!」と必死だ。心外である。
本人は気付いていないようだから、テレビで映っていたことを説明する。硬直していた。
「え? マジで?」
「おう。夕月も見たぞ」
コクリと頷く。
「もう嫌だ。俺彼女作るもん」
陽はこの世の終わりのような顔でボソっと呟いた。
「楓! 俺彼女作るからな! 応援してくれるよな!? なぁ!?」
「お、おう。がんばれ」
あまりの勢い承諾してしまった。「言質取ったからな?」と睨む陽は何を企んでいるのやら。
背伸びをした夕月は陽の頭を優しく撫でている。その姿はとても哀れに見えた。
◇ ◇ ◇
授業終了のチャイムが鳴る。
「よし!今日はここまでだ。神代! おい神代起きろ!」
ゆっくりと身体を起こす。
「…おはようございます」
「はいおはよう! 放課後生徒指導に来い。ちょっと用事がある」
あずみはそう言って教室から出ようとした。少し考えて「ていうか寝るな!!」と足してから教室を出る。
さすがに周りの生徒にいる中では寝ていたことを注意しないと示しがつかない。そういうことだろう。
◇ ◇ ◇
――昼休み。
今日も夕月は多めに弁当を作ってきてくれたようだ。お裾分けに感謝しながらいただく。
「それでだ。本題に入っていいか?」
「よくわからんがいいぞ」
夕月も小さく頷く。
「彼女が欲しい! だから他のクラスの女子を集めて合コンを計画した」
「そうかがんばれ。てか合コンって何?」
「男女が集まって楽しく会話する場所だ」
「ふーん、つまんなそうだな」
陽は夕月の様子を慎重に伺っている。
「でだ、楓も来てほしい。メンバーが足りない」
「は? 行くわけねえだろ頭おかしいのか?」
「今朝協力するって言ったよな? 服も選んでやったよな? 恩を返せ。ゆ、夕月さんどうかな? 怒る?」
夕月は反対すると思っていたらしいが、意外な反応が返ってきた。
「………いいんじゃ…ないかな?」
「え? いいの?」と気の抜けた声を出す陽。
「………多分…大丈夫だと…思うよ…でも一応心配…だから…私も行く」
「意外な反応だなぁ。それはさすがに予想してなかった」
「…行けば…わかる」と一言。
こうして陽に彼女を作るため合コンが開催されることになった。
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