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1 意外な所で出会いは突然に

恋愛ものはあまり書いたことがありませんが頑張ってみます(。・∀・)


感想などいただけますとうれしいです!

 

「はぁ……マジかよ。めんどくせえな」


 時刻は早朝4時半。いつものように日課のランニングをしている。神代楓かみしろかえでは今年から高校生になった。で、なぜ彼がこんなことを口走ったのかというと。


 橋から今にも飛び降りそうな人影が見えたからだ。手を離すと簡単に落ちてしまうだろう。そんな状況に出くわした。


 周りを見ても人影は無い。楓がランニングコースにこの橋を通る道を選んでいるのもそれが理由なのだ。国道が新しく出来たため、この旧道を利用する人はめっきり減った。早朝という時間帯もあり辺りは静まり返っている。


 楓は自身を善人ではないと思っている。自殺したい人はそれなりの理由があって自らの命を絶つのだろう。それを耳心地のいい言葉で引き止めようなどとは間違っても思わない。だが今まさに飛び降りようとしているのは自分と同年代ぐらいの少女だろうか。


「――ああ! くっそ!!」


 死にたいなら自由にすればいい、それも人権だとまで思っているが目の前で実行されるのはどうも寝覚めが悪い。このランニングコースも重宝しているし、トラウマになるのもごめんだ。


 楓は少女に気づかれないようにゆっくりと近づいていく。下手に声をかけて手を離されても困る。だがタイミング悪く少女は手すりから手を離した。ゆっくりと谷底へ落ちていく、はずだったがその手を楓はギリギリで掴んだ。すぐに両手で掴むと一気に引き上げる。


「ハァハァ……おい、大丈夫か? 決意して飛び降りたところを邪魔して悪かったな。とりあえず話をさせてくれ」


 少女は小柄だった。歳は楓と同じぐらいだろうか。俯いているため顔はよく見えない。何か反応するのを待っていたらゆっくりと顔を上げた。


 控えめに言っても美人。肩ぐらいまで伸びた艶のある黒髪。透き通るような白い肌。長い睫毛に覆われた大きな瞳。顔のどこを見てもよく整っている。よくも神様はこれほどまでに贔屓できたものだ。楓がこれまでに見た異性で一番じゃないかと思ってしまうほど。テレビの中のアイドル連中よりも明らかに上である。


 だからと言って楓が興味を持つことは無かった。周りの高校生は青春を謳歌している。だがそれより優先するべきものがあったからだ。


 少女はじっと楓を見つめるだけで話そうとはしない。相変わらず無機質な瞳でこちらを見ている。


(ん? こいつどっかで見たような。……まぁいいか俺には関係ねえな)


 少女に手を差し出す。だが反応は無い。ずっと黙り込んだままである。このままでな埒があかないと思い、強引にその手を掴み立たせる。そしてそのまま歩き出した。


 橋の終点。脇にあるベンチに座らせると缶コーヒーを二本出した。微糖と無糖。好みなど知らないから選ばせる。


「ほら、好きな方飲め。少し落ち着け。んで俺の話を聞いてくれ」


 楓の方を一度見ると少女はおずおずと手を伸ばしてきた。微糖が好みだったようだ。


 一緒のベンチに座り黙って飲む。五分程経っただろうか、落ち着いた様子に見えたので楓は話しかける。


「さっきは邪魔して悪かったな。だけどまぁ俺の頼みを聞いてくれよ。この橋はさ、俺のほぼ毎日のランニングコースなんだ。見ての通り車も人もいない」


 少女はキョロキョロと周りを見る。そして頷く。


「だからよ。ぶっちゃけここで死なれると俺も寝覚めが悪いし嫌な記憶が残るんだわ。仮に俺が綺麗事言ってもおまえは考え変えないだろ? だから俺の目に入らないところで頼む。自分本位で本当に申し訳ないが」


 容赦の無い本音をぶちまけた。取り繕っても仕方ないと思った。少女はおそらく自分を軽蔑するだろう。そう確信して反応を待った。


 予想どおりというか、目を見開き唖然として楓を見ている。そして初めて口を開いた。


「……わたしを……助けたのは…………体目当て……とかじゃ?」

「はぁ? 何言ってんのおまえ。そんなもん欠片も興味ねえよ。自惚れてんじゃねえ」


 スローでたどたどしい口調。あまり話すのは得意じゃないようだ。楓の言葉に驚いた表情をしている。ため息をつくともう一度繰り返した。


「いいか。もう一度言うぞ? 死にたいなら止めない。だけど俺の見えないところ、それとできれば別の場所で頼む」

「………あなたは……わたし、に……興味無い……の?」

「無いな。ってことで俺はもう行く。じゃあな」


 一言残してその場を離れる。後ろから「待って」と小さく聞こえた気がしたが振り返らなかった。もう関わることも無いだろうと思ったからだ。








 ◇ ◇ ◇




 自宅であるアパートに着く。1Kの小さな部屋。一人暮らしにはそれで充分であった。


 神代楓。身長は180センチほど。髪は目にかからないぐらいで清潔感を感じる長さ、ある程度整った顔立ちだがその眼光は鋭い。鍛えた身体は引き締まっている。あと目を引くとすれば顔についた生傷であろうか。


 楓はプロボクサーを目指している。同級生は顔の傷を見て距離を取っているのは感じているが、そんなものは自分にはどうでもいい。学校に通いながらプロを目指して励んでいた。軽い朝食を済ませ身支度を終えると家を出た。


 学校に着き教室に入る。自分の席につくと周りからヒソヒソと声が聞こえてきた。これもいつも通りだから気にもしない。


「また傷増えてねえか? どんだけ喧嘩してんだよ」

「こっわ……目つきもなんかやばいし」


 クラスメイトは楓がボクサーということは知らない。だからそう思われるのも仕方ないのだろう。周りに説明するのもめんどくさいので放置していた。黙っていれば害は無いのだから。


「おはよう楓! おっ、また傷増えてんな! 痛そー」

「……朝からやかましい。少しボリューム落としてくれ」


 隣から話しかけてきた茶髪のイケメンは藍原陽あいはらよう。楓よりは少し低いぐらいの背丈に人懐っこい笑顔。その整った容姿とコミュ力の高さで人気者である。名は体を表すとはよく言ったものだ。


 陽は楓の事情を知っている少数の内の一人だ。だから楓にも気を遣わず接してくる。数少ない友人と呼べる人物である。


「パンチ被弾してるってことはまだまだってことだろ? 精進したまえ! はっはっは」

「相手してみるか?」


「暴力はんたーい」と両手を上げて笑っている。これも日常だ。



 席について陽と談笑しているとなにやら教室がざわつき始めた。気にせず授業の準備をしていると陽が話しかけてくる。


「お、おい楓!!」

「なんだよ? だからボリュームを落とせと……」


 顔を上げるとそこには今朝見た女が立っていた。


(こいつ、同じ学校だったのか。どうりで見たことあるわけだ)


「…………おは……よう」

「……おはよ。同じ学校だったんだな」


 コクリと頷く。だが一言挨拶をした後はその場から動かない。ずっと目の前に立ち大きな瞳で楓を見ている。


(なにがしたいんだこいつは)


「―――――。」


 しばらく見つめ合っているとポケットから何かを取り出し机にコトンと置いた。


 無糖の缶コーヒー。


「あげ……る」


 一言だけそう小さく呟くとゆっくりと教室から出ていった。


(なにがしたかったんだあいつは。借りは返した的なやつか?)


 陽がバシバシと背中を叩いてきた。


「おい! なんでおまえが夕月さんと知り合いなんだよ!!」

「そうか夕月ってあいつだったのか」


 小日向夕月こひなたゆづき。この学校では誰でも知っている名前だろう。なぜなら模試の結果が貼り出される度に一番上に載っているのだから。

 あの完璧な容姿に成績はトップときたもんだ。とんでもないな、とむしろ楓は若干呆れている。


 陽に根掘り葉掘り聞かれたが、さすがに自殺現場で会ったとは言えず、街中でたまたま会ったとぼかしておいた。


 小日向夕月。有名な大企業の令嬢であり才色兼備。街を歩くと芸能事務所にスカウトされ、告白を受けることは数え切れない。だが例外なく全て断っているようだ。


 陽もその告白現場を見たことがあるらしい。


「……あの告白現場はエグかった。心折れるわ」




 ――強い決意で告白をした男子。


 ――その男子をずっと見つめ無言の夕月。


 そのまま数分経ったそうだ。無言のままだ。男子はその空気に耐えきれなくなり「ごめん、忘れてください」と立ち去ったらしい。


「なるほどな。それはなかなかにキツそうだな」

「ゴリゴリ削られるよな色々と」


 わざわざ他の教室から会いに来た夕月の行動は、それだけで周りの人には衝撃的だったらしい。「なんであんな奴に」など妬みであろう言葉も聞こえてくる。


 もっとも、正面から楓に文句を言える者など皆無であったが。特に気にもせず貰ったコーヒーを飲むだけの姿を見て陽は呆れていた。







 ◇ ◇ ◇



 下校の時間になり帰り支度を済ませる。教室を出ようとすると話しかけられた。


「楓は今日もジムか? 途中まで一緒に帰ろうぜ!」

「おう。かまわないぞ」


「用心棒ゲット」とガッツポーズをしている。いつから日本は下校途中に襲われる国になったのだろうか。


 他愛も無い話をしながら玄関へと歩いていく。すると何かに気づき「あ」と陽が立ち止まった。


「楓悪い! 用事思い出したから先に帰っててくれ」

「なんだよ急だな。いいけどよ」


「悪い悪い」と両手を合わせてから走って行った。不思議に思いながらも正面をよく見て気づいた。


(……陽。なにか勘違いしてんのかあいつは)


 額に手を当て大きなため息をつく。


 壁に寄りかかり何かを待っている小日向夕月が見えた。

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