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心晴れて、世が開けて  作者: まねたろう
2 家族の温もりに触れたサトシ、母を想い涙する
9/15

2−4

 サトシが入る前、ハロルド達四人が一度に収穫できる魔獣の数はアーウィンとジェリーが一頭づつ背負い最大二頭、メンバー一人当たりの収入は五割だった。二人が運ぶ間、ハロルドは移動中に襲いかかってくる魔獣に盾を構えて仲間が戦闘準備を整えるのを待つ役割を、キースは回復魔術を使えるため魔力を温存しいざという時にはいつでも使えるように準備する役割を担っていた。

 ここにサトシが加わることでパーティの収入は激増した。なんとサトシは三頭背負い運ぶことができたのだ。サトシの報酬をサトシが運んだ分の二割としたがそれでも四人で四頭と四割、十二割も増加することになったのだ。パーティにとって幸運な出会いは、サトシにとってもそうであった。当然だ、サトシの収入六割はサトシが入るパーティメンバーの収入である五割よりも高いのだ。

 今回の収穫は四頭だったが、サトシが運んだのはいつも通り三頭だったため報酬を六割分受け取り解散となった。いつもなら風呂に入った後に解散だが、メンバーは皆親しい人たちに魔獣の襲来に備えるようにいち早く伝えたいのだった。

 ハロルド達にそう言われたサトシは親しくしているドリス親子を思い出し訪ねることにした。



「おうサトシ、おつかれさん。久しぶりだな」

「いらっしゃい、サトシさん」

 玄関に迎えに来てくれたのはドリスの夫で商隊の護衛をしているクリップと長女のエミリーだった。エミリーはクリップの左手を抱きかかえていて、お父さんが久しぶりに帰ってきているから甘えてるのかなとサトシは思い、見たことのなかった親子の姿に嬉しくなった。

「こんにちは、ちょっと顔を見せようと思って来たんですけど、家族団欒のお邪魔でしたか」

「邪魔じゃねえよ、歓迎するぞ。さあ入ってくれ。森から風呂に行かずに来てくれたんだよな」

 この言葉に、クリップも魔獣の異常を知っているのだと察した。

「ええ、パーティの皆が周りに知らせなければって風呂に入らず解散して、俺もここを思い出したので」

「ありがてえな。俺が居ないとドリスと子供三人だから、お前みたいに気にしてくれてる人がいるのは本当にありがたい」

 クリップは腕にひっついている娘を見ながらしみじみと言った。

「街には情報が流れてるんですか。どんな感じですか」

 居間に入りながらサトシは聞いてみた。

 クリップはサトシに席を勧めながら、

「俺は昨日アイラに帰って来たんだが、商業ギルドに仕事完了の報告に行ったら森に魔獣が溜まってるから護衛の斡旋はしない、不要不急のお出かけは避けろと言われたよ。しばらくは家族団欒だ」

「俺はいつも通り三日後パーティの皆さんと会うまで休みです。それまでに解決していてくれたらいいですね」

「じゃあサトシさんとどこかでエミリーが選んだ食器を買いに行きましょうか」

 サトシが声のした方を見るとドリスが双子を引き連れて台所からお茶を持って来ていた。フレッドとグレゴリーが母の腰に手を回して左右からしがみついてる様を見て、サトシは少し不安な気分を感じた。

「あのう、家具とか買って家に入れてくださいってお任せしたはずじゃあ…」

「家具と寝具は買って家に運んでもらったけど、食器や調理器具はまだなのよ。買いに行った途中で食料品を買い込み始めちゃって」

「ねえママ、私お出かけするの?」クリップの左手を抱え込む両腕にエミリーがさらに力を込め、嫌がる声を出した。

「大丈夫よエミリー、家族みんなで行きましょう。お買い物して、ご馳走を食べて、街を見れば大丈夫だってわかるわ。家に閉じこもってたら心がどんどん塞いじゃうでしょう」

 サトシはやっと気づいた。子供達三人は不安なんだ。



「不安なこと一人で抱え込んじゃうと悪い方に考えていっちゃうよね。俺も森から帰ってくるまでの移動中は、大勢の魔獣がここで襲って来たらどうしようとか、これからどうなるんだろうとか、絶対に解決しない悩みでいっぱいだったよ。解決するわけないよね、実際には起こってない頭の中にしかない悩みなんだから」

 サトシが話し出すと、エミリーとフレッド・グレゴリーは父母にくっつきながらもこちらに顔を見せて聞いてくれた。

「でも先輩達と話すと不安が消えるんだ。先輩達は現実起こったことにどう対処すればいいかわかってるんだ。だからこれ以上悪くなると想像したりしないんだね。俺はどうすればいいのかわからないから悪いことが重なるのを怖がってたけど、先輩達は悪いことがいっぱい来ても一つ一つ解決していけるんだよ」

「サトシお兄ちゃんは大丈夫だと思うの?」フレッドが聞いてきた。

「お父さんもお母さんも慌ててないでしょう。二人とも自分が何をすればいいのかわかってるんだよ。それにそもそも何かすることなんてあるのかなあ」

「どういう意味ですか?サトシさん」今度はエミリーが聞いてきた。

「さっきも言った通り森から帰ってくる間不安だったんだけど、森から出て街を取り囲む壁を見た時本当に安心したんだ。あの中に入れば大丈夫だってすごく頼もしく見えた。俺魔獣とはまだ戦ったことはないけどさ、先輩達が戦ってるのを側で見てるでしょ。そこで見た魔獣の強さじゃこの壁は破れない、話にならないんだ」

「…パパもママも同じこと言ってる。私たちを安心させようと言ってるだけだと思ったけど」

「安心させようと本当のことを言ってるんだね、嘘じゃないよ。街に出て大人がみんな落ち着いてるのを見れば、エミリーもフレッドもグレゴリーもきっと落ち着くよ」

 サトシは一人一人に顔を向けて頷いてみせた。

「でも安心したらもうこんなふうに甘えてくれなくなるのかなあ」

 子供達が落ち着いてきた雰囲気をみせたところで駄目な父親発言が飛び出した。

「そうね、その一言で親離れがさらに進んだわね」

「パパのいいところを持って悪いところを持ってない素敵な人を見つけてみせるわ」

 ドリスのツッコミにエミリーが重ねてきたが、クリックの手を抱える両腕はそのままだった。

 サトシはこのやり取りに家族の愛情を感じ、自分の気持ちまで暖かくなるのを感じた。

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