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心晴れて、世が開けて  作者: まねたろう
2 家族の温もりに触れたサトシ、母を想い涙する
7/15

2−2

 冒険者ギルドは街から七日間程度の範囲の生態を軍と協力して調査把握し、冒険者に採取して良い区域を指定し収穫量に上限を定めるなどして、今後の安定供給に支障がないように計画的な魔の森の資源管理をしていた。

 森の生態は大きくは街からの距離で分類される。日帰りできる区域には魔獣はおらず、素材となる魔木は軍に管理されており冒険者ら一般人が近づくことは禁止されていた。

 街から一日離れた区域にはリスやウサギなどの、小動物が魔力を持った魔獣とは呼ばれないものしか姿を見せず、魔木は少しでも売れる分が育つとすぐに収穫された。

 大多数の冒険者はここで採取を行なっていた。ギルドから指定された街から一日離れた区域に向かい、二日目で刈りつくさない程度に狩りや採取を行い、三日目に帰路につくことになる。安定した収入を得られる働き方として多くの冒険者が選んでいたが、人気の高さから冒険者一人当たりの採取区域の面積は年々狭くなり、彼らの収入は減少していた。

 街から二日離れた区域には縄張りを作ろうとする魔獣が姿を見せることがあり、魔木は質量共に十分豊かなものだった。

 ここまでくる冒険者は戦闘能力を持つことが必須となる。ここで採取を行う冒険者は比較的少ないため、割り当てられる区域は広く生育期間は長くなり、魔木素材の質は高く採取量は多かった。

 街から三日以上離れた区域は魔獣は縄張りを占有し、魔木の多くは人の手が入ってなかった。

 ここにいる冒険者は魔獣狩りを主とした魔獣の専門家である。その数もここまで訪れる頻度も少ないため、魔獣の生態状況に強い関心を持つ領主は魔獣売却に係る税の減免や市民権取得に必要な納税期間の短縮などの優遇措置を用意してその数を増やす努力をしていた。



 キースは倒れた魔獣の後ろ足に縄を結び、木の枝に滑車を結びつけていたサトシに声をかけた。

「我が弟子よ、準備できたか」

「はい、縄ください」

 キースが縄を上にほうり投げると木の上のサトシは危なげなく受け取り、縄の中程を滑車にかけて端を下に落とした。再び受け取ったキースは縄を強く引いて滑車から外れないか確認した。

「じゃあ引き上げてくれ」

 キースの言葉にサトシは飛び降りてきて縄を引いた。縄にあったたるみは無くなったがサトシの縄を引く速さは変わることなく、自身の体重の十倍を超える魔獣の巨体を予め掘ってあった穴の上に吊るした。サトシが木の幹に縄を結び、キースが逆さ吊りの魔獣の首を切り裂くと、そこから穴に向かって血が流れ落ちていった。

「ようし、お疲れさん。お前らも茶を飲んで一休みだ」

 サトシ達から少し離れた場所に座っていたハロルドが二人にも休憩するよう促した。



 サトシは商人のアルバートと護衛で元兵士のクリップの助言に従い、ベテラン冒険者の荷物運びを冒険者としての第一歩とすることを決めた。自己の鍛錬と自分を雇ってくれる冒険者を求めて駐屯地に向かい、そこでハロルド達魔獣狩りと知り合い、出された試験に合格し、雇ってもらうことができたのだった。

「見張りは置かないんですか」今までの休憩では必ず誰かが見張りをしていたのに、全員休息しろとの指示にサトシは聞き返した。

「これまで見張りを置いていたのは不意打ちへの警戒だが、元々不意を打たれる危険は少ないんだ。それよりも今は少しでも疲れを取ることが大事だ」

 答えた〈盾の〉ハロルドはこのパーティのリーダーで、魔獣の前に立ちその攻撃を一手に引き受けることで、仲間に自由な攻撃させるタンク呼ばれる役割を受け持っていた。

「それに我が弟子の生体感知もあるから、パーティにお前が入る以前よりも全然危険はない」

 〈魔術の〉キースは武器に短刀を持つが、主たる武器はその名の通り自身が放つ魔術だ。保有する魔力の量は多く戦闘時は無論、非戦闘時の利便性の高い魔術も的確に使いこなす。

「とにかくこの接敵頻度は異常だ。坊主だって分かるだろ、一月以上魔獣狩りに付き合ってきたんだから。いざって時は魔獣捨てて街に逃げ帰るぞ」

 そう言ってサトシを驚かせたのは〈斧の〉アーウィンだ。重い斧を持つ彼はハロルドが魔獣の注目を引くまでは木の陰に隠れ、引きつけた後は魔獣の脚に斧を叩きつけて機動力を奪う。

「そうそうサトシ君、自分の命が一番大事です。次に大事なことは魔獣の情報を街に届けることで、その次は仲間も無事であることです。そのためにはちょっとこいつらの体は連れていくには重すぎるかもしれないですね。そういえば俺の槍も重いけどこっちは捨てるとまずいことになりそうですが…」

 〈槍の〉ジェリーの槍は通常の槍よりも短いが、アーウィンの斧と同じくらいの重量があり、ジェリーはそれを片手で持ち目の前で角度を変えながら悩むふりをして見せた。

 この四人がサトシを雇ったパーティで、今現状での優先順位を教えてくれたようにこれまで鍛え、この魔獣の生態の異常を教えようとするのだった。

「いいか、魔獣は縄張りを持ってる。二匹の魔獣の間には距離があり、片方の魔獣がもう一方の魔獣のいる場所に移動するにはそれなりに時間がかかるものなんだ。だが今日の魔獣の襲撃の間隔から、縄張りの半径はこれまでのより三分の一くらいだろう。つまり森に普段よりも多くの魔獣が生息していることが予想される…」

「簡単に言えば魔獣が森から溢れ出て街を襲ってきそうだってことだ」

 キースの長くも丁寧な説明はアーウィンにぶった切られた。

「我が弟子への大事な授業を邪魔しないでください」

 キースはサトシに魔術を始めとした冒険者に必要な諸々を勝手に教え、我が弟子と勝手に呼んでいた。

「帰ってからにしろや、そばでごちゃごちゃやかましくて休めんわ」

 キースは不満顔を見せたが話を続けようとはしなかった。パーティの全員が休息の必要性を共有しているのだ。



 サトシは静かにお茶を飲みながら、先程までの魔獣との戦闘を思い返した。パーティが魔獣の縄張りに入ったことで襲ってきた主、これを倒した後直ぐに襲ってきた一体、そして最後に襲来した二体。これまでは魔獣を倒したからと言って他の魔獣が縄張りに入ってくることはなかった、少なくともパーティが立ち去るまではそうだった。それが縄張りの主がいなくなった途端襲ってくる。キースは縄張りの面積が小さいと言ったが、それは縄張りの外にいた魔獣が縄張り主の生死を知りうる距離にいることから予想できる。

 ではこれからどうなるのだろう?縄張りとはそこの主が生きていくために必要十分な量の食料を得られる面積で、それ以上だと維持できないし、以下だと飢える。間断ない襲来は魔獣に余裕がないからだと思うけど、街の方に近づいてこないのは何故だ。人を恐れてるのか。そしてこの先も魔獣は増え続けるのだろうか。その時街の方にくるのだろうか。 



 お茶を飲み終えたパーティは魔獣を背負子に乗せ街への帰路に着いた。魔獣はもう現れなかった。

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