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心晴れて、世が開けて  作者: まねたろう
1 世界に転移したサトシ、最初に会った人達に親切にしてもらう
2/15

1ー2

 国境の街は最低限の機能で設計された初期のものと、経済発展が期待される前提で設計された後期のものとで分類ができ、アイラの街は後期に属する。初期の街は集団生活用の家屋とそれを囲む魔獣の襲撃を遅らせる程度の柵が構造物のすべてで国有物であった。後期の街はその経済発展が見込めることから、兵舎は当然として行政組織・公共施設そして私有財産の民間家屋を持ち、これらの建物を高く強固に作られた壁で取り囲むのだ。壁には必要に応じた数の門が作られ、衛兵が人や物の出入りを調べ税を課している。アイラには街道につながるものと魔の森に向けられたものの二門あり、アルバートの商隊が検査待ちで並んでいるのはもちろん前者で荷車を調べる商人用の並びとなる。

 一方のサトシは商隊の一員として登録していないため一般用の列に並ばねばならず、又エクリプス国に属する領地の市民権を持たないため検査は厳しく、入街税は通常のものより高額になる可能性すらあった。



 これを商隊と共に列に並んでいる時にクリップから聞かされたサトシは「えっ、まずい!この素材買い取ってもらえませんか」とアルバートに頼んだら逆に提案された。

「素材よりもあなたがお持ちの通貨を売っていただけませんか。是非知り合いの錬金術師に見せてみたいです。素材はあなたがアイルの冒険者ギルドで売られるのが納税の事実もできるのでお勧めです」

「それじゃあ俺が冒険者ギルドを案内してやるよ。俺は五年前までここの兵士だったからギルドには結構顔が効くぜ」クリップもこれに賛成して見せた。

 サトシがアルバートに手持ちの硬貨と紙幣を一種類に一つづつ売ると、クリップが兵士たちが検査している門前に誘った。

「たぶん詰所に入って手が空いてる者が調べることになる事案だと思うんだよ。あいつらには早めにそのことを告げて準備させたほうがいいだろう」

 近づいてくるクリップに気づいた衛兵が声をかけてきた。

「お帰りなさい、クリップ先輩。どうかされましたか」

 顔が効くのは結構ではなくかなりなのではないかとサトシは思った。

 クリップの予想どおり、衛兵のサトシへの取り調べは門の詰所で行われた。クリップも同席してくれたせいかサトシが恐れたような暴力を振るわれるようなことはなく、下着姿で持ち物検査などはしたが、サトシの住んでいた街と魔の森に来てからアルバートの商隊に出会うまでのことを事細かに聞かれた。出会ってからのことはクリップが話して短時間で終わった。

 二時間強の取り調べを終え、入街税を支払い、アイラの街に入った頃には日は地平線に沈み始めていた。門からは真っ直ぐの大通りが引かれ、その左右に食料品や雑貨などの店舗と荷馬車が止まる駐車場があった。営業時間は終わったのか何処も店の片付けをしており、それを興味深げに見回すサトシにクリップが告げた。

「サトシはまず冒険者ギルドに登録して素材を売る、次にその金で宿を確保する、最後に風呂に入ってアルバートたちと夕飯だ」

「あっはい…お風呂ですか」

「ギルドと飯屋との間にあるんだよ。冒険者はギルドで素材売って、風呂に入ってさっぱりして、飲みに繰り出すって流れだ。よくできた街だろ」

 確かに儲けた途端その金を使わせるようにうまくできているなとサトシは思った。



 そのうまい流れの始まりである冒険者ギルドは、大通りを真っ直ぐに進んだ突き当たりの魔の森の門、その手前の右手にあった。

 ギルドの建物はその入り口を大きく開け放たれており、中に入ると大きな机が十台ほどあり、その上に置かれた動植物の素材を屋外活動向きの服装の人たちと、体前面を占めるエプロンをした人たちが囲んで話をしていた。

 その奥にはカウンターがありギルド職員が対応してる姿があった。入ってきたクリップとサトシに気づいた手隙の女性職員が「こちらへどうぞ」と右手を上げてきて、その接客態度にサトシは銀行みたいにスマートだと驚いた。

 そんなここにきた目的を忘れたサトシを置いて、クリップと受付嬢はサトシの冒険者登録を進めた。

「非市民の登録ですね、身分証もギルド発行ですと納税処理もこちらになりますが…」

「市民権取得に関する説明も頼む」

「かしこまりました。サトシ様、お待たせいたしました。手続きを終えましたのでご説明いたします」

 そう言って彼女は冒険者やギルドについて説明を始めたがサトシはまたしても驚いた。最初に話し始めた内容が冒険者の禁止事項だったからだ。

「冒険者の皆さんが聞いていないなどと言い訳されないように最初に告知する規則です。冒険者は街中では駐屯地以外で他者を傷つけることを禁止します。冒険者は街中では駐屯地以外で魔術を使うことを禁止します。冒険者は街中では駐屯地と冒険者向けの店舗施設以外で武器を見せることを禁止します。袋などで包み人目に触れないようにしてください。これらに違反した場合、事情は斟酌されますが必ず刑罰が科されます。ここまでで質問はありますか」

 ありますか、と聞かれてもサトシには何を聞けばいいのかがわからない。この規則がどのような意味を持ち、自分はこれからどう行動すれば規則を守れるのだろう。

「難しく考えることはない。襲われたら衛兵に助けを求めればいいんだ、訓練するとき以外は武器も魔法も使わなけりゃいいんだ」クリップが落ち着けと声をかけた。

 言われてサトシは当たり前のことを難しく言われただけのように感じてほっとした。

 その後もサトシは様々な説明を受けた。兵士の駐屯地で冒険者は訓練ができること、冒険者ギルド以外で素材を売ると税が割り増しになること、二十年税を支払うと市民権を得られること、身分証の交付と提示すべき場面等々。



 無事に冒険者登録と素材の売却を終えたサトシは代金の入った袋の重みを感じ安堵と寂しさが混じるため息をついた。それはこの世界で生きる自分の価値と、元いた世界に帰る困難さを示しているように感じたのだ。

 クリップはそんなサトシの表情の影の部分には気づかなかったような明るい声で喜んで見せた。

「よし、サトシは働いて自分を養える十分な額を稼いで見せた。つまり一人前ってわけだ。今日の夕飯の時の酒は俺が奢ってやる。ただ遅くなりそうだから宿探す前にちょっと俺ん家に寄り道させてくれ、家族に顔を見せておきたい」

「えっ、寄り道は構いませんけどお酒は遠慮しますよ、未成年ですから」

「きちんと働いて見せて何処が大人じゃないって言うんだ。それに自分じゃ気づいていないんだろうけどお前の体は疲れてて、心は緊張してる。寝ようとしても目が冴えて寝れなかったり、寝れても浅い眠りで疲れが取れなかったりするんだ。少しでいいから飲んどけ」

 俺を大人だと言うなら、俺の頭を撫でているこの手はなんなのだろうとサトシは思った。

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