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心晴れて、世が開けて  作者: まねたろう
3 後顧の憂いを払ったサトシ、元の世界に帰還する
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3−5

 サトシがアーウィンとジェリーと共に大通りを駆けてゆくと街の人が倒れており、サトシは心配だったのだが、ジェリーが「死にそうな奴はいないから門に急ぐぞ」と言ってアーウィンと共に立ち止まるのを許さなかった。そしてそれは正しい判断だったと門にたどり着いたサトシは認めた。

 門前の広場では身体中をネズミに噛みつかれた兵士が、他の兵士に噛み付いているネズミを捕らえては殺しており、噛みつかれていない兵士は顔を食い荒らされ倒れていた。

 サトシ達はネズミを引き剥がすのを手伝おうとしたが兵士たちは断った。

「門を閉めるのを手伝ってくれ、動ける奴はそっちに行ってる」


 サトシがたどり着いた時、門の攻防は激戦としか思えなかった。

 門を閉めようとしているのはまたしてもネズミに齧られ群がられている兵士で、そのネズミを引き剥がそうと予備兵が、装備がバラバラな恐らくはそうなのであろう、兵士たちを囲んでいる。その彼らが閉じようとしている横開きの門にもネズミが群がっていた。門と地面の間に自ら挟まってゆき門を動かないようにさせていたのだ。

 門の外では兵士たちが背を向けてサトシもよく知る魔獣の攻撃を防いでいたが、彼らは早く門を閉じるように厳しい声で促しており、その声色からこれから起こる自分たちの運命を覚悟しているのだとわかった。

 サトシは意味がないと思った。自分がネズミを捕らえたり門を閉じたり、当然門の外で戦うこともこの状況を変えることはできないのだ。だから考えろ。


 大規模な破壊魔術で一掃など無理だ。そんな魔術想像できない、できても魔獣の方が頑丈だから兵士たちだけを殺しかねない。魔力だって足りないだろう。

 では個別に攻撃する魔術はどうか。魔獣を殺す威力のそれを狙い外したら兵士が最低でも戦闘不能になってしまうだろうし、やはり魔力も足りない。

 魔力の調達も考えなければならないのか。目の前の魔獣の中にある魔石を錬金術師は魔術に利用することができるそうだが、見たことのないものを今どうこうするのはさすがに無理だ。

 そうだ、門に挟まっているネズミの死体をどうにかできないだろうか。それなら魔力も少なくて済みそうだし、兵士たちのことを考えると悔しいけど今できる最善かもしれない。

 でもどうやってあの死体を動かす?

 …あれ?

 死体を動かす…?

 死体が動けばいいのか…。


 サトシは足元に転がっていたネズミの死体を拾い、魔術をかけた。

 それはサトシが元いた世界でのおとぎ話の中にある魔法。

 ネクロマンシーと呼ばれる魔法使いが使う呪い。

 呪われたネズミはゾンビとなって動き出した。

 魔石を体内に持つものを殺し、魔石に蓄えられた魔力が尽きるまでゾンビとして行動する呪いを死体の中の魔石にかけるゾンビ。


 ゾンビになることなく逃げることができた魔獣はいなかった。




「では留守中の家の管理をお願いします」

 サトシは元の世界に帰還している間の部屋の管理をドリスに頼むことにした。

「でも本当にいつ帰れるのかわからないので面倒になったら放り投げちゃってくださいね」

 サトシは魔獣との戦いが終わった事と自分が作ったゾンビ達が魔力を使い果たして死体に戻ったのを確認して、ドリスを訪ねたのだ。先ほどはエミリー達が心配で取りやめたが、魔獣の脅威が去り自分の親しい人たちの安全が確認された今、帰還を先延ばしする必要も気もなかった。

 そして家はともかくこの世界で生まれた関係を放り投げるつもりはなかった。

「こことサトシさんの故郷を自由自在に行ったり来たりだなんて、やっぱり信じられない」

「僕お土産持ってきてくれたら信じる」

「僕お菓子がいい」

「いや、フレッドもグレゴリーもわかってないだろ、この食いしん坊め」

 先ほどまで戦闘があったのだから当然かもしれないがドリス宅にはドリスと夫のクリップ、長女のエミリー、双子のフレッドとグレゴリーの家族全員が揃っていた。

「グレゴリーはお菓子でフレッドとエミリーは何がいい?」

「フレッドと違うお菓子がいい。それでフレッドと半分づつするの」

「私はお任せするわ、サトシさんが私のことをどう思ってるかそれで判断するね」

「帰ってこなくていいぞ、サトシ。あっちで女見つけて幸せになってくれ」

 荷物を包んでいたドリスは不機嫌になった夫に笑った。

「サトシくん、こっちが今出来立ての料理でこっちが保存食ね」

「ありがとうございます。必要ないとは思いますけど、余裕があるのに備えないのも莫迦ですからね。それじゃあ行ってきます」

 この家だけではなくアイラの街では家の中では靴を履いて生活するので、今靴を履いているサトシは文字通りここから旅立つつもりだった。

「なあサトシ、もしだよ、もしお前が旅立つ魔法に失敗したら俺たちどんな顔をすればいいんだ?」

「笑えばいいと思うよ」

 そう言ってサトシは世界を切り開いた。



 移動するサトシは世界の一部であり魔力の理であるため、かつて出会った存在がそばにいるのを感じ取れた。

「お久しぶりです。あなた達には今も言いたいことが色々あって、ただそれは恨みとか不満とかでもない何かで自分でもよくわかってないので、今は俺が元の世界に帰れる可能性を用意してくれたことに感謝しておきます」

「「今こそ世は汝に謝罪しよう」」

「謝るんですか、今こそってどういう意味ですか」

「「汝に起こった出来事は世の望むものではなかった。

  世は汝に対しなんら義務を負うものではなかった。

  世は汝の救済を望まなかった。

  世は汝が世に対して救済を求めることで自らが望み叶えるを失念するを望まなかった。」」

「あなた達を恨むだけの人生は確かに嫌ですね。そうならなくてよかったです」

 サトシがそう言うと二つの意識が離れてゆき、代わりに懐かしい味噌汁の香りがしてきた。

 鰹と昆布で出汁を取った母さんが作った味噌汁だ。

 料理を手伝ってきた俺が間違えたりしない。

お読みいただきありがとうございました。

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