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心晴れて、世が開けて  作者: まねたろう
3 後顧の憂いを払ったサトシ、元の世界に帰還する
13/15

3−3

 魔獣の群れのボスとなったそれの慎重に事を運ぶ習性は、今の力を得るまで大きい連中の目から逃げ回っていたことで培われたものだった。

 ボスは自分の子分を二本足の縄張りに潜入させて情報を集め、必要と認めたら自身も侵入して調べることもあった。その結果、二本足の群れは戦わないものが戦うものよりもはるかに多く、その戦うものが縄張りを取り囲む崖の切れ目を塞いで守っているのだと知った。

 ボスは決断した、二本足を襲うのは崖の切れ目が開き大きい連中が中に入っていけるようになった時だと。大きい連中が外から襲い子分が中から襲えば戦う二本足は死に、縄張りの中を食いつくせるのだ。

 ボスは森の中で大きい連中が飢えに不満を膨らませるのを抑えて待ち続けた。自分と子分は食べる量が少ないので飢えることはなかった。

 待っていると二本足の縄張りに更なる二本足の群れが食べ物と共に近づいているのがわかった。二本足の縄張りはその谷を開き仲間を迎え入れるのだろう。そうでなかったとしても食べ物を持つ二本足を襲えば大きい連中の飢えを満たせられるだろう。ボスはそう考えて群れに森を出るように指示を出し、二本足の縄張りに潜む子分に襲撃の準備をするように命じた。

 ボスが森から出たところで二本足にも変化があるのを感じた。二本足の群れが縄張りから出て来たのだ。ボスは事態が変化して群が興奮してゆくのを感じ、自身に冷静であるように命じた。

 縄張りから出て来た二本足が見えるところまで行くと切れ目に陣取っているのが見え、その場所と食べ物と共に近づく二本足との間には土が固められていて、もうすぐ合流するだろうと予想できた。

 ボスは自分の決断通りに進む事態を受けて、ますます冷静になっていった。戦う二本足が大きい連中と拮抗してる時に縄張りの中から子分たちが襲いかかる。戦いはこちらの有利となり、我等を縄張りの中に入れぬように戦っていた二本足は立て直せない。

 大きい連中が姿を見せ整列する様子を見て、二本足もまた警戒する様子を見せた。



 魔獣を後ろに行かせてはならない、これが軍の最優先の目的である以上兵士は魔獣の攻撃を横にかわすことは許されない。後退することも街中に魔獣を引き込むことになるので認められない。このため兵士達の戦列は外の二列が全身を金属鎧で包み大楯と片手剣で武装して魔獣の攻撃を受け止め、三列目は前の兵士の間から長槍で魔獣を突き刺すのが戦術の基本である。

 そして戦闘で倒した魔獣や倒れた兵士は、速やかに陣の内側に引き入れ戦闘の邪魔にならないようにして、通常は荷車に優先して街の中に引き入れることになる。さもなくば死体の上に魔獣が乗って行われる攻撃は、兵士たちからすると上からの攻撃となり大きな不利を強いられるのだ。

 魔獣の襲撃は予想通り門を開けて荷馬車が門をくぐった時に始まった。兵士達の戦闘方針は負けない戦いであり、時間がかかっても負傷は最低限におさめ着実に魔獣を倒していった。

 ハロルドとキースは門の側で後輩達の戦いを見守っていた。

「順調だな、個別で事故は起こっても隊列を崩れることはなさそうだ」

「始まったばかりで想定外はまず起こらん。統制が取れているとはいえ魔獣自体は変わってないのだからな。問題が起こるとすればそれは事故が重なった時だと相場が決まっている」

 二人が目を向ける先では熊の魔獣の死体が門をくぐって運び込まれる所だった。動物の熊も巨体だが魔獣化したものは体重で三倍を超えてくるので、体当たりしてくる魔獣に兵士たちが左右の仲間と連携して隊列を維持し続けるのは一苦労なのだ。

 二人が後輩達の成果を見て頼もしさを感じた時、


 キイイイイイイィィィィィィィ


 奇声が門の外から聞こえてきた。

 この声を聞いた二人は、サトシは、兵士たちは、街の人たちは皆、声が聞こえてきた方向を向きそこで行われている戦いに意識を向けた、



 その足元をネズミが駆け抜けていった。



 元々魔獣化したネズミは魔の森の地下に隧道を掘り、そこで生活していた。これまでに生まれた魔獣のボス達は彼らに目を向けることはなく、それまで通りの餌としての意味しか持たなかった。

 だがそれまでとは異なることが起こった、ネズミが魔獣達のボスとなったのだ。ボスはネズミの特徴を知ることは当然として、ネズミを襲う他の魔獣の長所短所を捕食されないように逃げ回っていた経験から知っていた。

 ボスは子分のネズミ達にアイラの街までの坑道を作らせその後潜伏させ、他の魔獣には異なる種と組んで戦うことを命じた。

 アイラの街に潜入した魔ネズミは街全体に均等に広がって潜伏していたが、ボスの合図を聞き大きい連中と戦っている二本足に襲いかかろうとしていた。

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