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短編アラカルト

畳の下

掲載日:2018/10/10

 おじいちゃんの家にはね、あたしのおうちにはないたくさんの面白いことがあるの。雑草の繁みに隠れたかなへびがいる裏庭とか、錆びた鉄の農具とか鎌とかね。

 夏休みになると車でお父さんが連れていってくれる。毎年変わらない窓から流れる景色は、目の奥にすっかり焼きついてしまった。もしあたしが車の免許を持っていたなら、ひとりで運転していけるくらいにね。

 おじいちゃんの家は古くて大きいの。和紙が貼られた障子があったり、草むらを掻き分けたときの香りがする畳が敷き詰められたりしている。今年もスウィッチのメッキが剥がれ落ちた扇風機が首をぐわんぐわん回してお出迎え。

「こんにちはあ」

 おばあちゃんは耳が遠くて聴こえづらいから、とびきり大きな声で呼んであげるの。そうすると細長いトンネルのような廊下の奥からスーっと襖を開ける音がする。外の光と廊下の闇の境目から目尻に皺を寄せたおばあちゃんが、よく来たねぇとゆっくり歩み出てきた。

「はい、これお土産」

「おや、立派だこと。有り難うね。そこに置いておいてちょうだい」

 道の駅で買ってきたスイカは、叩いて鳴る音が小気味良い。玄関の隅に寄せて、転がらないように、手近にあった新聞紙の束と壁とで挟んだ。

 お父さんとおばあちゃんが話をしている間は退屈だから、玄関を出て裏庭に回った。トタン屋根の物置小屋にはチェーンの外れた自転車や、壊れた懐中電灯が転がっていた。吸い込んだ息はじめしめしていて、少しかび臭いわ。昔は割れたおはじきや麻縄の切れ端を集めて宝箱にしまっていたけれど、使われていない物置は、目新しいものはなく、しばらく眺めると飽きてしまった。地面の蟻を追いかけていると、勝手口が見えた。背中を壁に押し付けて進む。誰にも気付かれないように、こっそりと裏口から入るのは、忍者ごっこをしているようでドキドキするね。学校でみんなとかくれんぼするのとは訳が違う。古びた勝手口の扉はキイという音と共に開いた。色褪せたサンダル達の隣に、買って貰ったばかりのシューズを並べると、忍者の気持ちが薄らいでしまったけれど。いつも冷蔵庫の中には濃い麦茶が入っているの。食器棚のガラス戸からコップを取りだし、なみなみと注ぐ。一口すすれば、頭の中心で氷が弾けたような冷たさが拡がった。口をシャツの袖で拭いながら台所をすり抜けて、暗い廊下に足を踏み入れた。ギシギシ軋む床に目を落とすと、無数の木目が一編に睨んできてゾッとする。片足ずつ跳ぶようにして木目を避ける。間違えて踏んずけてしまったときは、毛虫が付いたときみたいに、足を大きく何度も振った。

 廊下の角を曲がると、おじいちゃんが縁側に腰かけていた。

「こんにちは、おじいちゃん」

 白髪頭を掻きながら、こちらを振り向いたおじいちゃん。団扇を忙しなく翻している。おじいちゃんは遠くのものが見えないので、目を細めて怪訝な表情を浮かべている。

「おじいちゃん、久しぶりね。元気だったかしら」

 一歩、また一歩近づいて、顔が手で触れられる距離になった処で、おじいちゃんの頬が弛んだ。

「おお、おお。お前さんじゃったか。また随分と大きくなったな。ゆっくりしておいき」

 おじいちゃんに手を振って、玄関へ向かった。お父さんとおばあちゃんがいなくなっていたから、夕飯の買い出しにでも行ったのかもしれないわ。外は見飽きたし、部屋の散策をすることにしよう。手当たり次第見回っていくのだけれど、毎年のことだから、おおよその検討がついてしまう。玄関近くの部屋はマッサージチェアが置いてあるし、その隣は掘り炬燵のある居間、その次は古い箪笥のある寝室。続いて洗面所、トイレ、お風呂場ってね。

 見馴れたマッサージチェアに抱かれても、心はちっとも満たされなかった。面白いことがないかなあ。廊下をさまよっていると、お線香の匂いが鼻をくすぐった。匂いを辿るとすすけた襖に突き当たった。敷居には埃が溜まっていて、表面は茶色くくすんでいる。膝の辺り、襖に小さな穴が開いている。しゃがむと穴が目の高さに合った。指がかろうじて一本入る間隙。ふいに部屋の中から、固いものが擦れる音がした。はて、この部屋は何の部屋だったかしらん。大根おろしを作る音のようでもあるし、歯磨きする音のようでもあるわね。音の源は一定の場所でいったりきたりしているようで、止まって動くを繰り返している。明かりの途絶えた隙間を覗いて目を凝らす。ううん、良く見えないわね。闇の中には得体の知れない摩擦音だけが響いている。背中を流れる汗がいつの間にか冷たくなってきた。ああ、じれったい。このままでは一向に正体が分からないままだし、かといって扉を開けてしまう勇気はないわ。腕を組んだり、頭を抱えたりして迷っていたら、音がピタリと止んだ。日が傾いて、夜が迫ってきた。水を打った静けさの廊下と奇怪な部屋に挟まれて、体が押し潰されそうになる。

 そうだ、穴を拡げればいいんだわ。呼吸を整えて引き戸に指を突き立てる。徐々に力を込めていく。おばあちゃんに見つかったら叱られるけど、もう後には退かれない。指一本分、二本分と穴を拡げる度に香の匂いが増してくる。それでも部屋の中は見えそうもない。いっそ一思いに破ろうかしらん、と言うときに玄関でおばあちゃんの呼ぶ声が聴こえた。返事をして廊下を戻ろうとしたとき、「ゴリ」と耳のすぐ後ろで擦れる音がした。驚いて振り向いても白地に茶色い染みを散らした引戸があるだけ。大きくした穴もそのままだった。変ねえ、嫌だわ。気味が悪くなって早足で玄関へ急ぐ。あまりに焦っていたものだから、木目を踏んづけていることにすら気が回らなかった。


 夕飯を食べ終えて縁側で涼んでいたら、おばあちゃんが今朝のスイカを切って出してくれた。おじいちゃんの家ではスイカの種をわざわざゴミ箱に捨てなくても、縁側から外に向かって吐き出すことができる。誰が一番飛ばせるか競うけれども、闇が深くて正確な距離が判断できない。全員引き分けのこの遊びも今となってはうんざりしていた。

 スイカの滴る蜜のように甘美な出来事はないだろうか。手に着いたぬるい汁を舐める。夏野菜の収穫なんかじゃ駄目。もっと刺激的な、興奮するような出来事。

 本当は奇妙な音のする部屋の話を全員に打ち明けたかったのだけれど、勝手に穴を拡げてしまった後ろめたさがあった。おばあちゃんは張り替えたばかりの障子を破ったときも、物置に柘榴を投げつけて壁をべちゃべちゃにしたときも、顔を赤くして怒ったの。正座させられてお説教を受けるのはもうこりごり。

 軒下にぶら下がった風鈴がそよぐ。竹林の彼方から川のせせらぎと蛙の合唱が届く。

 くたびれたももひき姿のおじいちゃんが蚊取り線香を片手に戻ってきた。もう片方の手にはやっぱり団扇が握られている。そうだ、おじいちゃんなら怒らないで聞いてくれるよね。物置に投げて砕けた柘榴を笑いながら一緒に食べた記憶が背中を押した。

「ねえねえおじいちゃん、廊下の突き当たりに染みだらけの襖があるでしょう。どうして誰もいないのに音がするの」

「あの部屋には誰もいないから、音なんぞするはずがないねえ」

「いいえ、確かに聞こえたわ。同じところをいったりきたりしているの。襖に穴が開いていて、ちゃんと見たんだから」

 穴を拡げたことは黙っていよう。おじいちゃんが襖を見ても、大きさが変わったことがばれないように、とまぶたを閉じて祈る。

「お前さん、何を見たんじゃ。こりゃあいかん、まずいことになった」

 肩を鷲掴みにされてハッとして目を開けると、おじいちゃんの顔から血の気が失せていた。口が金魚みたいにパクパクしていて、眉間にシワが寄っている。今まで見たことのないおじいちゃんの表情に、全身の筋肉が強ばる。

 ごめんおじいちゃん、本当は見ていないんだ。あたしの返事は廊下へ飛び出していったおじいちゃんの耳に辿り着く前に、蚊取り線香の煙と共に消えた。


 月明かりの透けるカーテン。窓から射し込む光はあたしと、隣で鼾をかくお父さんまで照らしている。寝る前に麦茶を飲み過ぎたのが失敗だったかな。お父さんを起こさないようにして、布団から身をよじって這い出る。間違ってお父さんの足を蹴ってしまったけれど、熟睡しているのか微動だにしない。時刻は二時を過ぎていた。

 困ったことにトイレは一階にしかないのよね。おぼつかない足取りで階段を下る。廊下は一面漆黒に包まれて、床と壁の境目すら曖昧になっている。

 いくつになっても夜は怖い。お父さんの付き添いがなくなるくらいに成長したけど、幼い頃に戻りたい、と今夜ほど切望したことはない。このまま二階に戻って眠りたいのに、お漏らしをさせたくない理性が許してくれない。

 手探りで明かりを灯すと、ぼっとん式の便器が現れた。白い陶器製の便器は所々黒ずんでいる。見上げると電球の回りを小さな蛾が纏わりつくようにして飛んでいた。用を足してようやく胸を撫で下ろした。

 トイレの電気を切ったときだった。廊下の奥から物音がする。夕方耳にこびりついたあの音だわ。抜き足差し足して、かたつむりに負けない早さで廊下を進む。突き当たりには暗闇の真ん中にぼんやりと白い襖が浮かんでいる。襖の向こうから聞こえる音は、あたしの鼓動に比例して、どんどん大きくなってくる。

 襖の前にしゃがんで穴のあった場所に目を凝らすと、ガムテープで幾重にも塞がれていた。きっとおじいちゃんが貼ったんだわ。ガムテープを一枚ずつ剥がしていたのではらちがあかない。

 舌なめずりすると、歯磨き粉の甘い香りがした。赤い果汁のスイカが頭に浮かぶ。振動が体に伝わるほどにまで摩擦音が膨らんできた。もう襖を開けてしまおう。

 取手のへこみに手をかけて真横に滑らせる。敷居を跨ぐとそこは四畳ほどのちっぽけな和室だった。窓が一つあるだけ。月を隠した雲が流されると、室内が暴かれていく。押し入れも家具もない四角い空間。部屋のちょうど真ん中の畳だけが、削られたように藺草が毛羽だっている。

 音の正体は畳が擦れる音だったんだわ。だけど一体誰がこんなことを。畳が窪んで落ち込むまで削るなんて不可解だったし、何より部屋にはあたし以外の誰も認められないことにゾッとした。

 こんなところあと一秒たりとも居たくないわ。廊下へ戻ろうとしたとき、足下から「ゴリ」という音がした。なんと音は畳の下から、床の下からするじゃないの。全身の毛穴から汗が滲み出てくる。

 固まったまま畳の傍らに釘付けになってしまった。床から畳を押し上げて、闇が這い上がってくる気配がする。全神経を畳の傷に注ぐ。するとほつれた畳の中に、ひときわ長い藺草が後れ毛のようにはみ出しているのが見えた。初めの内はあたしの膝の高さだったものが、腰、胸を通り越して、肩まで伸びた。藺草はにょろにょろと伸び続ける。

 腫れ物に触る要領で蠢く藺草をつついてみた。途端に藺草は動きを止めてしまって、果してあたしの様子を伺っているのね。今度は両手で握ってみるが、脈動する藺草はまるで生きているみたい。

 おじいちゃんの畑で蛇がとぐろを巻いていた。しっとりした体表は細かな鱗で覆いつくされていた。黒々とした青い鱗。あたしの心は逃げ出したい恐怖と、新しい生き物を見つめていたい高揚感がまぜこぜになった。

 あのときは蛇が逃げてしまった。無意識にあたしは藺草を放すまいと必死になっている。少しずつ手繰り寄せると、畳の端からほどけていく。右手と左手を交互に藺草を引っ張る。ときどきじたばたしたり、ぬるりと滑ったりする藺草の綱引きは、身の毛のよだつ一人ぼっちの運動会。

 腕が痺れてきた。閉ざされた部屋は熱気で満ちていて、額からは玉の汗が吹き出る。あまりにも暑くて、麦茶を飲みたくなった。襖を開けようと闇に紛れた取手をまさぐる。おかしいわ、取手がなくなっている。

 部屋をぐるりと見回すと、四面が壁に囲まれていて、廊下へと繋がる襖が跡形もなく消えていた。藺草掘りに夢中になっている間に、あたしは恐ろしい直方体に閉じ込められてしまった。壁を叩いても、叫んでみても、反応がない。家そのものが眠りについたような静寂が横たわっている。恐ろしさのあまり心臓が早鐘を打ち出す。

 一体どうしたらいいのかしらん。持っていた藺草の先端はどこかに放り投げてしまっていた。あたしの体の回りは深い闇で満たされている。黒い空気の中に浮遊している感覚。どちらが天井で、どちらが床なのかさえはっきりしない。

 どうしようもなくて、膝を抱えてしゃがみこむ。喉はカラカラなのに、涙は止めどなく溢れる。頬を伝う雫を舐めると塩辛かった。


 涙が枯れ果てた時分、爪先を井戸水に浸したような冷気を感じた。あたしはよろよろと這いつくばって、導かれるように冷たい空気を辿る。藺草が毛羽立っていた畳があったはずの場所には、円い穴が口を開けていた。穴を取り囲むように乱雑なとぐろを巻いた藺草が束になっていて、きっとあたしが引っ張ってむしり尽くしたんだ。

 穴に手をかざすと、悪寒が走る。真夏だっていうのに、冷蔵庫みたい。穴の底から吹き出す風が髪にじっとりと絡みつく。畳の縁の藺草は穴の底へと続いているらしかった。裏庭の古井戸の底知れぬ闇よりもっと暗くて陰鬱な畳の下から、「ゴリ」、「ゴリ」、と音がする。不気味な反響だわ。手を伸ばして掴めそうな気がする。あるいは決して届かない距離にあるような感じもした。

 閉ざされた室内は異様に暑く、汗さえ失われつつある。畳に散らばった藺草の破片は熱気で鉄板の上の鰹節のように揺れる。このままではあたし、きっと干からびてしまう。

 絡み合う藺草が太いロープになって垂れ下がっている。その中で最も太くて頑丈そうな一つを選んだ。暗闇の噴火口に爪先を沈めていく。腰から下は穴に飲み込まれ、じわじわと黒く塗り潰される。蔦を握りしめる両手が震える。頭まですっかり入ったら、漆黒の闇とあたしの瞳がすっと融けて混じり合った。見上げても畳の縁がどちらだったか見当もつかない。壁の窪みに足をかけ、ゆっくりと下降していく。

 足を地面から浮かせて、腕力だけで進む遊具。雲梯ってあるでしょう。長い間夢中になると、腕が張って固まり、掌に豆ができるの。それだのに藺草を握る両手は、どれだけ穴に潜ろうが、不思議なことに痛みも疲れも感じない。それどころか畳の間を逃れてから、羽が生えたように全身がふわりと軽い。重さがそっくり奪われてしまった空っぽの肉体。このまま手を放しても落ちやしないよ、と悪魔が囁きかけてきそう。

 あたしは穴の底に耳を傾ける。心臓を鷲掴む奇怪な音は聞こえなくなっている。こちらの物音にじっと耳を済ませて、恐怖が待ち構えているのかしらん。ズタズタに裂かれた畳が脳裏をよぎり、足がすくんで動けなくなってしまった。

 ひとところに留まって、闇に浸っていると、胸の中に不安の渦がたちこめる。上も下も果てしない闇が続いている。襖をほじくっちゃいけなかったのよ。おじいちゃんがあんなに慌てていたんだもの、部屋の中を覗いたらいけないって分かってたはずなのに。あたしったら悪戯ばかりして、おばあちゃんを困らせてばかり。ばちが当たったんだわ。おじいちゃん、おばあちゃん、ごめんなさい。詫び言は呟いたそばから闇に吸い込まれていく。

 お願いだから、誰か助けてよう。涙を堪えて頭上を仰いだとき、ずっと遠くで赤い残像が揺らめいていた。見間違いじゃないわ。米粒ほどの灯火が二つ。おじいちゃんとおばあちゃんがあたしを探しに来てくれたのね。トイレに起きてから随分経つし、もう朝になっているかもしれない。きっとそうに違いないわ。

「おじいちゃん、ここよ。助けてちょうだい」

 ありったけの力を振り絞ったのに、蚊の鳴くような声が漏れた。仏壇のロウソクみたいに、明かりはぼんやりしたまま押し黙っている。どうして降りてきてくれないの。何度となく呼びかけているのに、二人の返事はない。どうやら声が届かないほど深くまで来てしまったのね。

 このまま待っていても仕方がない。足を踏ん張って一歩、もう一歩と登り始めた。すると明かりはパッとふいに消えたり点いたりと、頼りなげに点滅し始めたのだ。あたしはいよいよ心細くなって金切り声をあげる。

「いやあっ、お願いだからあたしを一人にしないで」

 ゴリゴリ。ゴリゴリ。

 乾いた涙は顔がひきつったことを気付かせた。首筋は凍りつき、思うように動かすことができない。空気が重く覆い被さる。音のしない呼吸。壊れた玩具みたいにゆっくりと、できるだけゆっくりと見上げた闇には、一瞬間前よりもはっきりと輝く赤。

 赤い二つの点だったものがあたしの脈拍に合わせて大きくなる。ゴリゴリ。蠢く異形。ゴリゴリ。血走った瞳。ゴリゴリ。あたしは掴んでいた蔦を離す。

 踏み場を失った体は真っ逆さまに落ちていく。水面に滲む絵具のように、赤い眼差しの輪郭が暗闇に溶け始める。あたしの意識は底知れぬ奈落へ飲み込まれていった。


「おい、どうした。起きなさい」

 肩を揺すられて開いた薄目に光が射し込む。ぼやけた視界には心配そうな顔つきのお父さんが映った。身体中の力が抜けてしまって、起き上がることができない。

 ここはどこかしらん、とお父さんの背後を見渡すと、穴が塞がれた襖が目に止まった。

「こんなところで寝ていたら風邪をひいてしまうよ」

 腰から抱き抱えられると、お父さんの匂いがくすぐったい。そのまま廊下を抜けて縁側へと運ばれる。庭の遠くでおじいちゃんが草むしりしている。鳥の鳴き声や蝉時雨が朧気な頭の芯に響く。額の汗をぬぐうおじいちゃんがこちらに気がついたようだわ。

「おお、起きたか。そろそろ飯にしようか」

 黒々と繁った草いきれの中で、おじいちゃんが手を振りながら叫んでいる。廊下を曲がって台所へ向かうとおばあちゃんが支度をしている。丹念に磨かれた包丁が陽光を受けて鈍く輝く。

「おじいさんももうすぐ来るみたいだねえ」

 あたしとお父さんに背を向けたまま、おばあちゃんはまな板を細い指で撫でる。その一言に振り返ると、おじいちゃんが廊下を軋ませて歩いていた。あたしの後ろでおばあちゃんが包丁を研ぐ音が聞こえる。見上げるとお父さんは目をつむったままニヤリと笑った。

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