『続ける理由』
“君”に聞いてほしい“私”の話
私は君のようには言葉を紡げない。
簡単で、単純で、平凡な言葉を並べることしかできない。
君は気づいているのだろうか。君が並べた数々の言葉は少なくとも私の胸を刺し、私の欲を刺激し、そして私が無知でありつまらない人間だと思い知らせることを。
君が紡ぐ喜びの感情、君が紡ぐ負の感情は、私の中にストンと落ちていく。
情景が、行動が、感情が。すべてが理解できて、私を引き込んでいった。
「君の方が上手だ」
なんて謙遜がとても憎たらしい。
私にはできない言葉選びを容易くやってみせる君の手腕が羨ましい。
ないものねだりを繰り返しても何も生まれないのはわかっている。けれど見るたびに私にできない事をやってのける君が、遠く感じて仕方がない。
真似てみても君のようにはいかなかった。実力の差が浮き彫りになる。その差がとても悲しく、寂しかった。
君に近づきたくて始めた言葉並べは、いつしかそれが目的ではなくなっていた。
評価を求め、君の上であることを求めた。
そして思い知らされる実力差に打ちのめされる。
何度起き上がって繰り返しても差は埋まらず、むしろ開くばかり。君に成長はあるのだろうが、私にそれはないに等しかった。
君が先に進んでしまうことを恐れた。置いていかれることを怖がった。しがみつくように書きなぐっても、追いつくことはできないのに。
それでもやめることはなかった。
何度打ちのめされても、何度君が見えなくなっても、差を自覚しても。君と私をここまで繋いだ『物書き』という趣味を、やめることができなかった。
それをやめたら繋がりがなくなると、そう思ったら怖くなって、その恐怖が私を留まらせた。
謙遜が憎くても、自分の無力さを思い知らされても、それよりも君との繋がりがなくなることを恐れた。
私のこの『物書き』という趣味は、君との繋がりをなくさないための、縛り付ける縄でしかない。君との繋がりが消えることを望まない私の自己満足でしかない。
君との繋がりをなくさないために。君という存在を失くして私が悲しまないために。
ただそれだけの自己満足のために私は私なりの言葉を紡ぐ。例えそれが本心の書きなぐりだとしても、私のために、それをやめない。
だからほら、今日も。
君の言葉に私の心は倒される。




