『足りない、足りない、何もかもが足りない』
はじめまして、成音李ヰです。
今回から不定期で短編集を投稿していきたいと思います。
よろしくお願いします。
求めていたのは自分の力。
求めていたのは好かれるほどの魅力。
求めていたのは一人を愛せる僕自身。
求めていたのは君自身。
誰かと並べるほどの力も、誰かに好かれるほどの魅力も、誰かを選んで愛せる自分も、愛した人に愛されることも。
そう有りたいと願っても、叶うことはないと言い切ってしまうほど手に入れにくいもの。“将来の夢”なんて語ったもののほうが叶うんじゃないだろうか。
想いを告げた僕ですら、通じあったと思った僕ですらそう考えるのだから、片想いを続けている人はどれほど考えるのだろうか。
君の隣に立てる人間になるには。君に好かれるような魅力のある人間になるには。君一人をこれからも愛し続けるためには。君自身を手に入れるには。
一体どう進むべきか。そんな自問自答をどれほど繰り返すのだろうか。
そしていつ、それを得たと思うのだろうか。
僕にはまだ何もかもが足りない。だから全てを求める。隣に立てる力も、僕自身の魅力も、一途に愛せる心も、そして君自身も。
「……なーんか、バカなこと考えるね志音」
「バカは認める。でも僕が納得しないと」
「私を愛せないって?」
「そう」
そう。僕自身にある答えも足りない。答えがないと、君を愛する僕の心がニセモノに思えて仕方ない。
「……ふーん。で、それを私に話してどうしたいのさ」
怪訝な表情を浮かべる目の前の君。頬杖をついて僕を見つめるその視線。僕はそれを真っ直ぐ見つめる。
「君の隣に立つのは僕の努力次第。僕の魅力も努力次第。一途に愛することも努力次第だとする。けど、君自身は僕の努力じゃどうにもならない。だから――」
「待った」
唐突な静止。なにか気に触ることを言っただろうか。自然と体が強ばってきた。嫌われるのが怖い。怒らせるのが怖い。
「……やっぱバカだね? 大バカだ。志音に魅力がなけりゃ私は志音の隣でいようなんて思わない。志音に一途に愛されるために努力するのは私。ここまではいい? 理解した?」
「……はい」
「あと、最後のやつなんだけど。それは志音次第」
「……どういうこと?」
「……。志音に、私の全部あげるから。貰ってくれるかってこと」
学校で男子にからかわれても強気で平然としていて、いつもかっこいい君が。僕の前で頬を赤らめ貰ってくれという。
「志音に何もかもが足りないんじゃない。志音に足りないのは自分の想いだけ考えて、相手の、私の君への想いがどうかを考えないこと。私を信じることが足りないんじゃないかな。……何語ってんだろ。恥ずかし」
「……そう、なのかな。……うん、ごめん。貰うよ、君を貰う。だから君も、僕の全部を貰ってくれる?」
もちろん。そう答えた君は数学の問題集を指差して、僕への授業を続けていく。
僕に何もかもが足りないと思っていた。
釣り合う力も、魅力も、一途でいられる想いも、何もかも。
足りない、足りない、何もかもが足りない。君のためにと理由をつけて繰り返したその考えは、君が全て片付けた。
僕に足りないのは君を信じる、その信頼だった。
信じられていると思っていた。
でもそうじゃなかったんだと否定された。
君がそう教えてくれた。
足りない何かは、君が。




