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第7話 拒絶

「……何を言っているのか分かっているのか」


私の言葉に対しする青年の反応、それは困惑の表情だった。

……そしてそれは当然の感情だった。

何せ私でさえ自分が何でこんなことを言ったのか理解できていないのだから。


「お願いです!もう少しだけで良いので!」


けれども何故か、私はムキになってそう言葉を重ねていた。


「それで、私に魔術を教えてもらえないでしょうか?私、家事ならば出来ます!だから……」


ただ、何かにせき立てられるように私は言葉を重ねていく。


「……残念だが、君の要望は飲めない。諦めてくれ」


「っ!」


……けれども、青年の返答は拒絶だった。

その青年の反応に、私は想像以上の衝撃を受ける。

その反応が当然のものだとわかっているにもかかわらず。

何故青年がこんな場所に住んでいるのか私は知らない。

だが、魔境に住んでいるというのは余程の理由があるのだろう。

そんな中、青年は危険を犯してもなお私を助け出してくれた。

……おそらく青年は他の人間にこの場所を知られたくないにも考えていて、それにもかかわらずだ。

そして、そんな状況に関わらず助けてくれた青年に対して、本来私は感謝することはあれども文句を言うことはできない。


「お願い、します」


……そう分かっていたはずなのに、それでも私は何故か諦めることができなかった。


「はぁ……」


頭を下げ、懇願する私に青年は困ったように嘆息するのが伝わる。

その青年の困惑を私は感じ取りながら、それでも頭を下げ続ける。


「っ!」


……けれども次の瞬間、私の耳に扉が閉まり、誰かがこの部屋から去って行ったような音が入った。


「だよね……」


それに私は無視をしておけば諦めるとでも判断したのか、青年がこの部屋を後にしたことを理解した……






◇◆◇







青年が去ってから一時間も過ぎないうちに、部屋の中は冷気に包まれていた。


「鍵……」


……そして、流石にその寒さに耐えかね扉に手をかけた私は、今更ながらに施錠されていることに気づく。

この部屋にはきちんとトイレもある上に、私が意見を変えて魔境から出たいといえばすぐに青年は私をこの部屋から出してくれるだろう。


「……まだ頑張れる」


……でも、私はその選択肢を意識的に頭の中から締め出して、ソファの上に転がった。

ソファからはじんわり熱が伝わってきて、一瞬私の身体が温もりに包まれるような感覚に陥る。

けれども、数分も経たないうちにまた私を寒さが襲い初めてる。


「うぅ……」


……なのに、どれだけ寒くても私は何故か青年を呼ぶ気にはなれなかった。


寒い部屋の中、手がかじかんできて私は思わず手先をこすり合せる。

そして、寒さと疲労で朦朧とする私の頭に浮かんでいたのは私を裏切ったクラッスター家の人間たちだった。

……あの日裏切られた時の絶望、それは未だ私の中にはっきりと残っている。

私をクラッスター家が裏切った原因、それは逆恨みや嫉妬という、あまりにも愚かな理由だった。

そんな理由で彼らは今まで必死にクラッスター家を支えていた私を、彼らはあっさりと裏切ったのだ。


そしてその蛮行を使用人達は一切止めようとしていなかった。


私が救い、クラッスター家に忠義を尽くすと誓ってくれた使用人達。

……けれども彼らは破滅へと真っ直ぐに突き進んで行く父達の暴走を止めようとすらせず、あっさりと私を見捨てた。


それは充分に憎しみになり得る出来事だろう。

恩を仇で返した家族に、主人を恐れるばかりに何の意見も告げようとしない使用人。


……けれど、クラッスター家から見捨てられた今、私が抱いているのは憎しみではなく、どうしようもない喪失感だった。


「うぐっ、」


頭の中で幻覚の父が、継母が、ビビスが、私のやってきたことなど何の価値もないのだとそう私を罵る。


そんなどうしようもない幻覚は、寒さと疲れに限界を迎えた私が泥のような眠りにつくその時まで続いた……

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