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第6話 魔境の家

「ん、ここは……」


次に私が目を覚ました時、そこは森の中ではなく、何処かの家の中のソファの上だった。

それは酷く豪華な家で、だからこそ一瞬私は自分の身に何が起きたかわからず辺りを見回す。

一瞬、森の中に捨てられ、魔獣に追いかけられていたことは夢なのではないか、なんて考えが私の頭に浮かぶが、身体に走る鈍痛がその考えを否定する。


「一体何が……」


何が起きたか分からず、私は呆然とそんな言葉を漏らして、身体を起こして……


「起きたか」


「っ!」


その時だった。

突然自分の後ろから声が響いてきたのだ。

自分以外に人がいることに気づいていなかった私は驚愕とともに後ろに振り返る。


「その動きを見る限り、身体に異常はないようだな」


次の瞬間、私の目に入ってきたのは魔獣から私を助けて来れたあの青年だった。

そして今更ながら私はその青年がとんでもない美形であることに気づく。

年の頃は二十代前半だろうか。

透き通る白い肌に、輝くような金髪。


そして何より、透き通るような青い瞳が私の目を奪う。


青年は、私が王宮で働いていた時に見つけた美形でさえ比にならない容姿を有していて、だからこそ私は思わず青年に見とれる。


「これで何の躊躇いもなく、外に追い返せる」


「なっ!?」


……けれども次の瞬間、青年が漏らした言葉に私は現実に戻されることとなった。








◇◆◇








ここがどんな場所で、なぜこんなところに家が建っているのか私は知らない。

けれども一つだけ私は確信していることがあった。

身体に走る空気の騒めき、とでもいうような感覚だろうか。

その変に高揚感を私に与える感覚は、ここがとある場所であることを示していた。


……そう、ここは魔境の中に存在する家であることを。


「ちょ、ちょっと待ってください!」


だからこそ、私は青年の言葉にそう口を開いていた。

たしかに私は先程と比べれば、遥かに体力を回復しているだろう。

だが、だからと言ってこの魔境から抜け出す力がないのは変わらないのだ。

……今、この家を追い出されたら私は絶対に生き抜くことはできない。


「助けていただいたことには感謝します!けれども私には魔獣を倒すことも……」


「ああ、すまない。説明不足だったな。だが、安心していい」


「……え?」


しかしその私の嘆願を青年は途中で中断させ、口を開いた。

当初青年の言葉の意味が分からず、私は困惑の声を漏らす。


「私の言っている外は、魔境の外の話だ」


「なっ!?」


けれども次の瞬間、私の困惑は驚愕に変わる。

魔境、それは鍛え抜かれた兵士でさえ生き抜くことはできない、文字通り人外魔境の場所。

だからこそ、私は青年が軽く告げたその内容が信じられ無かったのだ。


「私に出来ないと思うのか?」


「っ!」


けれども、私は思い出す。

私に襲い掛かってきた魔獣を、戦略級の魔術を使って爆散させた青年の姿を。

私を追いかけていたあの異形、それは決して弱くはない魔獣だった。

何せ、私を狙って次々と集まってきた他の魔獣を全て追い払って私に迫ってきていたほどの実力を有していたのだから。

その実力は少なくとも、戦略級の魔術一つであんな爆散する程のものではないのは明らかで。


ーーー けれども、目の前の青年はその偉業を軽々と成し遂げていたのだ。


普通に考えて、戦略級の魔術を1人で放てることがまずあり得ない。

しかし青年はその上、通常の戦略級の魔術の威力を凌駕するものを放ってみせたのだ。

そのこと考えれば、青年の私を魔境の外に連れて言ってくれるというその言葉は決して不可能ではなかった。


「も、戻れるの?」


……そこまで考え至った時、私の口から漏れたのはそんな気の抜けた言葉だった。


魔境に来た時から私は戻れるなんて一切考えていなかった。

いや、生き残れるとさえ思っていなかった。


「ああ。私ならばできる」


私の言葉に力強く頷いた青年の姿に、私は奇跡のようなチャンスが自分の目の前に現れたことを悟る。


今戻ることができれば、私を裏切ったクラッスター家に復讐をすることができるだろう。

何せ戻れば未だ私の味方は数多くいるのだ。

クラッスター家を追い詰めるなど酷く容易いだろう。


「その、」


そこまで考え、私はお願いしますとそう青年に告げようとする。

だから私は青年の青い、そして何故か酷い孤独を感じさせる目を見つめながら口を開いて……


「少しの間、私をここに置いてくれませんか?」


「………は?」


……なのに、気づけば何故か私はそんなことを口走っていた。

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