第34話 その頃のクラッスター家
ビビス目線です!
「ビビス・クラッスター!貴様との婚約は破棄させてもらう!この売女が!」
それはレシアスが魔境に捨てられ、数日が経った時。
私、ビビス・クラッスターは婚約者であるマールズ・マスタールに婚約破棄をされていた。
「………衆目の前で何を」
「……あいつ、夢見がちなやつじゃないか」
……それも、マスタール家の開くパーティーの最中、衆目の前で。
「っ!」
大勢の前で馬鹿にされた、そのことに私の胸に激しい怒りが浮かぶ。
マールズの告げた婚約破棄については私に異論はない。
あんな夢見がちな男などこちらからお断りだ。
「ふざけないで!私がいつそんなことをしたのよ!」
けれども、こんな風に恥をかかされて黙っているわけにはいかない。
だから私は大声でマールズの言葉に反論する。
「悪いのは全て貴方でしょ!私の意思なんて無視して、一つ一つの行動さえ決めるこの束縛男が!」
そしてその私の言葉で周囲にどよめきが走る。
「………うわぁ」
「………聞いたことがあるが、本当のことだったのか」
「………自分が主人公だと信じ込んで、召使いにも奇天烈な態度を強いているらしいぞ」
広場にマールズに対する悪口が溢れ出す。
マールズはたしかに金を持っているが、社交界でも屈指の鼻つまみ者だ。
これだけ悪評が広まれば、もう婚約を申し出る者なんていない。
そしてそうなれば、マールズは私に婚約破棄を辞めてくれと懇願するだろう。
そうなったらマールズを嘲笑って婚約破棄してやる。
と、私はこの先に起こることを想像して、その口に嗜虐的な笑みを浮かべる。
「うるさい!うるさい!婚約した時から間男を複数人連れてきて、散財し、少しでも綺麗な女中が入れば虐めて追い出すくそ女が、私に意見をするな!」
「なっ!?」
………けれども、マールズが口にした言葉に私の顔から笑みが消えた。
マールズの言った言葉はたしかに本当だ。
だが、私は隠し通せていたと思い込んでいたのだ。
「………どうしてそれを」
………そしてその衝撃に、ぽつりと私は致命的な言葉を漏らしてしまった。
「………本当なのか」
「………レシアス嬢が生贄に出された時から言われてはいたが、本当に醜い女だ」
「まぁ、あのクラッスター家だからな」
その瞬間、今度は広場に私に対する悪評が広まり、私は自分の失態に唇を噛みしめる。
けれども、今ならまだ取り返しがつくと私は再度口を開く。
「何よ!あなたなんか………」
………そしてその広場での言い合いは一晩続き、その結果マスタール家とクラッスター家の評判は地に堕ちることになるのだった。
……どんどんと自滅していく




