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第29話 婚約

夢の中に出てきたアルフォートのおかげで久々の快眠を取った翌日。


「……申し訳ございませんでした、本当に私はなんてことを……申し訳ございませんでした」


私はベッドの上、真っ赤な涙目で苦笑を浮かべるアルフォートへと謝罪を繰り替えてしていた。

もちろん、その時にはすでに私は昨日夢だと思っていたアルフォートとの会話が現実であることに気づいていた………






◇◆◇








朝、久々の快眠のおかげが、スッキリとした気分で目覚めた私が感じたのは最初誰かに抱えられているということだった。

そのことを不思議に思いながら、自分を抱いてくれている人間の顔を見た瞬間私は硬直し、そして全てを悟った。


そう、昨日私が夢だと思っていた出来事それは全て現実のものだったことを。


……その時はもう、顔から火が出そうになるほど恥ずかしくて、もう少しで私は家から飛び出すところだった。

魔物がうじゃうじゃ溢れる魔境に。

何とかその時の騒ぎで目を覚ましたアルフォートに止められて、事なきを得ることになったが。

しかし今度は私はアルフォートにとんでもなく失礼なことを言っていたことを思い出して、私はベッドの上いるアルフォートの前で謝罪を始めた。


「……申し訳ございませんでした」


……それが今に至るまでのおおよその出来事だった。


「その、もういいのだが……」


私の謝罪に対し、アルフォートは常に困ったような笑みを浮かべていた。

けれどもアルフォートは決して私に対して怒りは覚えていなかった。

そして私の夢の中の記憶が正しければ、アルフォートは私のしたことに対して怒っていないだろう。


「……いえ、私は本当に、とんでもないことを。申し訳ございませんでした」


……だがそれでも私は謝罪の言葉を止めることはできなかった。

確かにアルフォートは優しい。

けれども、あんなことを言って私を追い出すことに躊躇するだろうか。


私は昨夜きちんとアルフォートに告げられた言葉をきちんと覚えている。

けれども、私はその光景が眠気のせいで見た幻のような気がして、どうしても信じることが出来なかった。


………いや、私は自分自身を認めてくれる人間がいるということが信じられないのだろう。


だから私は過剰と思えるほどの謝罪をどうしても止めることが出来なかった。

アルフォートが心底困っていることに気づいていながらも。

不安で不安で、どうしようもなくて。


「なぁ、レシアス。私は婚約者に対して失言程度で家から追い出そうとするような冷たい人間に見えるか?」



「………え?えぇ?」



ーーー けれどもその私の不安はアルフォートの言葉に吹き飛ぶこととなった。


「ええええええええっ!?」

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