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第22話 感謝

 私の感謝の言葉、それはけっして見当違いなものではなかった。

 何せ私はアルフォートに一度命を救われている。

 つまりアルフォートは私に散って命の恩人で、そんな人間に何度お礼の言葉を投げかけたとしても、それはおかしなことではない。


 「………っ!」


 けれどもアルフォートが私へと向ける視線には隠しきれない驚愕が浮かんでいた。

 そしてその視線に私は強大な力に、今までアルフォートがどれほど苦しんできたかを悟る。

 ヒトから感謝されるという当然の行為でさえ、自分にはふさわしくないと思いこみ受け入れなったアルフォート。

 そのアルフォートの態度に私の胸に鋭い痛みが走る。


 「最初であったとき私を助けてくれて本当にありがとうございました!」


 そしてその胸の痛みに気づいた瞬間、私は口を開いていた。


 「………なにを」


 私の言葉に対しアルフォートの顔に浮かんだのは最初から変わっていない絶望と孤独だった。


 「あのままでは私は魔獣に殺されていました!あのとき誰かが………いえ、魔獣を退けられる力を持ったアルフォート様がきてくれなかったら私はここにはいません」


 「なっ!」


 けれども私はそのアルフォートの態度を気にすることなくそう声を上げた。


 アルフォートにたいして自分は何ら恐怖を抱いていないと、いやそれどころか、アルフォートの存在、そしてその力に対して感謝していると伝えるために。


 そしてその意図を感じ取りアルフォートは動揺を漏らす。

 そんなアルフォートへと私は笑いかけた。


 「改めて言わせていただきます。


 ーーー 本当にありがとうございます。あなたと出会えてよかった」


 「ーーーっ!」


 次の瞬間、アルフォートが鎧のようにまとわりつかせていた絶望と孤独が霧散した………





 ◇◆◇





 「………ほんとに君はそう思っているのか」


 私のお礼から少しの間沈黙を続けていたアルフォートの最初の言葉は震えていた。

 けれども私はあえて気づかないふりおして口を開く。


「はい!」


「……そうか」


アルフォートは私の言葉に頷いた後、また黙り込んだ。


「……思っていたよりも簡単なことだったのかもしれないな」


それからまた少ししてしみじみとアルフォートはそう呟いた。

どんな考えの結果アルフォートがそう告げたのか私は分からなかった。

けれども、ただひとつだけ私は確信してアルフォートへと声をかけた。


「私、この家に居させてもらいますからね!全然出て行く気なんてなってないし、テコでも動かないですからね!」


その言葉を否定されまいと一気に捲し立てた私にアルフォートは薄く笑みを浮かべた。


「……本当に君は物好きだな」


「余計なお世話です!」


最後にアルフォートにそうつん、と叫んで私は部屋を後にする。



……そしてその私に対してアルフォートがもう出て行けということはなかった。

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