第17話 呼び出し
「レシアス嬢、すまないが夕食を終えて湯浴みをした後で構わないので、私の部屋に来てくれないか?」
そんな風に私がアルフォートに呼び出されたのは、丁度夕食を私達が食べている時間だった。
顔を誤魔化すための化粧のお陰で顔の状態についてはアルフォートにバレていないと思い込んでいた私はそのアルフォートの言葉に頭が真っ白になって逃げるように自室へと戻ってきた。
「……どうしよう」
……けれども、当たり前のことであるが、逃げたところで状況が好転することはなかった。
お風呂上がりでいい、それは恐らくアルフォートが私の顔の状態に気づいたからこその言葉だろう。
何故なら、お風呂上がりに化粧をしているような人間なんて普通いないのだから。
「もしかしたら、考えすぎてことも……」
私は一度、もしかしたらそれは私の考えすぎなのではないか、なんていう希望に縋ろうとする。
「ないですよね……」
……けれども夕食の時の真剣そのもののアルフォートの表情を思い出して嘆息した。
私が食事を用意するようになってから、アルフォートが私に向ける表情は柔らかくなっていた。
少なくとも私はそう感じていた。
だからこそ、食事の場でのアルフォートのあの表情は、何か覚悟を決めたように
に張り詰めていた。
「私をこの家から追い出すのかな」
……そして、その覚悟で私が思い当たることなんて一つだけだった。
一度そのことを考えてしまえば、アルフォートは私の状態に気づいていて、だからこそ私を王都に戻そうとしている、と私は思い込んでいた。
この家から追い出す、その表現は本来ならば全く正しくないものだろう。
何故なら、私の本来の居場所は王都であるし、アルフォートは善意で私をこの魔境にある家から王都に連れ出してくれるのだから。
「いや!」
……けれども、私にはこの家から追い出されるようにしか感じられなかった。
何故なら、今の私にとって心休める場所はここだけしかないのだから。
だから私は誓う。
絶対にこの顔のことを誤魔化す、またはアルフォートを説得することを。
私の目の中では決意の炎が燃えていた。
「この場所からは絶対に離れてやるもんですか!」
……そして人知れずそんな決意を固めていた私は、気づかない。
私の考えは全て、勘違いでしかなかったことを……
アルフォートはそもそも、私が化粧をしていることさえ気づいていない。
そのことを私が知るのは少し後のことになる……