第15話 破滅へ
ワシーム目線です
「何故だ!」
クラッスター家当主の自室の中、私ワシームは苛立たしげにそんな言葉を吐き捨てていた。
そして私が親の仇であるかのように、机の上に置かれた今までクラッスター家と親交があった貴族から送られた手紙を睨む。
……何故ならその手紙には、どれも今後はクラッスター家とは関わらないというような内容が示されていたのだから。
「ふざけるな!」
私は激情のままに、その手紙を握りつぶす。
私の頭に浮かぶのは、手紙の主である貴族達にレシアスが魔境に言ったと告げた時の反応。
その瞬間、今まで私に対する貴族達の対応はガラリと変わった。
私へと侮蔑の視線を向け、側にいた人間に私を屋敷から叩きだすように告げたのだ。
私は困惑しながらも、しかしだからといってどうすることもできず自分の屋敷に戻ってくることしか出来なかった。
未だその混乱が抜けぬうちにこの手紙が届いて、そして今に至る。
「くそ!くそ!」
今の私には先程感じていたような困惑の感情はなかった。
ただ、貴族達に対するどす黒い怒りが心の中で広がっていく。
たしかに今、クラッスター家との縁を切ると出して来ている人間はレシアスが当主の仕事を代理として務めるようになってから親交を深めるようになった人間達だったかもしれない。
だが、だからと言ってレシアスが死んだ程度でクラッスター家との縁を切って良いのだろうか?
いや、そんなことはあり得ない。
貴族の家同士の繋がりは酷く強固でなければならない。
「貴族の風上にも置けん若造どもが!」
私は、改めてクラッスター家との縁を切った貴族達の愚かさを認識してそう吐き捨てた。
本当に何故そんな恥知らずな真似が出来たのだろうか。
「ふん、クラッスター家に非が無いのにも関わらず、手を出してくるような貴族達は直ぐに貴族社会から浮くに違いない」
だから私は、直ぐあの貴族達は後悔するだろうと判断して、その時の様を想像し溜飲を下げながらそう漏らした。
……けれども、その時の私は知る由もなかった。
クラッスター家と縁を切った貴族達は私の言葉からレシアスは裏切りによって強引に生贄にされたことを直ぐに勘づいていたことを。
直ぐにその事実は貴族社会全体に広がっていくことを。
「まぁいい。どうせあんな奴らなどこれから私に泣いて跪くようになる」
……自分がレシアスにした行為がバレるはずが無いと思い込んでいる私はそんなこと、想像もしない。
「ここから鉱物資源が出れば……ふはは!おい!早くこの発掘の用意をすすめろ!」
ただ、訪れるはずもない未来の栄光を夢見ながら、レシアスが必死に溜めたクラッスター家の資金を無駄に消耗していく。
……クラッスター家の破滅は人知れず、どんどんと迫ってきていた。