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第12話 強引

私の目の前で、頭を下げるアルフォート。

最初私はなぜ彼がそんな態度をとるのか理解できなかった。

何故なら私は、アルフォートが他人を拒んでだからこそ冷たい態度を取っていることを知っていたのだ。

だからこそ、何で今になってアルフォートが私へと謝罪し始めたのか理解できなかった。

決してアルフォートの謝罪が気に入らないわけではない。


「そ、そんなこと気にしないでください!」


……けれども、これ以上アルフォートに悪印象を持たれたくない私は思わずそう口走っていた。

何故、アルフォートが突然態度を変えたのか私には分からないけれども、これ以上彼を刺激して強制的にこの場所から追い出されるなんて羽目になるのは私にとって絶対に避けたいことだった。


「あんな掃除程度で、そんな謝罪してもらうことは……」


だから、私は極めて自分を何でもない存在であるかのように言葉を重ねていく。

恐らくアルフォートは私を追い出したいと常々思っていて、そのアルフォートの心を私には今変えることはできない。

だから、私はそれが絶対に追い出さないといけない、なんて考えに変わらないように動かなければならない。


「屋敷を綺麗にしてくれてありがとう。ここは私にとって大切な場所だ。久々に綺麗な姿は大切な思い出を思い出させてくれたよ」


「ない…………え?」


ーーー そんな風に考えていたからこそ、アルフォートのその言葉に一瞬私は反応することはできなかった。


「そ、掃除に怒ってはないん、ですか?」


それから少ししてアルフォートの言葉、その意味をようやく飲み込んだ私がそうアルフォートへと尋ねる。


「……すまない、謝罪の前に感謝の言葉を伝えておいた方が良かったね」


そして、その私の言葉を肯定するようにアルフォートは困ったように笑う。

それから、またアルフォートは真剣な顔をして、改めて頭を下げた。


「君がこの家を掃除してくれた時、僕は本当に嬉しかった。……けれども、僕は素直にお礼を言うことができなくて、自分勝手な事情で君にきつい言葉を投げかけてしまった。本当にすまない」


そう私へと告げたアルフォートの言葉、それは真剣そのもので、だからこそ私は理解する。


そう、アルフォートは本当に私に対して怒りを覚えているわけではないことを。


「そ、そうだったんですか……」


「レシアス嬢!?」


そしてそのことに気づいた瞬間、私は思わず安堵でへたり込んでいた。

私のその様子にアルフォートが驚くのがわかるが、それを無視して私は口を開いた。


「私、アルフォート様に嫌われたと思いました!本当、凄い落ち込んだんですからね!」


「え?あ、す、すまない」


私の言葉に、アルフォートは再度罰が悪げな表情と共に頭を下げる。


「えっ、あ、」


……そしてまさかまた頭を下げられると思っていなかった私は思わず言葉を失う。

急いで、そこまでしなくていいとアルフォートを起こそうとして、けれどもその途中で私はあることを思いついて笑みを浮かべた。


「それじゃあ、私がここの家政婦さんとして雇ってくれるなら、許してあげます」


「……は?」


私のその言葉に、頭を下げていたアルフォートは唖然とした表情を浮かべる。

それはまるでそんな言葉を投げかけられるとは思っていなかった、みたいな表情で……


「では、これで一件落着で!」


「……いや、強引すぎないか?」


……けれども、そのアルフォートの表情を無視して私はそう宣言した。

その私の態度にアルフォートは一瞬、私の方を呆れたような表情で見る。


「さぁ、ご飯ご飯」


……けれども、そのアルフォートの姿を無視して私は配膳に取りかかる。


「んふふ!」


そして、その時私の口元には隠しきれない緩んだ笑みが浮かんでいた。

強引で、決してアルフォートが完全に認めてくれたとは思えない。

けれども、ようやく私はこの家の一員になれた気がして、とても嬉しかったのだ。



……けれども、その時浮かれていた私は気づいていなかった。


「……………行くのに」


私の背後にいるアルフォートが、虚無的な目をしていたことに。

しかし、例え私が偶然そのアルフォートの様子に気づき、言葉を聞いていたとしてもそれに意味があったかどうかはわからない。


「どうせ君から離れて行くのに……」


……アルフォートが呟いたその言葉にどんな意味が込められているのか、知っているのは本人だけだった。

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