第11話 謝罪
「……はぁ」
それからの私の作業、それは今までの上機嫌が嘘のように滞ることとなった。
それでも決してサボっているわけではないので、時間まで間に合うことは確かだろうが、けれどもいつもの私からでは考えられないほど作業は遅々として、進んでいなかった。
……そしてその原因はもちろん、アルフォートとの一件だった。
アルフォートの拒絶が、どうしても私の頭の中から離れようとしなかったのだ。
恐らく、アルフォートに私が特別に嫌われたとか、そんな話ではないだろう。
恐らく、アルフォートは人間に対して苦手意識を抱いていて、だからこそ私を拒絶したのだろう。
……そしてアルフォートが人間を拒絶していることを私は最初から理解していた。
こんな魔境にまるで人を避けるように住み、そして私のような迷い込んだ人間はすぐにこの場から追い出そうとする。
そして彼の目に時々浮かぶ、私に対する拒絶。
そのアルフォートの態度から私に彼が人間を拒絶しようとしていることがわからないわけがなかった。
「……やはり、ダメかあ」
……けれどもアルフォートに拒絶されていたことをそのことを知っていながら、それでも現在私は衝撃を隠すことができなかった。
「何でなんだろう……こうなること、分かっていたはずなのに」
そしてその原因は私にさえ、理解することができなかった。
私はアルフォートに自分が拒絶されていることを理解していたはずだった。
そのことをわかってこの場所に居ることを決めた……
ーーー いや、そのアルフォートの孤独を彼の目から感じたからこそ、私はこの場所にいたいと思ったはずなのに。
けれども今私はアルフォートの拒絶にこれ程までに衝撃を受けている。
それは私にとっても酷く不可解なことだった。
「……急がなきゃ」
……自分の心に対する違和感と、アルフォートに拒絶されたことに対する疎外感を抱えながらの調理は、終わるまでにかなりの時間を有することになった。
◇◆◇
「ああ!もうこんな時間!」
アルフォートに夕食の時間だと聞かされていた時刻の直前、私はやっと作り終えた料理を抱えて走っていた。
料理は胸にしこりを抱えた状態ながら、なんとか満足出来る出来栄えになっていたが、そのかわりかなりの時間を消費することになっていたのだ。
だからこそ、私は急いで夕食の支度をしないといけないはずなのに……
「っ!」
……けれども、部屋の扉の取っ手に手をかけた私は一瞬動きを止めた。
急いで支度しないといけないことは分かっている。
けれども、どうしても躊躇してしまい、私は扉を開けることができなかった。
ーーー しかし、次の瞬間扉は内側から開かれることとなった。
「……え?」
「……レシアス嬢?」
扉の中から現れたアルフォートの姿に、私は思わず硬直してしまう。
扉を開ける時点で躊躇していた私にアルフォートと顔を合わせる準備なんてできているはずが無くて……
「レシアス嬢、一つ謝らせて頂いていいだろうが?」
「……へ?」
……けれども、そんな私を何故かアルフォートは決意のこもった目で見つめていた。
そしてあまりにも突然すぎる彼の言葉の意味を私が理解する前にアルフォートは大きく頭を下げた。
「先ほどのこと、せっかく掃除をして頂いたにもかかわらず、きつい言葉を投げかけてしまい申し訳無かった」
「え、えええええ!?」
次の瞬間、ようやく状況を理解した私の悲鳴が屋敷中に響き渡ることとなった……