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第10話 静かな拒絶

「……これを一人でしたのか?」


そう私に尋ねたアルフォートの声に含まれていたのは隠しきれない驚愕。

そしてそのアルフォートの驚きように私は戸惑い、もしかしたら立ち入っていけないところまで掃除してしまったのか、なんて考えが頭に浮かぶ。

確かに私はアルフォートから掃除の許可は貰ったが、半端強制なもので、だからこそ注意事項など聞いていなかったことに今更ながら気づいたのだ。


「はい。あ、あのもしかして……」


「見違えるほど綺麗になった」


「……私が何か至らぬ……え?」


だからこそ、家の中を呆然と見つめながらアルフォートが漏らしたその言葉に私は思わず目を丸くした。

アルフォートが漏らした言葉、そこに含まれていたのは私への不満ではなかった。

それどころか、私にはその言葉の中には隠しきれない感慨のような物が込められているような気がして。


「あ、アルフォート様?」


気づけば私はそんな風に声をかけていた。

一体何故なのかは分からない。

けれども、私は今のアルフォートの姿に胸が締め付けられるような感情を覚えて……


「……確かに屋敷は綺麗になった」


……けれども、次に私の方向へとアルフォートが振り向いた時、その顔にはいつもと変わらない表情に戻っていた。

そのことに私は少し戸惑う。

アルフォートは先程の表情が嘘であったかのように変わっていたのだ。


「は、はい!」


けれども、私はその違和感を直ぐに頭から締め出していた。

アルフォートの言葉に自分の働きが認められたとことで、胸の中に溢れ出した喜びがその違和感を頭から締め出したのだ。


「だが、誰がこんなことをしろと頼んだ?」


「……え?」


……けれども、その私の微笑みに対して、アルフォートの顔は酷く冷たかった。

アルフォートの言葉からてっきり喜ばれるだろうと思い込んでいた私は、その冷たい声に反応することができず思わず言葉を失う。

けれども、その私の反応など興味が無いというようにアルフォートは言葉を重ねる。


「君はここから早く出れるようになることだけを考えていれば良いんだ」


「ーーーっ!」


ーーー そしてそのアルフォートの言葉に私の胸の中から、先程まであった喜びの感情が霧散していった。


「この家のことを何かしようとするのは、今夜の夕食限りにしてくれ」


その言葉を最後にアルフォートはこの場を後にする。


「………」


……そして後に残された私はただ、ぎゅっと手のひらを握りしめることしか出来なかった。

アルフォートの言葉、それは決してはっきりと口にしたわけではなかったが、私の拒絶だった。

それは静かな、けれどもあまりにも残酷なもの。


「お夕飯、作らなきゃ……」


そしてその拒絶に私の心はぼろぼろに傷つけられていた。

酷く重い足を引きずり、私は厨房へと戻っていく。


……先程まで楽しく感じていた夕飯の準備が、何故か酷く味気ないものに感じた。

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