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白髪姫

作者: 葵陽

冬の童話祭2018参加です。


お読みいただければ幸いです。




むかしむかしあるところに、美しい魔女がいました。

東の森に住む、その魔女の名前はドロシーといいます。


美しく、若い容姿のドロシーは

自分の美しさを誇りに思っていました。


東の森の魔女ドロシーには夢がありました。


ひとつは、世界一の美女になること、

そしてもうひとつは、女王になること。


ドロシーは、魔法の鏡に問いかけます。


世界でいちばん美しいのは誰だい


すると魔法の鏡はこう応えます。


世界でいちばん美しいのは白雪姫だ、と。


魔法の鏡に写し出されたのは、

艶やかな黒髪と、雪のような真白い肌を持つ

美しい白雪姫でした。


白雪姫は、西の国のお姫様でした。


ドロシーは

自分より美しい者はこの世にいらない、と

白雪姫を魔法で殺してしまうことにしました。


ドロシーは、地位と容姿、自分にないものを

すべて持っている白雪姫に嫉妬していたのです。



ドロシーは若い女の子になりすまし、

西の国にやってきました。

町の人たちの、話し声が聞こえてきます。


また、姫様が大通りをお散歩されていたよ


とても可愛らしいお方だ


ドロシーはそれを聞き、町の大通りに足を運びました。

白雪姫が、どんな娘か

実際に見てみようと思っていたからです。


ドロシーが大通りまでやって来ると

白雪姫の姿はなく、中央の広場のベンチに

おばあさんがひとり座っているだけでした。


周りを見渡しても若い娘の姿はありません。


ドロシーが呆然と立ち尽くしていると、

小道からちいさな男の子がやって来て

ベンチに座るおばあさんに近寄り、言いました。



白雪姫様、今日はどんなお話をしてくれるの



なんということでしょうか。


ドロシーは魔法の鏡が写し出した、

美しい若い娘が白雪姫だと思っていました。

しかし実際の白雪姫は

白髪の、顔中皺だらけなおばあさんだったのです。



白雪姫は、今年で齢九十八。

それでも今まで未婚だったゆえに、町の人は

「姫」と呼んでいたのです。

姫は今も現役で、政務を行っており

優秀な家臣や召し使いは大勢いましたが

子供はもちろん、後継者もいませんでした。



例え若い頃は美しくとも、

年老いてしまえばその姿は、醜く歪む。


そう考えていたドロシーは、

どうして鏡はあのような老体を世界一美しいと

言ったのだろう、と不思議に思いました。


ただ、あのような老体では

すぐに寿命が尽きるだろうとドロシーは、

白雪姫を殺すのを辞めてしまいました。


毒の櫛も、毒リンゴもそれなりにお金や手間がかかるのです。


その代わり、老体の白雪姫に取り入って

自分が次の女王になることを考えました。


まずドロシーは、お城の召し使いになることで

白雪姫に近づこうとしました。


幸いにも、白雪姫の身の回りのお世話をする

メードが足りないというのでそこに割り当てられました。



次に、白雪姫の口から「次の女王は、ドロシー」と

後継者にしてもらえば良いと考えたドロシーは

白雪姫に魔法をかけることにしました。


早速ドロシーは白雪姫の行動、

趣味や嗜好などを観察しました。




趣味は読書に編み物、最近は極東の国の「漬物」とやらに御執心のようだという。


朝は四時に起きて、庭師と共に庭木の手入れ。

その後自室にて政務、召し使いと針仕事。

昼食を食べたら午後一時より昼寝をし、

三時から町に出て散歩。

五時には夕食を食べ、午後七時には就寝。


姫、というわりにはかなり気安いらしく

一介の召し使いでも、白雪姫に近づくのは容易でした。


ドロシーは、自分が怒らせた相手の体を

乗っ取ることができる魔法を使うことができました。


白雪姫が、庭で一人になったところを

ドロシーは近づきました。


誰も周りにいないことを確認し

そしてドロシーは、姫に言うのです。


このクソババア!

腰の曲がった役立たず!

しわくちゃだらけの化け物!



ドロシーは、姫を怒らせようと

必死で罵詈雑言をぶつけましたが

姫は一向に怒る気配はなく

眉尻を下げて困った顔をしているだけでした。


ドロシーは、白雪姫を怒らせるために

思い付く限りの汚い言葉を浴びせましたが

ドロシーはまるで自分が汚くなっていくような

感覚を覚えました。


そして、虚しくなったドロシーは

その場で黙って座り込んでしまいました。

まるで抵抗していない人を殴り続けているような

そんな罪悪感が、ありました。


白雪姫は、座り込んでしまったドロシーに

大丈夫か、と話しかけました。

その声色は、とても自分を侮辱した相手に対するものではありませんでした。


どうしてこのような老婆に、同情されなくてはいけないのか!!、とドロシーはとても侮辱された気分でした。

現実ではドロシーが姫を侮辱していたというのに。


どうして怒らないのか、とドロシーは

白雪姫に聞いてみました。


白雪姫は応えます。


ドロシー。

怒りというのは

真っ先に出てくる感情ではないのです。


ドロシーはそんなの嘘だ、と思いました。

ドロシーが今まで魔法をかけてきた人間はすぐに怒り出し、

ドロシーに体を乗っ取られていたからです。


人間はすぐに怒る。

それがドロシーの常識でした。


白雪姫は、続けて言いました。


人は、最初から怒っているわけではありません。


確かにすぐに怒り出す人もいるけれど、みんな

最初に思うのは、「かなしい」という感情なの。

誰だって非難されるのはとても悲しいし、残念なことよ。



わたくしが怒らないのは、怒っても何にもならないから。

怒った方も非難した方もどちらも、哀しいだけ。



皺だらけの、醜い老婆。

自分が蔑視した存在に、自分の魔法をかけられない。

ドロシーの魔女としてのプライドがひどく傷つけられました。




白雪姫は若い頃、魔法の鏡に写ったように

それはそれは美しい容姿でした。

だが、それゆえに様々な偏見にも見舞われ

他人の、精神の汚い部分を見せつけられて

一時はその高潔な精神さえも、曇らせたことがありました。


しかし長い年月の中で、良い家臣や友人に出会い

しだいにその高潔さを取り戻していきました。

残念ながら白馬に乗った王子様には出会えませんでしたが、

白雪姫はこれはこれで満足な人生だったと言います。



白雪姫は、老いてもなお

白雪姫は、老いたからこそ

美しいと言われています。


容姿は枯れたと言われても

その高潔な精神は、美しい。


そんな美しさを、ドロシーの魔法の鏡は

感じ取っていたのかもしれません。



ドロシーは、耐えられず

その場から走って立ち去りました。


そしてその日の夜、お城の長い廊下を、こっそりと

裏門まで歩いていこうとしていました。

ドロシーは、森へ帰ろうとしていたのです。


このまま朝になれば、姫が家臣や召し使いに侮辱されたことを話し、ひょっとしたらドロシーが魔女であることも知られてしまうかもしれないと思ったからです。


魔女であることを知られれば、殺されてしまうのです。





ドロシー、ドロシー。


もうすぐそこの角を曲がれば裏門、というところで

ドロシーは呼び止められました。


ドロシーが振り替えるとそこには白髪の老婆、が腰を曲げ

立っていました。


この城に、老婆は一人しかいません。


今は、日付の変わった十二時半。

白雪姫はとっくに寝ている時間です。


姫、なぜこんなところに。


ドロシーは、訊ねます。


可愛らしいドロシー。

非難されるのは、嫌だけれど

またいつでもお城にいらして。


それだけを言いたくて、待っていたの。


白雪姫は、それだけ応えると

きびすを返して、自室へと帰っていきました。




東へと伸びる道の先、高い丘の上から

ドロシーは西の国を一望しました。


町の喧騒が、丘の上からでも聞こえてきます。


とても良い国なのだろう。

わずか七日しか滞在していないが、誰一人

白雪姫の治世を悪く言うものはいなかった。







そういえば、とふとドロシーは思う。

なぜ、白雪姫は私の名前を知っていたのだろうと。



わずか七日、それも自分の召し使いとはいえ

末端だった私を。

下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる戦法!(笑)

そして、王子、小人、毒リンゴ不在。

もはや白雪姫?という作品ですが。(ifなのに)



読んでいただけるだけで御の字です。



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