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いつか、あなたと  作者: 千夢
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第三章 あなただから恋した

 散切り頭を叩いてみれば文明開化の音がする。

 時は明治四年、散髪脱刀令が出されていた。髷を結わない、刀を持たないという命令だ。しかし、人を殺めてしまうかもしれない刀はともかく、時代が変わったからという理由だけで長年髷を結っていた大人たちは髪を切ろうとはしなかった。つまり、ほとんどの家庭で文明開化の音はしていない。

 喜助はまた生まれ変わり、今度は佐吉と呼ばれていた。川の横の田んぼで稲作をする農家になっている。

 今のところ、お夏には会えていない。少なくとも、あの背中に何かが通り抜けるような感覚は今世一度も感じてなかった。

 会うこともできぬか。佐吉はふうとため息をつきながら田んぼで稲刈りをしていた。母親が家の側から大声で呼んだ。

「佐吉ー、ご飯ができたよ。手を休めてあがりなせい」

 佐吉も答えて手を振る。のどかな風景だ。ここにお夏がいたらどんなにいいことだろうと想像する。

「佐吉、名字を付けなさいという条例はどうするね?」

 明治三年九月に『平民苗字許可令』なる条例が公布された。平民も苗字を付けてよいという条例なのでが、佐吉の周りの誰も苗字を付けてなかった。庶民は御用金を申し付けられるというまことしやかな噂がたっていたからだ。それほど裕福でない佐吉の一家も御用金の三文字を聞いてから苗字を付けることに二の足を踏んでいた。

「義務ではないから今はいいでしょう」

 そう言うと、佐吉は母が握ってくれたおにぎりをほうばる。梅干がほぐしてまぶしてあり、とても美味しい。

「それに、苗字を付けると言ったって、なんて名字にしたらいいかわからないよ」

 佐吉が言うのと同じことを農民たちは言っている。漢字が書けない人がほとんどの農民はそもそも名字が浮かばない。前世の記憶を持つ佐吉は本当は漢字を読み書きできるのだが、ここで目立ってもしょうがないと、漢字を読めないふりをしていた。

「誰か、名付けてくれる人はおらんかねぇ」

 母がのんびり言うが、佐吉は聞こえないふりをした。罰則はないんだ、気にしなくたっていい。川横の田の佐吉のままで充分伝わる。

 佐吉はほうっと息をつくと、刈ったばかりの稲を見る。今年は豊作だ。もともと川の横で水の心配の少ない佐吉の田んぼだが、今年は水が他の家の田んぼまで行き渡ることをわざわざ考えなくても良かった。水の心配をしなくていいということはすばらしい。

 稲作は性分に合っていた。採れたものの一部を年貢で納め、残りを売ったり交換したりして生活していく。分かりやすくていい。これから稲を干して、脱穀して、そうしたら食べていける。味噌やしょうゆも買える。未来を想像するのが楽しかった。

 江戸時代に二回、生を受けた自分はなんなのだろう。突然思い浮かぶ。時代をまたいで明治にまで生きている。生きている意味を問われたとしたら、確信ではないものの、愛する人に出会い、想いを遂げるためと言うだろう。でなければ、なぜお夏と、お夏と同じ魂を持つ小春に出会ったのか理由が思いつかない。

 だが、現世でお夏と出会っていないのが淋しかった。なんとなく、ボーっと過ごす毎日。米を作るだけの毎日。

 前世での教訓を生かして、真面目に生きていた。いや、今世は農家でこの風貌ではもてないだろうが、万に一つの間違いも無いようにと、お夏のことばかり考えて生きてきた。だが、それも出会えないではしょうがない。

 お夏に会える日を待ちわびながら毎年過ごしてきた。齢十八、そろそろ結婚だってしたい。でも、お夏以外に相手は考えられない。

「佐吉、そろそろ見合いしてみたらどうだい」

 母は良かれと思って言っているのだろう。しかし、佐吉は首を縦には振らなかった。

「結婚なんてめんどくさい」

 もちろん、本当の理由じゃない。お夏に出会うまではこれは頑として譲れない。正直に話したところで笑われるだけだから、これは誰にも言わない。父親がいたらこんなことは言えなかったかもしれない。数年前に病で倒れた父を思い浮かべる。親父、すまぬ。わしはお夏以外に考えられない。

 やれやれ、いつまでお夏のいない時間を過ごせばいいのやら。手の中にあった梅おにぎりをぽいと口に入れると、佐吉は稲刈りの続きを始めることにした。


 明治五年、住職僧侶苗字必称義務令が布告されたらしい。字のとおり、住職と僧侶は名字を必ず付けなさいということだ。

「佐吉や、お坊さんが苗字を付けるなら、わしらもつけないといけないんじゃなかろうかねぇ」

 母はおどおどしながら佐吉に言う。

「いや、これはお寺さんに居る方が苗字を名乗らないといけないという命令だから、わしら百姓には関係ないと思います」

 佐吉は母の顔を見ずに言い切った。正直、苗字なんてめんどくさい。前世の武士の頃は名乗っていたが、あの頃の家住みの時代のつらさを考えると苗字のないこの生活は羽を伸ばした気分になっていた。


 そのころ、政府は頭を悩ませていた。いつまで経っても苗字を付けようとしない農民。御用金など取るつもりも無いのにまことしやかに流れる噂。これからの時代を変えていくのに名字は必要だと思うのだが。戸籍を作ったりするのに必要不可欠だ。このままでは調査もできない。住職に義務化したら農家にも広がるだろうという考えは甘かったようだ。

 これから国はどんどん発展していくだろう。江戸時代の鎖国状態とは違い、西洋の影響を受け、技術も文化も変わっていく。その中で農民だけ取り残すわけにはいかない。

 はて、どうしたものか。農民にも苗字の義務化をさせるしかないのか…………。


明治六年、天皇がご断髪された。当時天皇の平民への影響は大きく、平民の髷へのこだわりが薄れた。ここへきて散髪へ行く平民がどっと増える。散切り頭があちこちに見られ、やっと文明開化の音が響いた。時代は大きく変わっていく。

 国は議論を重ねた上、明治八年に平民にも家名をつけることを義務化した法律、平民苗字必称義務令を出した。慌てたのはもちろん平民達。漢字のかの字も知らぬ自分達がどうすればいいのか全くわからなかった。

 考えた末、漢字の読める人に相談しようと神官や僧侶、家主の元へとみな集まった。数多くの平民の名前を付けなければならなかった神官や僧侶は時に珍名を作ってしまっていたことは、後々の世にも伝わる笑えない話。

 さて、川横の田の佐吉も、ここへきてやっと重い腰を上げる。みなが押しかけているときではろくな名前を付けてもえらえぬだろうと、ちょっと寺が空いてきたことを耳にしたときに出向くことにした。

「おっかぁ、寺、行ってくる」

「いよいよウチにも苗字がつくんだね?」

「そういうこと」

 そう言い残し、佐吉は寺へと向かった。寺の和尚が去年変わったと聞いたが、どんな和尚か。優しい和尚様ならいいが。

 緊張しながら佐吉は扉を開けた。

「すみません、川横の田の佐吉です」

 奥から出てきたのは二十代と思われる尼僧だった。そして。

 まさか、こんなところで。佐吉は衝撃を受けた。背中に走る稲妻、そこにいる尼がお夏だということだ。動揺した。佐吉はしばらく何も言えなかった。

「佐吉さんですね。名前は知っています。中へお入りください」

 にっこり笑う顔がお夏とそっくりだった。切れ長の目がきゅっと上がって愛らしい。

 促されるままにその尼について行く。ぼーっとしてしまい、自分がどうしているのかわからない。

「…………さん、佐吉さん?」

 尼の声掛けにはっとする。

「用件はなんですか?」

「は、はい、我が家も、苗字をつけてもらいたくて」

 正直、前世での記憶で漢字は知っている佐吉だが、それを出すわけにはいかないからみなと同じように寺に来たわけだが、まさかここで運命の出会いが待っているなんて。

「苗字ですね、わかりました。分かりやすいのがいいかしら?」

 佐吉は無意識に二段階の頷きをした。

「では、今までとほとんど変わらないものにいたしましょう。川横の田、から、川田でいいと思います」

 そういうと尼は半紙に筆で川田、と書いた。

「これをもって役場へ行きなさい」

 笑顔ののまま尼はその半紙を佐吉に渡す。それを受け取ると、佐吉は思い切って聞いた。

「あなたのお名前を教えてくだせぇ」

「これは名乗りもせず、失礼いたしました。佐倉妙高と申します」

 妙高さま。思わず佐吉は頭の中で呟いた。今すぐにでもお慕いしておりますと伝えたかった。

「苗字をつけていただいてありがとうごぜぃました。また寺に来てもいいですか?」

「もちろんです。ご先祖様がお喜びになります」

 あなたに会いたくて、とは言えない佐吉だった。頭を下げて寺を出る。

 まだぼーっとしたまま歩いていた。無意識に家に戻り、ぺたんと座る。

「佐吉、どんな苗字に………佐吉や?」

 母の問いかけにハッとする佐吉。顔は緩んでいる。

「どうした、そんなトロンとした顔して。なにがあった?」

「おっかぁ、わし、恋してしまっただ」

「はぁ?」

「寺の尼さんに、恋してしまっただ」

 母はしばらく黙っていた。そして、ポツリと言う。

「あきらめなせぃ」

 佐吉だってこう言われることは分かっていた。しかし、普通の恋ではない。前世から続く恋なのだ。前世でも小春にぶつかってみたのだ。今世でも万に一つの可能性にかけてみたい。

 それから、佐吉の寺通いが始まった。墓の掃除と言い寺に出向く、法事の相談として寺へ出向く。それを見るたびに母はため息をついていた。

「佐吉、尼さんに会いに行っても結果は変わらないよぉ」

 そんな母の言葉には耳を貸さない佐吉。今日も寺に出向いた。

「佐吉さん、よく来てくださいました。ご先祖様もお喜びだと思いますよ」

 妙高が声をかけた。この声を聴くために来ているのだ。今日もいい日だ。佐吉の顔はとろんとする。

「最初に来た時より顔つきが穏やかになってます。これもご先祖様がお見守りしているからかもしれんませんねぇ」

 佐吉は何も言えなくなり、黙って会釈する。妙高がにっこり笑い、寺に入ろうとしたとき佐吉は今言わなけらば後悔する、と、声をかける。

「妙高さま」

 妙高は足を止め先ほどの笑顔で佐吉を見る。

「なんですか?」

 佐吉は一度つばを飲み込み、息をつくと一つ質問した。

「妙高さまは、恋をしたことがありますか?」

 妙高は眼をぱちくりした。そして、ふっと笑うと答えた。

「遠い過去に。今は仏に仕える身ですからありませんけどね」

 そう言うと、妙高は会釈して寺に入ろうとする。

「もし!」

 佐吉は大声を出した。妙高は驚いて振り向く。

「妙高さまに恋した男が現れたらどうしますか?」

 しばらく沈黙が流れた。切れ長の目をちょっと大きくして固まっていた妙高だったが、ちょっとして、何事もなかったかのように答えた。

「先ほども言いましたが、私は仏に仕える身です。もうどなたとも、どうこうなろうとは思いません」

 そう言うと妙高は足早に寺の中に入っていった。

 妙高の言葉がぐさりと来た。どなたとも。もちろん、佐吉とも。でも、まだ佐吉は諦められなかった。佐吉は今度、寺に来た時に聞く言葉を考えた。

 家に帰る。玄関で座り込んでいる佐吉を見て母は、はぁとため息をついた。

「佐吉、諦めなせぃ」

 こう言われることは分かっていた。でも、決めるのは自分だ。

「わしは、諦めきれん!」

 そういうと、足をぺちっと叩き、家の奥へ向かう。母はもう一度ため息をついた。

「厄介な人を好きになったもんだねぇ………」

 母の呟きを、佐吉は聞いてないふりをした。

「おっかぁ、飯!」

 佐吉にさえぎられ、母はご飯を用意する。佐吉は飯をかっ込んだ。泣きたい気持ちを飯で抑えた。


 寺で、妙高もぼんやりしていた。やることはあるのだが、どうもする気にならない。

 まさか、こんなことで動揺するとは。私もまだ修業が足りないということか。

 佐吉のまっすぐな気持ちが伝わり、どうしたらいいか分からなかった。自分は仏に仕える身。受け入れるわけにはいかない。あの言葉で諦めてくれればいいが、なんとなくそうはならない様な気がしていた。

はて、どうしたものか。

 妙高は自分が思って言うよりも佐吉の影響を受けていることに気づいてなかった。恋の告白の経験は何度かあった。しかし、あの真っすぐな目は、見たことがない。

 妙高は知らぬ間にため息をついていた。こんなに頭を悩ませたのは何年ぶりだろうか。座禅でもして落ち着こう。そして、やらなければならないことを済ませるのだ。


 脱穀を済ませた佐吉はまた寺へと向かった。決着をつける覚悟ができた。これで駄目なら諦める。諦めないといけないだろう。この言葉で駄目ならもうどうすることもできない。後戻りできなくても言わなきゃいけない。わしは、男だ。

 まずは墓参り。親父、俺はこれから一世一代の大告白をする。お願いだからわしを助けてくれ。

 かなり邪な思いを添えた墓参りだが、ご先祖様に頼る時はこんなものかもしれない。

 本堂に向かう。扉をからからと開け、「ごめんくだせぇ」と声をかけた。

 妙高が出てきた。途中で立ち止まったが、それも一瞬。いつもの笑顔を浮かべて玄関まで出てくる。

「こんにちは。どうかなされましたか?」

「き、聞いてほしいことがあるだ」

「なんでしょう」

 いつもと変わらない調子の妙高に、一つ相談してみる。

「恋した男にはどんな教えを下さりますか?」

 妙高は少し首をかしげた後、こう言った。

「少し冷静になるように言います。恋の病という言葉もありますから。盲目になっていて見ないふりをしていたところが後になって争いのもとにならぬとも限りません」

 妙高は釘を刺したつもりだった。しかし、佐吉は譲らなかった。

「妙高さま、わし、恋しただ。妙高さまに恋しただ。尼さんを辞めてくだせぇ!」

 これを聞いた妙高は冷静だった。

「佐吉さん、話を聞いてましたか?冷静になってく………」

 妙高の言葉を最後まで聞かずに佐吉は叫んだ。

「わし、この人生で初めて言うけんど、この恋は前世から続いているだ。前々世から続いているだ。わしはずっと想いを遂げられずに、記憶だけ残してまた生まれ変わっただ。きっと、同じ魂を持つ妙高さまと想いを遂げなせぃと神様が言ってるだ!」

 妙高はきょとんとした。そして、こみ上げてくる笑いを隠せずにくすくすと笑いだし、それが徐々に大きくなった。

「本当なんだ。妙高さまは最初の前世ではお夏で、次が小春で、今、妙高さまに転生しただ! お夏のころからわしは惚れてるだ!」

 妙高はそれを聞いてかえって冷静になった。

「佐吉さん、それでは、あなたは私に恋しているわけではありません」

「そんなことない、わしは………」

「あなたは、お夏さんに恋しているのです」

「もちろん、お夏に恋しただ」

「私はあなたにとって、お夏さんの幻影です」

「げんえい?」

「お夏さんの影ということです。あなたはお夏さんと結ばれたいわけで、私と結ばれたいわけではないのです」

 佐吉は意味が分からず混乱する。佐吉にとって、妙高はお夏であり、小春であり、妙高だ。

「もし、私がお夏さんの魂出なかったらあなたは私に恋しますか?」

 佐吉は固まった。妙高がお夏ではなかったら? 考えてみたこともない。

「いや、でも、妙高さまに出会ったとき、背中に電気が走っただ小春の時もそうだっただ。そして、お夏の波動を感じただ」

「その言葉では、女は恋に落ちません。あなただから恋した。これが重要なんです」

 佐吉には理解できなかった。佐吉の中では全員同一人物だ。お夏であり、小春であり、妙高なのだ。全員同じ魂を持っている。複数の、あなただから、なのだ。しかし、妙高の話ではそれではいけないらしい。

「佐吉さん、逆を考えてください。私が突然、あなたは前世で私と恋したからまた恋しましょう、と言われて気分がいいですか?」

 佐吉は考えてみる。逆は考えたことがなかった。ただ、前世でつながっていたと思うと嬉しいと思ってしまう自分もいた。

「わし、それでええだ」

「私は嫌です」

 妙高ははっきりと言った。

「私は、仮に仏に仕えてなかったとしても、私自身だから恋したと言ってくれる方がいいです。だから、佐吉さんとはご縁がなかったのでしょう」

 決定打だ。佐吉の手は震えだした。

 今世でも叶わぬか。わしは、何のために産まれてきたのか。なぜ、前世の記憶を持ったまま産まれたのか。お夏と同じ魂の女と出会うためではないのか。

 ぎゅっと握った拳。なかなか力は抜けなかった。

「もう、私のことは忘れてください。ただの尼僧としてお付き合いください」

 妙高はそういうと頭を下げ、本堂に入っていった。

「妙高さま………」

 扉が閉まってからしばらくたっても、佐吉はそこを動けなかった。よくわからなかった。女心を理解できなかった。ただ分かるのは、たった今、妙高に振られたということだ。がくりと力が抜け。膝が地面に着いてしまった。しばらくそこでぼんやりしていたが、もうどうすることもできないことを悟った。ゆっくり立ち上がり、とぼとぼと家路に着く。

 扉をゆっくり開ける。母が米を炊いていた。竹筒で一生懸命火に息を吹きかけている。

「おっかぁ、わしは、もう寺へは行かない」

 それを聞いた母は何事もなかったように頷くと、また息を吹き込んだ。

「それがえぇ」

 返事をした母はホッとしたような、残念なような複雑な顔をしていた。佐吉には伝わっていないが、母はやっと恋した佐吉の願いが叶えばいいとも思っていた。万に一つの確立が当たらなかったのが残念だった。

「飯、いらねぇ。寝る」

 佐吉はそういうと自分で勝手に布団を敷いて寝ころんだ全然眠れなかったが、何も聞こえないふりをして目をつむっていた。無意識のうちに涙がこぼれる。それもそのままにして、動かなかった。

 佐吉は考えていた。また記憶を持ったまま転生するのだろうか。もししたとして、今度こそ願いは叶うのだろうか。そして、妙高が言っていた、あなただから恋したと言えるのだろううか。お夏の魂を持つ、別の人格の女性と恋に落ちることはできるのか。その時代はどうなっているのだろうか。自分はどんな立場でどんな仕事をして、どんな風貌なのだろうか。

 つらつら考えているうちに、眠りにつく。


 その後、佐吉はやはり結婚しなかった。母がどんなに見合いを進めても頑として聞かなかった。妙高が言った言葉は理解したが、あなただから恋したと言える女性にはとうとう会えなかった。つい転生してお夏と同じ魂を持った女性に会いたいと思ってしまうのだ。

 母が亡くなると、佐吉は家事も田んぼも一人でこなさなければならなかった。無理がたたったのか、体を壊してしまう。そして、助ける者もいない。一人淋しく、死を迎えた。

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