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第三話 だから宗教には興味がないと何度言えば①

「なんか、さっきよりも増えてる気がするんだけど」


 四人掛けのテーブル席に座る俺たちを見回して、郁夏が頭上に疑問符を浮かべていた。

 時刻はとうに昼時を迎え、俺とティナとリリィの三人で先に近くの飲食店に入り、用事を済ませてやって来た郁夏と合流し、こうして今に至る。


「気のせいじゃないか?」


 メニュー表を広げながら顔を見ることなく流す俺にそうかなあといまいち納得していないような声を漏らし、俺の横に腰掛けた。その席の斜向かいにはティナ、そして正面には新顔のリリィが座っている。


「はいこれ、メニュー表。待ってる間にリリィはもう決めたから」

「お、気が利くねえ」


 受け取りどれにしようかなと悩む郁夏は、ついに違和感の正体に気付いたのかバンと両手で席を叩き勢いよく立ち上がると、正面のリリィを指差した。


「いや私この子知らないから! 全然気のせいとかじゃないから!」

「オイ、急に大声出すなよ。みんな見てるだろ」


 ハッと我に返り恥ずかしそうに席に着く郁夏だが、間髪を容れずに俺の脇腹を肘で突いてきた。


「ぐえっ。……いきなり何すんだ」

「う・る・さ・い。元はといえば私に何も言わなかった翔太が悪いんじゃん。文句を言われる筋合いはないんですぅー」


 そりゃごもっともで。


「で、私にも紹介してよ。この子」


 リリィのことを顎で指す郁夏。ふわり髪が揺れシャンプーのいい香りがした。

 リリィはデニムショートパンツに白いノースリーブを合わせたカジュアルな格好をしていた。投資した結果だ。やけに肌の露出が多いが目に毒というほどでもない。


「そうだな……」


 俺はかくかくしかじか事の顛末を郁夏に説明した。

 話を聞いた郁夏は終始胡乱な目付きで俺を見、最終的にはジトーっとした目を向けた。


「翔太さ、なんか破れかぶれになってない? 大丈夫?」

「なんだよ藪から棒に」

「協力してもらうってことはうちに来るってことだよね? 他の魔法少女に助けてもらえるのは確かに良いことだけど、その分また出費が嵩むよ。ちゃんと計算とかしてる?」


 郁夏のやつ、急に母親みたいなこと言い出しやがったな。うちの母親の場合、万が一にもそんな台詞口にしないだろうけど。


「大丈夫だよ。さっき金下ろしに銀行行ったら桁一つ間違ってんじゃないかってくらいあったしな。それに養う人数が増えても飯のクオリティを落とすつもりはない」

「私の言いたいことと少しずれてる気もするけど……まぁいいや」


 いいのかよ、なんてわざわざ突っ込むことはせず、俺は再び言葉を紡いだ。


「とりあえず飯食ってからでいいからさ、リリィの下着見繕ってやってくれよ」


 本当は服よりも先に下着から決めて然るべきなんだろうけど、いかんせん俺にもう一度入る勇気がなかった。

 俺の要望に、幼馴染みは仕方ないなあといった風に首を縦に振った。




 †




 いつの間にか日が傾き、冷たい空気に晒されながら帰途に就いた俺たちを待ち受けていたのは、ストーカーと置換しても何ら差し支えないポロンこと大門寺だった。

 しつこく現在地ばかり訊いてくるメールをことごとく無視したから、ついには家に張ってやがったな。

 俺の玄関前に気障ったらしく立ち、俺たちの姿を認めるやメガネのブリッジに中指を当てクイッとしてから腕を組んだ。格好付けてるつもりなんだろうか。


「なんか横にでかいのがいるけど」と的確なコメントを口にしたのは大門寺とは初見のリリィ。一応説明だけしといてやろう。

「あそこにいるのは俺のストーカーとして有名な大門寺勉だ。あまり目を合わせないほうがいいぞ」

「す、ストーカー!? ストーカーはリリィの暮らす世界に限らずどの世界にもいるってわけね……」


 俺の忠告通り大門寺をスルーし家に上がろうとしたところで、耐えかねてか大門寺が悲痛な声を上げた。


「待ってくれよ須藤氏ぃ。朝一来れなかったのは謝るが、この寒い中ずっと待ってたことは評価してくれてもバチは当たらないと思うポロン」


 うるうると子犬みたいな瞳で見上げるのは気色悪いとして、郁夏が話くらいなら聞いてあげれば? と言うので詮方なく話し掛けた。


「一体いつからそこで待ってたんだ?」

「三時間前」


 逆によく今まで通報されなかったな。


「それより須藤氏、あそこにいるおなごがどなたかオレに教えてはくれまいか」


 大門寺の視線の先には、もう一人の魔法少女であるリリィがいた。持ち前の勘のよさで魔法少女の匂いを嗅ぎ取ったのか?

 郁夏にしたよりもさらに簡単に魔法少女と説明するや、大門寺が鼻息荒く「魔法少女キター!!」と叫ぶことはなく、代わりに熱視線を送っているようだった。まさか一目惚れしたとか言い出すんじゃないだろうな。

 大門寺も協力者であることには変わりないため、こいつもパーティーに加えぞろぞろと家の中に入っていく。ここまで玄関が靴で埋まったことは記憶を遡っても今までに一度足りともない。

 リビングに入ると、リリィがあっと声を上げソファに座り、机に置かれたままになっていた魔導入門書を手に取った。

 その瞬間、書物から部屋全体を埋め尽くすような光が放たれ、とっさに手で目を隠す。なんだなんだ!? いきなり何が起こった。

 その輝きは数秒も経たないうちに消え、いきなりのことに声を失っていると、おもむろにティナが前へと歩み出た。


「その魔導入門書、お前の所有する物だったのか?」

「違う違う。これあたしのお姉ちゃんのよ。見覚えあるもん。確かなくしたって言ってたけど、まさかこんなところにあるなんて」


 その時、ドスンという音がし、みんな一斉に音のするほうを見遣った。

 音の出所は最後に入ってきた大門寺だった。両手を床につけ尻餅をついている。それから幽霊でも見たかのように目を見開き、口をパクパクさせていた。


「お、おおおおお。おね、おねっ」

「落ち着け大門寺。一度息を整えろ」


 俺の言葉にハッと我に返った大門寺が、愚直にも深呼吸を始める。

 スゥーハァー、スゥーハァー……よし、と見た感じ冷静を取り戻した大門寺が、改めて言いたかったであろう言葉を口にした。


「……今しがたお姉ちゃんと聞こえたが、もしかしてメアリー・レオドールという名前ではないか?」

「えっなに、お姉ちゃんの知り合いなの? このストーカー」


 思った以上に辛辣な言葉が大門寺の胸を抉った。

 いかん、俺がついうっかりストーカーと口を滑らせたばかりにせっかくの感動のシーンが台無しに!

 横目で大門寺を見ると、目に見えて落ち込んでるのが分かった。事実ながら面と向かって言われショックを隠せないようだ。


「ま、まぁリリィも悪気があって言ったわけじゃないと思うから気にすんなよ」


 そんな励ましの言葉も耳を素通りしたのか覇気のない大門寺に代わって、過去にこういう経緯があったと大門寺から聞いた話をそのままリリィに伝えた。


「――なあるほど。そんな理由があったのね」


 リリィがぴょんと軽い動作で跳ね大門寺の前に立つ。そして花が咲き誇るような笑顔を湛えて、言った。


「お姉ちゃんを助けてくれてありがと。それ渡したってことはきっとすごい感謝してたんだと思うわ」

「リリィ氏……」


 今この瞬間、全てが報われたように大門寺の頬を熱いものが伝った。……よかったな、大門寺。


「とと、一つ訊いてもいいかな?」


 何か気になることでもあったのか、挙手をしリリィの言葉を待つ前に郁夏が、


「なくしたのを聞いたってことは、お姉ちゃん無事に試験合格できたんだ?」


 ああ、そうか。聞いたってことは、裏を返せば生きてるってことだもんな。でもそれだけじゃ合格したとは限らないんじゃないか?


「生き残ることには成功したけど、規定人数に到達せず試験は不合格だったわ。確かティナのお姉ちゃんもそうじゃなかった?」


 急に話を振られたティナは苦い笑みを口元に浮かべ、所在なげに溜め息を吐いた。


「死にはせずともルーデンベルク家の長女が魔女試験に落ちたとあっては一族の恥だと酷いそしりを受けていたのをわたしは覚えてる。名家の面子、世間の体裁、そういったいくつものしがらみに捉われながらわたしはここにいるんだ」


 内に秘めたティナの思いをここにきて初めて聞けたような気がした。


「……と、つまらん身の上話はこのくらいにして、もっと実のあることを語らおう。言わずと知れたマジックブック奪還の手立てをな」

絶賛スランプでございますが、身を粉にして頑張ろうと思います。

誤字脱字、感想等あればお気軽にどうぞ!

次回一週間~二週間以内の予定。

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