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二軍恋愛-知らない漫画のモブに転生したようです-  作者: 獅象羊
第一章「小学生編」(五年生)
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93.へっぽこ忍者採用

「何っでオマエは、こう訳の分からんフラグばっか回収するんだ!!」

「ごめんー!!」


 家に帰ると、早速(ほむら)に自室へと引っ張り込まれて怒鳴られた。

 あ、家って代表として赤河(あこう)家の方ね。大体こう何かが起きた時は先に赤河(あこう)家に来ることのが多いんだよね。


「5年生の目標早速破ってんじゃねーよ!」


 (ほむら)は、部屋の外に聞こえないように声量を抑えつつ怒鳴るという器用な技を発揮している。そういう小技を発表するなら、是非私へのお叱り以外にして欲しかったと本気で思いつつ、一応言い返してみる。

 因みに、5年生の目標とはイケメンホイホイするなっていう方だと思う。


「き、きっと口布の中身はイケメンじゃないからセーフだよ!!」

「そういう問題じゃねーかんな!?」


 分かってるか、と更に怒鳴られた私。

 な、なんたる理不尽! そもそも今回は私のせいじゃなくて、伯父さんの有り余るスター性が引き起こした悲しい事件だったと思う。

 私はブーっと唇を突き出して不満をアピールする。


「何自分のせいじゃないって顔してんだよ。忍者連れて来たのはお前だろ?」

「ち、違うよ! 勝手に主君扱いされちゃったんだよ!」

「お前のせいじゃないか!!」


 大変に物申したい事案である。

 別に私は、忍者を連れて帰りたいなんてひと言も言っていない。ただ、見逃してやっても良いんじゃないかと庇っただけだ。それを、何をどう解釈したのか、連れ帰ることにしたのは、ひとえにお父さんの判断である。

 ……あっ、別にお父さんのせいにする訳じゃないけどね!


(ほむら)様、瑞穂(みずほ)。話は終わりましたか? 早く下りて来なさい」

「……はーい」


 コンコンという壁を叩く軽いノック音の後に、お父さんの静かな指令が飛んで来た。どうやら、もう2人でコソコソ話している時間はないようだ。

 一応、これだけは確認しておきたいと、私はそっと(ほむら)を見る。


「因みに、(ほむら)はあの忍者のこと……」

「……知らない。ただ、忍者が何かのキャラじゃないかって疑うのは当然だろ」


 そりゃそうだ。

 コスプレイベントの会場ならまだしも、あそこは桜祭り中だったとは言え、忍者のコスプレをして参加するような場所ではない。素面で忍者の格好(しかもガチ)をしている忍者を、常人だと判断するのは寧ろヤバイ人だろう。

 私は思わず遠い目をする。意図的に拾った訳じゃないのに怒られるなんて、本当に理不尽だ。


 ……因みに今更の補足だけど、ちーちゃんたちとは会場でお別れした。

 親同伴じゃないから、赤河(あこう)家運転手の西(にし)さんに送ってもらった。安心である。


「……で、お前はアイツどうする気だ?」

「どうって言われても……これからの話の行く末次第かな」

「はぁ……まったく、しょうがねぇなぁ……」


 2人で溜息交じりに階下へと向かう。

 もうこうなってしまった以上は仕方がないと思うしかないだろう。


◇◇◇


「あのー……それで拙者、一体いつになったらこの縄を解いて頂けるのでござろうか……?」


 階下へ着くと、リビングの真ん中辺りに、縄でぐるぐる巻きにされて正座する忍者が居た。相変わらず、全身が黒っぽい装束で覆われていて、見るからに忍者だ。現実は変わらなかった。ガッデム。


「君は、自分の立場を分かっているのか? 旦那様の御身を狙った者に対して、これでも随分と穏当な対応を取っていると思うが」

「おお……マサが怒ってる。珍しい」


 無表情で縛られた忍者を見下ろす(まさ)君の凄まじい不機嫌オーラに、思わずビクッとなる。普段はヘラヘラしてる(おみ)君すら、ちょっとドン引きしてるレベルだ。

 横を見たら、結構ビビりな(ほむら)が冷や汗を流していた。気持ちは分かるよ、と優しい視線を向けたら後頭部を軽く叩かれた。何故!?


「ま、(まさ)君。一応、処遇は私に任せるってことになったみたいだし、その辺で……」

「お嬢様……本当によろしいのですか?」


 私の方を向いた(まさ)君の表情はいつも通りになっている。

 何だか、逆に怖いよ。何でそんな切り替え上手なの? あれなの? 赤河(あこう)家の使用人必須技の一つなの?

 私がちょっぴり引いているのに気付いたのか、(まさ)君はバツの悪そうな顔になった。


「……申し訳ありません。今まで、こうも直接的にお嬢様たちを害そうとする者を見たことがなかったので、不安で……」

(まさ)君……」


 確かに、金持ちは命の危険があるかもしれない、的な認識はあったけど、今の今まで、特にそんな予兆はなかった。

 この、へっぽこ忍者君が初めてのことだ。正直。

 不安に思うのも当然かもしれない。相手はへっぽこ忍者だけど。


「大丈夫だよ、(まさ)君。此処には、(おみ)君だっているし、ホームセキュリティーは万全だって伯父さんも前に自慢してたし。不安に思うことなんてないんだよ」

「お嬢様……何とお優しい」


 キュッと手を握って力説したら、何故か感動された。

 小さく震えてるのは、怖いからとかじゃなくて、多分、そういうことなんだろうけど、反応おかしくないかな。

 若干、ヤンデレ的なニオイを感じて、そっと目を逸らした。


「えーと、それで君。我が家で雇うのは良いけど、その前に幾つか聞きたいけど良い?」

「何でも聞いてくだされ!」


 ふんすっと鼻を鳴らして力強く頷く忍者君。

 いや、君。狙ってた人の家族に対して、態度おかしくない?

 別の意味の不安がないでもないけど、とりあえず質問内容を整理する。


 因みに、室内には私たち以外に人はいない。

 お父さんは、私に任せると言っていたけど、それでも見張りくらいはしていると思っていたんだけどな。

 お母さんたちや、可愛い天使たちに話を聞かせるのはナンセンスなので、それは別に良いんだけどさ。


「君、名前は?」

「答えられませぬ!」


「……年齢は?」

「13になる年でござる!」


「何処から来たの?」

「隠れ里からでござる!」


「……何処にあるの?」

「答えられませぬ!」


「……何で旦那様を狙ったの?」

「答えられませぬ!」


「その口布とっても良い?」

「幾ら主君とは言え、許されませぬ!」


「…………」

「……主君?」


 黙り込んだ私に、忍者はこてりと首を傾げた。

 大変愛らしい仕草だけれど、私はそっと口角を上げて、近付いた。

 そして、その感情の高ぶりそのままに……こめかみを両側から拳でグリグリし始めた。


「何が「何でも聞いてくだされ」だぁ、このヤロー!!」

「うわぁああ!! か、かか、勘弁してくだされぇぇ!!!」


 コイツ、何も答えないじゃないか!!

 私はしばらくグリグリし続けて、最終的に流石に忍者を可哀想になった(ほむら)に止められて事なきを得た。

 え、双子? (おみ)君はニヤニヤしながら見てたし、(まさ)君は良いぞもっとやれって顔で見てたよ。


◇◇◇


「じゃあ、旦那様を狙った理由は言えないけど、もう狙わないって約束は出来るんだね?」

「はいっ。主君の軍門に下りましたので、主君のご命令に従う所存でござる!」

「……でも、色んな質問には答えられないんだね?」

「これも、忍者が忍者であるが故の定め。お許しくだされ!」

「はぁぁぁ……」


 長い溜息が漏れる。

 何でこんな、怪しさ満点の少年を仕えさせなきゃいけないのか。逃がすだけで良かったのに。

 お父さんは、一体何を考えているんだろう。口だけなら別に、幾らでも裏切らないって言えるけど、私はそれを信じる根拠がないって言うのに。


 ……とは言え、雇い入れることは決まった訳だし、寝首をかかれることもなさそうだから、別に良いけどね。

 私はもう一度溜息をつくと、縄を解いてやることにした。


「良いのか、自由にして?」


 (ほむら)の疑問に、私は頷く。


「うん。別に、何も出来なそうだし」

「……なんつー舐めプ」


 (ほむら)が、哀れみの視線を忍者に向けるけど、当の本人は能天気にヘラリとした笑みを返して来た。

 本当に忍者なんだろうか、この子。残念な忍者への変身願望を持った少年にしか見えないんだけど。


「2人もそれで良い?」

「俺は全然良いですよー」

「僕はお嬢様の決定に従います」

「オッケー」


 そして、縄を解いてやると、忍者は深々と土下座した。

 なんつー流れるような土下座。土下座し慣れてないか、君。


「ありがとうございます! これから、誠心誠意お仕えさせて頂くでござる!」

「ハイハイ。そんで、これから名無しじゃ困るから、何か通称名とかくらい教えてよ」

「名は……主君に付けて頂きたいでござる」

「私に?」

「はいっ!」


 キラキラとした視線を向けられても困るんだけど。

 そもそも、私はツッコミじゃないんだけどな。今日、ツッコんでばっかな気がするな。

 死んだ目をしつつ、私はジッと忍者を見つめる。

 見れば見る程、忍者ということしか思えなくなる。


「うーーん……」


 ダメだ。良いのが思いつかない。

 私は、もう最初に思いついたのをそのままつけることにした。面倒くさいし。

 名前なんて所詮記号だ。大丈夫大丈夫。


「じゃあ、ハットリくんで」

「おまっ、幾ら相手が忍者だからってそりゃないだろ!?」


 (ほむら)が愕然とした様子でツッコんで来る。

 う、うう、煩いなぁ! 私だって分かってるよ!!

 別にボケたつもりがないのにツッコまれるって、こんなに恥ずかしいことだったんだなと思いつつ、忍者を見る。

 忍者は……何だかとっても嬉しそうだった。


「ハットリ……ハットリ! 承知仕りました! 本日より、拙者はハットリにござる。よろしくお願い致します、主君!」


 えー、こうして我が家に、忍者ハットリく(自粛)が仲間に加わることになったのでした。……って、だから、何でだよ!!


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