92.ジャパニーズニンジャ!
(って、ん? 殺気??)
……と、桜祭りにて皆でわいわいがやがや楽しんでいたところ、不意に、そんな日常風景に水を差すようなものを察知してしまった。
普通の小学5年生なら、絶対に察知しないであろう気配を察知してしまった私の顔は、思い切り引きつる。
イヤダー。私はチートなんて何も持ってない、ごくごく普通の小学生だから。無職だから。巻き込まれたくないから。
なんて内心で言い訳しつつも、ついつい刀柳館での教えが自動で発動して、殺気を放つ場所を探り当ててしまう。
(何だろう。1人で木の上に隠れて……伯父さんを狙ってる?)
殺気の飛ぶ方向を考えれば、どうやらそんな感じがする。意味が分からない。
あれ、これってバトル漫画だっけ? と首を捻って焔を見たら、同じように首を傾げるのが見えた。
どうやら焔は、あの地獄を体験していないせいか、殺気は分からないらしい。実に羨ましいことである。
「……如何致しましょうか、お嬢様?」
「俺たちがやろうか?」
私だけに聞こえる程度の小声で、双子がそう尋ねて来る。
2人とも同志なので、殺気は当然の如く察知していたようだ。
その質問に、もう少し様子を窺おうと答えようとした時、攻撃が飛んで来た。
多分、私が動かなくとも伯父さんの側にはお父さんもいるし、姿の見えないボディーガード的な人たちもいるんだろうから、問題はないんだろう。
だけど、まぁこれは条件反射みたいなものだった。
「えいっ」
私は、焼き鳥を食べ終えて綺麗に並べられたクシを数本手に取って、幾つかを迎撃用に、幾つかを攻撃用に放った。
かくして、レイコンマ何秒の世界の中で、伯父さん目掛けて飛んで来た何かは撃ち落され、凶手は多分攻撃を食らって木から落ちた。
何しろ、ドサッという派手な音が聞こえた上に、何なら「人が落ちて来たぞー!」って声が聞こえて来たから。あれ、完全に攻撃飛ばした方だわ。
「何の騒ぎだ?」
訳が分からない、という顔で目を瞬く焔にちょっとイラッとしたので、食べかけのチョコバナナを丸ごと食べてやった。怒られた。
そうしつつ、飛んで来ていた武器を、誰かに見られる前に回収。
確認すると、それは漫画で忍者が良く使っているクナイ的なものだった。
「何です、それ?」
「クナイでしょうか?」
「うーん、多分? 伯父さん、もしかして忍者に命狙われてるの?」
双子も良く分からないようで、首を傾げていた。
確認しに行こうかな、とも思ったけど、レジャーシートの上を見れば、まだまだ大量にある食べかけたち。
……よし、忍者は捨て置こう!!
内心でそう決めたけど、非常に残念なことに、そうは問屋が卸さなかった。
笑顔のお父さんが、私の方へやって来ると、ガシッと力強く肩をつかんだからだ。あれ、地獄への片道切符かな?
「良くやりましたね、瑞穂。さぁ、後始末に行きましょうか」
「えっ? あっ、は、ハイ……」
別に、肩がミシミシいってるとか、そういう訳じゃないけど、お父さんの醸し出すオーラがハンパない。このまま気付かない振りして食事を続けることは許さないと、オーラが語ってる。
おおお……め、面倒くさい。
どうして忍者(仮)の為に、私の食事タイムが邪魔されなければならないのか。
私は、ジッと手元の焼き鳥を見つめる。……ああ、私のねぎま……。
「ん、また間者か? 最近多いなぁ」
狙われていた当の本人は、のほほんと綿あめを頬張っている。
いや、食べ物のチョイス可愛いな!! しかも、似合っている謎。
超絶イケオジな伯父さんは、バサッと真っ赤なマントを翻しながら、謎ポーズを決めつつ綿あめを食べる。
どう考えても格好悪いその体勢は、妙に様になっていて恐ろしい。
……将来、焔もああなるのかな。なんて思いながら焔を見たら睨まれた。勘の良いヤツめ。
「頼んだぞ、桐吾。早めに戻って来いよ」
「承知致しました」
恭しく頭を下げると、お父さんは私と双子を伴って現場へ急行した。
因みに、事情なんて知らない他の面々は、お父さんの言い訳(瑞穂が食い意地を発揮した)を信じて、笑顔で見送ってくれた。
いや、不名誉!! もう少し言い訳なかったの!?
内心でツッコミまくるけど、生まれ変わった私はボケだ。決して突っ込むまいと固く決意する。口に出さなければ負けではないのだ。
◇◇◇
「せ、拙者が十裏剣術で後れを取るとは……む、無念也」
(うん、忍者だ)
私は、私の放った焼き鳥串によって木に縫い留められているその人を見て、静かに頷いた。
前髪以外すべてを詰め込んで頭を覆う青黒い頭巾。顔の下半分を隠す同色の口布。またまた同色の、少しだけゆったりとした着物は、腕と足元を絞って動きの邪魔にならないようにしていて、その首元からは鎖帷子的なものがのぞいている。
(うん、忍者だね)
しげしげと観察し終えると、私はまた満足しながら同じ感想を抱く。
これ程までに、皆の理想を詰め込んだ忍者が居るだろうか。
最早コレは、ジャパニーズ・ニンジャと呼んでも過言ではない代物だろう。
焼き鳥串で木に縫い留められている様が何とも物悲しい。
何よりも、忍者は多分その姿を表に晒しちゃいけないだろうに、その間抜けな格好を観光客たちから思い切り写真を撮られているのが悲しい。
SNSに晒される忍者は、客商売系忍者だけで十分だろう。
「うわー、忍者じゃん。マジでいるんだ。へー、面白い。写真撮っとこ」
「な、何ィ!? ここは何という天外魔境なのだ! せ、拙者が写真に撮られるなどっ!!」
我が家で一番の現代っ子こと臣君が、嬉々としてスマホを取り出す。
この調子だと、SNSに普通に上げるかもしれない。哀れな忍者だ。私はつい遠い目になる。止める気は、特にないけどね。他人だしね。
でも、涙目の忍者見てると、ちょっと可哀想になる。ていうか、何で涙目。
「晴臣。少し待て」
「えー? 何でだよ」
そんな中で、流石の雅君は非常に優しい。
こんな、見ず知らずの忍者のプライバシーを守ってあげようとするなんて。
「どうせ晒すのならば、素顔を曝してからの方が良いだろう」
「あー、確かに!」
「ヒィィィ!!?」
「ド鬼畜だった!!」
感動して損したよ、雅君!!
ホラ、忍者も恐れおののいて悲鳴上げてるじゃない!!
ちょっと愕然としながら雅君を見ると、優しい視線が返って来た。
「彼は、旦那様の御身を狙った不届き者。社会的に制裁を加えることも必要でしょう」
「そ、そこまでしなくても良いんじゃないかな? 忍者、怯えてるし」
「そ、そそ、そちらのご婦人の仰る通りにござる! せ、せせ、拙者、まだまだ見習いの身故!!」
テンパって、必死に慈悲を乞う忍者の声は、予想より若い。というか、幼い。
もしかすると、私とそう大差ないのかもしれない。何となく、中学生っぽいかな?
可哀想なレベルでガクブル震える忍者。中学生かと思うと、余計に庇護欲をかき立てられる。
「お、お父様もそう思いますよね?」
「そうですねぇ……」
お父さんは、顎に手を当ててしげしげと忍者を眺めている。
でも、いつも穏やかなその瞳は、どことなく怪しい光を帯びているような……。
「あわわっ……拙者の命もこれまででござるか……!?」
そんなお父さんと目が合ったのか、忍者のガクブルは更に増した。
若干見えてる目元の顔色は真っ青だ。
「離してあげても大丈夫ですよ! 何しろ、私程度の反撃で既にお手上げ状態なんですし。微塵も障害になりませんよ!」
「何と! この串は貴女様の物でありましたか!」
「え、あ、うん」
結構馬鹿にしたノリで助命を願っていたところ、何故かその庇われてる忍者が感動したような声を上げた。
今そんな場面だろうか。下手すりゃ死ぬのに。社会的に。
ジトーッとした視線を向けるも、忍者の目はキラキラと少年のように輝いている。
「拙者、まだ未熟な身の上ではございますが、この串の描いた軌跡の素晴らしさは承知しています。ぜ、是非とも弟子……いえ、部下にして頂けまいか、主君!!」
「勝手に主扱いして来た!?」
何に感動したのやら、忍者は私の部下になりたいなんてトチ狂ったことを言い出した。しかも、木に磔になった状態で。滅茶苦茶格好悪いよ、忍者。
「ふむ。それも面白いかもしれませんね」
「へっ?」
「……それでは、雇い入れるおつもりで?」
「えー、コイツと同僚になるんですか? まぁ、別に良いですけど平気なんですか?」
お父さんが、急になんかヤバイことを口走り出した。
呆然とする私の横で、双子も不審そうな表情を浮かべている。
疑わしげな視線を向けられたお父さんは、機嫌良さそうに目元を緩めている。
私は、こうなったお父さんが案外頑固で、誰にも止められないことを知っている。
「問題ありませんよ。それでは、忍者くん。今日から娘をよろしくお願いしますね」
「はっ! 承知仕りました!! 拙者、精一杯頑張るでござる!!」
「え……えぇー!!??」
こうして、今日から新たな仲間(忍者)が我が家に加わることになるのだった。
って、おかしくない!? ねぇ、おかしくない!!??




