91.桜祭りと制服と
私の誕生日にかこつけて、今年も桜祭りにやって来ましたぜ!
実は、初めて来た時から毎年来てたりするんだな、これが。要するに、毎年恒例の行事というヤツである。
とは言え、最初の頃に比べて、随分とメンバーも増えた。くふふ、青春してるなぁ、私!
「瑞穂。馬鹿なこと考えてないでさっさと買い出し終わらせるぞ」
「まったく、焔ってばこの筆舌にしがたい満足感が分からないのかなー。これだからおこちゃまは……」
「ハイハイ」
敢えて馬鹿にするノリで返したっていうのに、まさかのスルー……だと!?
私は、背後にベタフラッシュを背負う勢いで「ガガーン!」と、大袈裟に驚いてみせる。
すると、心底呆れかえったような冷たい視線を頂いてしまった。ガッデム!!
「……それで、青島。後は何が必要だ?」
「おおう、委員長までスルーと来たか……こいつは世知辛いぜ!」
「? あまり意味が分からないが、無視はしていない」
「何という真っ直ぐなお返事。ありがとうございます!」
「やめとけ、瑞穂。虚しくなるぞ」
今回一緒のグループで買い出ししていた委員長が、私のボケを完封して話を進めて来たから、とりあえずビシッと敬礼して返してみた。
でも、委員長だからね。下手にボケてもね。返してくれないよね。知ってた。
焔からの有難いご助言を胸に、私はとりあえず肩を竦めて真面目に話を進めることにする。こう見えても、ガラスの心臓だからね!!
「えーっと、フライドポテトにりんご飴はちゃんと全部買ったし、ご飯類は臣君たちでしょ? あっ、チョコバナナ!」
「そういやまだ買ってなかったな。柊、まだ持てるか?」
「ああ、問題ない」
「流石! よし、じゃあ行くかー」
何だか、こうして普通に焔と委員長が会話してるの見ると泣けてくるわー。
委員長、皆に怖がられて友だち出来ないって悩んでたもんね。それに、今でこそ陽キャっぽく振る舞ってるけど、焔もぼっちの陰キャだったからね。感慨深いものだ。これが親心ってヤツなのかね。ふふ、最近涙もろくなっていけねぇや。
「……その前に、その顔すげーウザいから今すぐヤメロ」
「いやん、焔ったら愛情表現が過剰なんだか……痛い痛い!! 結構冗談じゃなく痛い!!」
ぐにゅーっとほっぺを引っ張られた。
いやいや、痛いからね。別に、刀柳館通って人外パワー手に入れようが、痛覚は普通ですからね。
……いやいやいやいや! 人外パワーとか手に入れてないけどね! 全然常人だけどね!?
「百面相をしているが、平気か青島?」
委員長の優しさが身に染みる今日この頃ですねー。
あれ、おかしいな。何だか別の意味で泣けて来たよ。
◇◇◇
「あ、お疲れお嬢。後は俺が持つよー」
「あ、ありがと臣君」
皆でブルーシートを広げた場所に戻って来ると、もう一方の買い出し組である双子は先に戻っていた。
私たちが戻って来たことに気付くと、雅君は何も言わずに焔と委員長の荷物を受け取って、臣君は笑顔で私の方に歩み寄って来た。
正直、まだ小柄な私の手で配るよりも、双子が配膳を担当した方が早いので、お言葉に甘える。
いや、本気出せば丁寧に素早く配ることは可能だけど、それ、楽しくないしね。折角の誕生日会の一環だしね。私、主賓だしね。
「仲良く買い出し出来ました?」
「臣君の突然の子ども扱い」
「違う違う。時候の挨拶みたいなもんですよ」
ブスッと頬を膨らませると、つんとつつかれた。
そして、ケラケラと楽しそうに笑う臣君。うん、楽しそうで何よりだよ。
私は遠い目をしながら、改めて配られた食べ物を頬張る。
「うまっ」
「それはよろしゅうございました。お飲み物は何に致しましょう?」
「ウーロン茶!」
「かしこまりました」
何処からともなく紙コップを取り出して注いでくれる雅君、流石の手腕である。
私も、将来の焔の執事(?)として、このくらいの技量は身に付けないといけないかなー、とのんびり考える。……ビックリ人間になりそうで嫌だなー。
「……ところでさぁ」
「? 如何なさいましたか」
「んー、何々?」
じぃっと双子を交互に見つめて、重々しく口を開く。
まぁ、それ程重要な話じゃないんだけど。……いや、重要か。私にとってはすこぶる重要だ。
「2人とも……大学入学おめでとう」
「ありがとうございます! って、今更な上に何だか嬉しくなさそうですけど、どうしました?」
しゅんと肩を落としてお祝いの言葉を口にする私に、2人は驚いたようだ。
いや、そりゃそうだよね。急なんてもんじゃないしね。何なら、合格発表の日に滅茶苦茶言ってるしね、既に。
これは、単純にあれだ。2人をジーッと見ていたら、何だか急に惜しくなったのだ。
「いや、2人の制服姿がもう見られなくなったのかと思うと……辛くて」
「そこまで落ち込む話か、それ!?」
別の話の輪に加わっていた焔が、遠くからツッコミを飛ばして来た。やりおるわい。
「そんなに俺たちの制服姿好きだったんですか?」
何故か嬉しそうに頬を緩める臣君。
私はツッコミじゃないので、そのことには触れずに深く頷く。
「イケメンの制服姿って、ほら、天の恵みみたいなものじゃない?」
「みずほって時々、急に自分のせーへき暴露するよね。趣味?」
「むおお!? さっちゃん、めっ! 下ネタは禁句ですことよ!!」
わきわきと両掌を上に向けて動かしていると、さっちゃんがニヤニヤしながら振り向いてそんな爆弾発言を放り込んで来た。
いやいや、性癖って何!? 小学4……5年生が知ってて良い単語なのかな、それぇ!?
テンパって訳の分からないことを叫ぶ私を、よしよしとちーちゃんが宥めてくれた。
「落ち着いて、瑞穂ちゃん。明佳ちゃんがこういう人だって、知ってるでしょ?」
「うん、まぁそうなんだけどね。分かった、落ち着……いやいや、何で私が宥められる方向に!?」
宥めるのなら、是非ともさっちゃんを!!
そう主張してさっちゃんを指すも、さっちゃんは既に私たちに背を向けて、焼きそばに夢中になっている。この敗北感は一体……。
「っつーか、何なんだよさっきの口調。貴族か」
「いてっ」
いつの間にやら側に来ていた焔から、脳天にチョップを頂戴した。
おかしくないか!? 何で私ばっかり実害を被っているのか。日頃の行い? 誰だそんなこと言うのは。ビールかけた焼きそば喰らわすぞ。
「へぇぇ? お嬢、制服フェチだったんだぁ……」
「しみじみ言わないでぇ!! って言うか、別にフェチって訳じゃないから! 単純に、イケメン2人がお揃いの服装してるのがこう……グッと来るなぁって思うだけでね」
「へぇぇぇぇえ?」
「何でそんな目で見るのぉ!?」
どうしよう、若干恥ずかしくなって来た。
そんな、真剣に自分の好みを露呈するつもりじゃなかったし、そもそも断じて制服フェチじゃない訳ですけど。
あわあわと更にテンパる私に、雅君が優しい笑みを向けてくれた。
「た、助けて雅君……」
誤解なんだよぉ、と続けようとしたところを、静かに遮られる。
「はい、心得ておりますよ」
「雅君!」
「制服はまだ所持しておりますので、お嬢様のお好きな時にいつでも着用致します」
「ちっがーう!!」
どうしよう。完全に私が、イケメン2人の制服姿を見てニヤニヤする変態という扱いになっている。
……あれ、意外と正しい? いやいや、ま、まま、まさかそんなことは!
「瑞穂ちゃん。オレはまだ制服着てるけど、オレじゃダメ、か?」
「ゆ、ゆーちゃん……」
ゆーちゃんの優しいフォローに喜べば良いのか。断じて制服好きじゃないと主張すれば良いのか。
口調を大人っぽく変えようとして、途中でつっかえてるところに萌え萌えすれば良いのか全然分かんないよ。
「ゆーちゃん優しい!!」
「子ども扱いはやめて……や、やめろってば!」
とりあえず抱き締めようとしたら避けられた。泣きそう。
どうやら、最近のゆーちゃんは子ども扱いがとにかく嫌らしい。
私も微妙な気持ちにはなるけど、アレかな。思春期の男の子ってのはそういうのやっぱ気になるのかな。
そんなことを考えていたら、ちょっと前向きな気持ちになれた。
「ありがとう、ゆーちゃん!」
「出来れば、その呼び方も……ううん、何でもない」
何かを言いかけて、ふるふると首を横に振るゆーちゃんの可愛さプライスレス。
何だか落ち込んでしまったゆーちゃんが可哀想だけど、理由も分からない励ましは大抵外れるから、ひとまず保留だ。げ、元気出してねゆーちゃん。
「何だ、瑞穂は制服好きだったのか! 早く言えば良いものを」
「えっ、旦那様それは誤解……」
「俺はこう見えてもミスター制服に選ばれたこともある制服マスターなんだぞ。瑞穂がそんなに制服が好きだと言うのならば、幾らでも見せてやろう!」
「…………」
ミスター制服ってなんぞ……?
ドヤ顔でキラキラ煌めく効果をバックにポーズを決める伯父さんが、本当に決まり過ぎていて若干引く。
そこそこ良い年のはずだけど、まったくそれを感じさせないこのオーラ。王者の品格とでも言えば良いのだろうか。
……制服似合うぞ! って主張してるだけだけどね。
「わ、ワァ。ウレシイナ。アリガトウゴザイマスー」
「ははっ。いつでも言うんだぞ! あと、伯父様と呼んでくれて構わないからな」
構わないというよりも、滅茶苦茶呼んで欲しそうな顔でチラチラ見られる。
お願いお父さん、助けて!! この人は流石に私の手に負えないもの!!
必死に助けを求める念を込めて、お父さんを見たら、しっかりと頷いてくれて伯父さんを回収していってくれた。ありがたや。
大分間が空きましたので、確認しながら執筆してはおりますが、もし矛盾点等見つけた場合、そっとお知らせ頂ければ幸いです。