82.皆で笑おう
大っっ変、お待たせ致しました。
ようやくリアルが落ち着いて来たので、ポチポチ更新を再開致します。
「瑞穂様、お食事はお済みでしょうか?」
「あれ、かぐちゃん」
謎の了輔君訪問事件から一時間後くらい。
すっかり朝食を終えた辺りで、かぐちゃんが訪ねて来た。
幾ら友人知人と言えど、旅館の子としては流石に朝食を一緒に摂るのは微妙だったらしく、一旦解散してたんだけど、わざわざ訪ねて来たって事は、何か用事だろうか。
そう言えば、そもそもかぐちゃんも何か用事があって、今朝部屋を訪ねて来たんじゃなかろうか。
想定外に了輔君がいた事で、有耶無耶になっちゃってたけど。
「うん、もう終わったよ」
「それはようございました」
「何か大事な用事?」
可愛らしく目を細めながら、両手を軽く合わせるかぐちゃん。
はー、この子マジで美人だわー。
流石はヒロインの一人。
なんて思いながら、私は訪ねて来た理由を聞く。
するとかぐちゃんは、神妙な面持ちで深く頷いた。
「はい。とても重要な用事があるのです」
「えっ、私で解決出来るような用事??」
「瑞穂様でなくては不可能ですわ」
あまりにも真剣な言い方に、思わず息をのむ。
そんな私の手を、ギュッと両側から力強く握るかぐちゃん。
あのー、なんか顔近くありません?
困惑する私に、かぐちゃんは至って真面目な表情で言葉を続けた。
「瑞穂様」
「うん」
「私…瑞穂様と一日ご一緒したいのですが、よろしいでしょうか?」
「うん?」
反射的に聞き返してしまった。
聞き間違いだろうか。
そんな重要な用事じゃないような……。
「私…瑞穂様と一日ご一緒したいのですが、よろしいでしょうか?」
「繰り返さなくても聞こえてるよ!?」
「それは素晴らしいですわ!なら、ご一緒してもよろしいのですね?」
「あれ…」
まったく同じ事を言うからツッコミを入れちゃっただけなんだけど…。
おかしいなぁ。
かぐちゃんからすれば、あれは許可を出した事になるんだぁ…。
やっぱり怖いなぁ、この子。
美少女な分、余計に。
まぁ、良いんだけどね!一緒に行動する事に異論はないんだけどね!!
「焔様がいらっしゃらないと伺った時は落胆致しましたけれど、考えてもみれば、私には瑞穂様がいらっしゃるんですもの!お優しい瑞穂様でしたら、大切な友人である私と一緒に過ごして下さいますわよね?ええ、過ごして下さいますとも。何せ瑞穂様は慈愛に充ち溢れた女神のようなお方で…」
「ストーップ!!ちょっと一旦落ち着こう!!」
「かしこまりましたわ」
どうして私、かぐちゃんにこんな懐かれてるんだろう。
何かしたっけ…?
いや、覚えはないな。真面目に。
大体、最初にフラグ建ててたの焔でしょ。
私ナニモシテマセーン。
「ふふ。嬉しゅうございますわ!私、今までずっと瑞穂様とご一緒したかったのにあれ以来訪ねて来て下さいませんでしたから、本当に楽しみにしておりましたの」
「かぐちゃん……」
屈託のない、満面の笑みで微笑むかぐちゃん。
ほんのりと頬を桃色に染める彼女は、まさに美少女。
こんな愛らしい女の子に寂しい思いをさせていたとは…私のバカ!
絡み方が苦手だからなんて言って、避けたら駄目だ。
避けているばかりじゃ、その人の本質は見えて来ないものだ。
そうでしょう!?
「ごめんね、かぐちゃん!これまでの分も、今日は目一杯遊ぼうね!」
「まぁ!!今日はなんて素晴らしい日なのでしょう…!」
ガシッとかぐちゃんの手を握って叫ぶ私。
かぐちゃんは、急に手を掴まれても驚くどころか、うっとりとした表情だ。
……選択肢、間違えたかな?
「あー、こらこら!俺達の目を盗んでお嬢を誘うなんて駄目じゃないかぁ」
「また私達の邪魔をする気ですの?」
勢いだけで応えるべきじゃなかったかな、なんてちょっと思いかけた時、いつものように、臣君が乱入して来た。
もうここでホッとしちゃうのは反射だね。
本当にごめんよ、かぐちゃん。
苦手意識なくなるまで、結構時間かかりそうです。
「邪魔なんてとんでもない。邪魔なのは君の方…」
「晴臣。流石に自重しろ、お嬢様にも言われただろう?」
「分かってるよ、マサ。ちょっと言ってみたかっただけー」
へらりと笑いながら、ちょっと距離をあける臣君。
臣君もちゃんと空気は読めるようだ。
ここで臣君が粘ると、またしてもかぐちゃんを泣かせてしまうことになりかねなかった。
そうすると、VS了輔君再び、になってしまう。
それはご勘弁願いたいところだったので、非常にありがたい。
GJ、臣君!
「あれ、なんか俺、お嬢にバカにされてる気がする…」
「ん?なんのことかな?してないよ」
「…お前はもう少し自分の行動を省みてから発言しろ。お嬢様からバカにされても仕方の無い行動ばかり取っているじゃないか」
「その通りです。貴方が感情に任せた短慮を取っていては、主である瑞穂様の迷惑になると、どうして分からないのでしょうか。いえ、瑞穂様のしつけがなっていないと申し上げるつもりはありませんよ?これはただの独り言です」
「カッチーン。何これ、俺喧嘩買えば良いの?」
ダメダメダメ!!
臣君が本気出したらかぐちゃん死んじゃいますから!
私は一触即発な雰囲気に慌てながら二人の間に入る。
っていうか、臣君苦手な相手多過ぎない!?
普段のソツなくこなす感じは何処へ!?
「落ち着いて、臣君!子供の戯言と思って聞き流して!大人でしょ!?あと、かぐちゃんも!進んで敵を作ろうとしないの!立派なレディーになりたいんでしょ!?そんなんじゃ、レディーとは程遠くなっちゃうよ!?」
「…申し訳ありません…」
しゅんと肩を落とすかぐちゃんは、まだOKだ。
うん、ヤンデレ的要素は十二分に持ってるけど、まだセーフだ。
これから抑えていけばなんとかなる。
けど、臣君やい!
そんな唇突き出して、不満ですーみたいな顔は何だ!
「言っとくけどお嬢。俺がああだこうだ言ってるのは、全部お嬢の為ですからね?分かってると思いますけど」
「かぐちゃん、素直で良いぞ。それに引き換え、臣君は重い!!伝わってるけど、せめて雅君ぐらい抑えめでお願いします!!」
最早土下座してでもお願いしたい気持ちだ。
出会った当初のツンケン具合と、今のデレ全開具合と足して2で割りたい。
あっ、でもそうするとそこまで仲良くない所になっちゃうか?
えーと、じゃあ仲が良い普通のレベルくらいでお願いします。
「お嬢様」
「どうしたの、雅君」
「お言葉ですが、寧ろお嬢様を尊敬しお慕い申し上げている気持ちは、寧ろ僕の方が強いかと思います」
「そこで張り合っちゃう?ごめん、雅君分かったからこれ以上場を混乱させないで欲しいな!!」
哀しいかな、雅君の目はマジである。
本気と書いてマジと読む。
割といつもストッパーの役割を果たしている雅君が参戦すると、もっと酷い状況になるのは目に見えている。
こんなアホなことで張り合わなくて良いから。
「瑞穂様!そこは張り合わずには居られません!私の方が、瑞穂様をお慕いしているに決まっております!!」
「はぁ?そこは俺が一番に決まってるでしょ。ねー、お嬢?」
「ほらぁ!二人も張り合って来たー!」
予想通りと言えば良いのか、謎の私を慕っている人ナンバーワンを自称しはじめる二人。
良いから!気持ちはすっごく嬉しいんだけど、そこ張り合わなくて良いから!
気持ちは伝わって来てる。
重い位だ。
大丈夫、私も同じくらい皆のこと好きだから!
ああ、こんなことを思っていたら、本当にいつか刺されそうだ。
勘弁願いたい。
……いや、まぁ臣君雅君以上のレベルの人相手じゃなきゃ、隙をつかれようが刺されない自信はあるんだけどね。
どうしよう、自分のことながら泣けて来たよ。
何でそんな強くなってるんだ。
「俺だから」
「私ですもの!」
「当然僕ですね」
不毛な言い争いが、殴り合い等に発展しないのはまだ幸いだ。
一応、私が注意した効果もあるのか、二人ともかぐちゃんに対して態度は軟化させてくれているけれど、いつまた更なるヒートアップを見せるか…。
……私、ボケなんだけどな。
「おいおい、またケンカしてんのか?ホントに反省したんだろうな?」
「あれ、了輔君」
「言っとくけど、かぐやのこと泣かせたら、オレ許さねーからな」
「流石に二人も分かってると思うよ。多分…」
丁度通りかかったらしい了輔君が、不思議そうに近付いて来た。
三人の言い争いの雰囲気から、そこまで重大な重みは感じなかったからか、了輔君の語気は柔らかいけど、また釘を刺されてしまった。
小学生に注意される高校生乙。
「確かに、これならオレの出番はなさそーだ。良かったぜ」
「うん、本当にね…」
「……それより、お前さ」
「?」
ふと了輔君が、私のことをジッと見つめて来る。
どうしたんだろう。
はっ!朝ごはんの海苔がついていたか!?
「もう大丈夫そうだな」
「えっ」
「頭撫でてやるより、こうやってた方が、お前楽しいのか。なら、オレも参加して来てやるよ。どうだ、気がきく男だろ、オレって!」
「???」
良く分からないことを言いながら、別段私のことを一番慕っている人になるつもりもない了輔君が、三人の争いに参加した。
いやいやいや、何で?
今の流れでどうしてそうなった!?
うん、まぁ了輔君が、親切心というか正義感というかで、私が今朝落ち込んでいたのを心配していて、このやり取りをしている内に気分が上昇しているようだと感じたから、なら自分も参加して、もっと元気にしてやろう!っていう思考回路なんだろうっていうのは分かるけど……参加する必要性は何処に!?
私は、どこかポカーンと四人になった言い争いを眺める。
絶妙に話がかみ合わない言い争いに、私は次第に笑いはじめる。
了輔君の指摘通りというのは、何となく釈然としないけど…。
私の目的は、ずっと私が楽しく第二の人生を送ること。
それを忘れたら駄目だ。
こんなに優しい人達に囲まれているんだから。
難しいことは考えないで、皆でバカ騒ぎをしよう。
そうすればきっと、これからも笑っていられる。幸せになれる。
「私の話題なのに、私をハブとはこれいかに。私もちゃんと混ぜてよ、皆!」
そうして、皆の輪に入って行った私は、とうとう感じていた違和感をすっかり忘れて、皆と笑い合うのだった。