69.成長?
「瑞穂ちゃん、おはよう!むかえに来たよっ」
「あれ?お、おはよう。どうしたの、ゆーちゃん??」
「ん、今の声悠馬か?今名前で呼んだ??」
さーて、新学期だし気合い入れていきますか!
なんて思いながらランドセルを背負って赤河家の方に行ったら、違和感のある呼ばれ方をして、吃驚して振り向いたら、聞き間違えでも何でもなく、そこにはゆーちゃんが立っていた。
丁度家から出て来た焔も、驚きからか目を瞬いている。
そりゃ驚くのも無理ないと思う。
ゆーちゃんは、私の事をみーちゃん、と呼んでいた。
そう呼んでくれるのはゆーちゃんだけだし、可愛い可愛いと思っていたのに、突然の呼び名変更。
なんかちょっとショックだ。
「うんっ。僕も…じゃない、オレも、もう四年生で大人だから、そんな子供っぽい呼び方はしないことにしたんだっ」
ドヤ顔可愛い…じゃない。
えぇー…ゆーちゃん、もうみーちゃんって呼んでくれないの?
なんだか残念だ。
誰だそんな入れ知恵をしたのは。
「そうだよねー。悠馬くんだって、もう大人だもんねー」
「ああー!臣兄頭なでないでよっ!子供扱いだー」
「あはは。俺から見たらまだ子供だよ」
「むううー!」
「…あまりからかってやるな、晴臣」
よしよし、というよりはグシャグシャとゆーちゃんの頭を撫でる臣君。
これが成長というものか。
うーん、みーちゃんみーちゃんって、後ろをチョロチョロついてきたり、おててつないでーって、キラキラした目で見てくれる事も、もうないんだろうか。
くっ、胸が痛い!
なんて残酷な運命なんだ!!
「痛い!焔、何で今殴ったの!?」
「何か今、すげー鬱陶しい事考えてる気がした」
「理不尽な理由!」
「合ってるだろ?」
「……」
とりあえず、そっと目を逸らしておく。
いやいや、別にやましい所なんて微塵もないですがね?
私は大人だからね?
言い争いをせずに、勝ちを譲ってやろうってだけなんですよ。
だからニヤニヤしてこっちを見るんじゃない、焔!
「こら、焔!女の子の頭を叩いたらダメなんだぞ!」
「っ…お、俺の呼び方も変えるのか。てか、何で俺だけ呼び捨てなんだよ」
「だって焔だってオレの事悠馬って呼ぶじゃん」
「そりゃ、まぁな」
「だったら、ぼ…オレもそう呼ぶんだ!だって大人だから!」
「そうか。…ま、好きにすりゃ良いんじゃねーの?」
「えへへ」
えへへ、とか何それ可愛い。
呼び方とかだけ変えても大人って訳じゃないんだけど、そう思ってるゆーちゃんが可愛くて辛い。
撫でたらダメ?ねぇダメ??
私は、思わず両手を広げた。
「カモン、ゆーちゃん!」
「?うんっ瑞穂ちゃん!」
「ぎゅー!!」
「あはは、ぎゅーっ」
ゆーちゃん的に、抱き締めるのはアリだったらしい。
私は思い切りよしよしする。
まだ私より小さいゆーちゃんは、抱きしめやすくて良い。
焔はねー…小学生のクセに成長早いから。
私も背は伸びてるけど、追いつける気がしない。悔しい。
「ふふ、くすぐったいよー瑞穂ちゃん」
「あー、悠馬くんズルイぞ。おにーさんも仲間に入れて欲しいな?」
何故か、良い笑顔で両手を広げる臣君。
ちょいちょいお兄さんや。
撫でてもらう立場みたいに言ってるけど、やるとして逆じゃね?
「臣兄はダメー。雅兄なら良いよ」
「…僕か?」
「え、何で俺はダメなの?」
「んー。何となく」
「…日ごろの行いだな」
サラッと頷く雅君ひどす。
でもまぁ、臣君は日ごろからスキンシップ過多だしね。
仕方ないのかな。
「えぇー。じゃあ若は?」
「焔もダメー」
「俺は要らないから。つーか、抱きつぶすなよ瑞穂ー」
「力加減くらい分かってらぁ!」
と言うか、マジで焔はツンデレだなー。
抱き締められなくても良いーとか言ってるけど、いざ抱き締められると嬉しそうなのを、お姉さんは知っているんですよ、くふふ。
「痛い!だからどうして焔の愛は激しいの!」
「愛じゃねぇ!って言うか、やっぱ余計な事考えてやがったな!」
「ああ!ダメだよ、焔!瑞穂ちゃん、大丈夫?」
「うう…ゆーちゃんは優しいねぇ…」
「何でちょっとババァみたいな言い方してんだよ…」
「お嬢うまーい!」
「確かに、お上手ですね」
…何故褒める!!
誰か突っ込んで!!
ボケですから。今のボケですから!
「めーん!!」
「いたっ!」
「うわっ、な、何だ!?」
「おっとキャーッチ」
「むっ」
「え、なになに??」
可愛い声が響いたと思ったら、ゆーちゃんと焔が頭を抱えた。
ふっと見ると、細長く丸められた広告を剣のように構えたちーちゃんと、それを受け止めている臣君が視界に入って来る。
「ちょっと!大人しく叩かれなさいよ、晴臣さん!」
「イヤだよ、理由もなく叩かれるなんて。…お嬢ならいつでも歓迎ですけどね!」
「…気持ち悪いぞ、晴臣」
「えぇー、本音なのにぃ」
豊かな黒髪をポニーテールにして。
振るう剣は広告でも、大分堂に入ったその動きは、まるで歴戦の剣士だ。
ひと言でまとめると、ちーちゃんマジ美人。
あれ、なんかおかしい?
「おはよう、ちーちゃん!突然どうしたの?」
「あっ、瑞穂ちゃん!大丈夫だった?」
「ん、何が?」
「悠馬なんかを抱き締める羽目になるなんて、朝から大変だったわね。でも、もう大丈夫よ!わたしが瑞穂ちゃんを守るんだから!」
「んん??」
何故か使命感に燃えるちーちゃん。
えーと、春休みの間に、二人に何かあったのかな??
違う方向に成長を遂げちゃった感があるんだけど…。
「千歳がいなくても、オレが守るんだ!余計なお世話だよ、千歳」
「ふんっ。泣き虫悠馬に何が出来るのよ」
「な、なんだとぉっ!?」
ぷぅ、と頬を膨らませて怒っているゆーちゃんには悪いけど、マジ天使。
二人とも一気に大人になった?ってちょっと寂しくなっちゃったけど、いやいややっぱりまだまだ子供ですな。
うん、二人には悪いけど一安心。
「話し方より先に、ちょっとは落ち着けよお前ら」
「ふんだっ。いつでも一緒にいられる焔くんには分からないわよ」
「そうだよ、ズルイよ。家まで一緒なんて…」
「訂正しとくけどな、俺らは別に同じ家って訳じゃないんだからな?」
「まぁほぼどっちかの家に入り浸ってるけどねー」
「そうですねー俺達もお邪魔させてもらってますけど」
「そこで対抗するな、恥ずかしい」
ちーちゃんは、不満そうに眉を顰めて私の腕に抱きついて来る。
もうこういう所が、ほんっとうに天使!!
泣きそう。
「瑞穂ちゃんは寂しくない?わたしは寂しいよ…クラスも別だし……」
「ふふふー」
「もうっ、なんで嬉しそうなの!?」
「だって、嬉しいんだもん。ちーちゃんが私と一緒にいたいって思ってくれてる事がすごーく嬉しい!ありがとうね、ちーちゃん。大好きだよ」
「……むぅぅ、瑞穂ちゃんが一番ズルイッ。でもスキ!!」
「ははは。くるしゅうないぞ」
髪の毛が崩れない様に優しく撫でてあげる。
そうすると、顔を赤くして、嬉しそうにはにかんでくれるちーちゃん。
皆さん、ここに天使がいます。
でも絶対に連れて行ったらダメですよ!!
特にロリコンの方。
「お、オレは!?瑞穂ちゃん、オレは!?」
「ん?うん。ゆーちゃんも大好きだよ!」
「っ!えへへっ、オレもスキ!!」
「えぇ!わたしのがもっとスキだもん!!」
私、生まれ変われて良かった!!
この世界が漫画だろうが何だろうが知った事か。
二度目の人生幸せ計画は、無事に進行中だ。
神様相手でも、絶対に譲らないからな!!
「…晴臣、邪魔しに行かないのか?」
「やだなぁ、若。どうして俺がそんな事するんですか?」
「いや、だって俺とアイツが話してると、いつも割り込んで来るだろ?」
「あれは若と話してるからですよ、勿論」
「?良く分かんねぇけど…ま、邪魔しないなら良いんだけどな」
「…本当にお嬢様に呆れられるような事はするなよ、晴臣」
「分かってるに決まってるだろ、マサ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「それじゃあ、今年も一年よろしくお願いします!」
さてさて。全校集会も終わって、今年度の委員会決めに突入だ。
いや、去年は雑用係…じゃない、クラス委員頑張った。
だから今年は、私はやらんぞ!!
「まずは学級委員会ね。えーと、委員長に立候補したい人は…」
「……はい」
「あら、柊くん!去年は推薦だったけど、立候補するの?」
「そうでなければ手は上げません」
「そ、それもそうね。他にやりたい人は?」
ありゃ。
委員長、去年は別にやりたくてやってた訳じゃなかったけど、今年は自分から立候補していくスタイルか。
流石は委員長。
生粋の委員長だな。
…意味分かんないな。あだ名変えようかな。
「……副委員長への立候補はいるか?」
おっと、残念ながらそんなにアグレッシブな子はいなかったようだ。
うん。分かってる。
だから皆、私を見るんじゃない!
今年は楽そうなのをやるって決めてるんだよ、こっちは!
嫌だよ、もう面倒なのは!
雑用もそれはそれで楽しいんだけどさ。
「いないなら、俺は青島を推薦する。どうだ?」
うおおおお!!
顔を伏せていても無駄だったか!!
まさか、委員長自ら私にラブコールとは。
なんたることだ。
私の穏やかな四年生計画が、早くも危機を迎えている。
「エート…出来れば違うのがやりたいんだけど…」
「…………」
「……ダメですか?」
思わず敬語が出ちゃった。
委員長、春休みの間に随分目力に磨きがかかったね!
魔王も目が合っただけで寒気を感じるレベルに進化したよ。
これは最早大魔王だな。
「……分かった。青島は、俺と一緒にはやりたくないんだな」
「ん?」
「……お前とならばスムーズに仕事をこなせると思ったんだが、仕方ない」
「え、ちょ、ちょっと委員長??」
「……他にやっても良いと言うヤツは…」
「分かった!やる!やるからそんな哀しそうな顔しないで!!」
何か委員長がめちゃくちゃ寂しそうに言うんだもん!!
何あの捨てられた子猫ちゃんみたいな空気は!
ズルイよ!ギャップだよ!
「……本当か?」
「うん。委員長の事が嫌な訳じゃないよ!寧ろほら、友達だし好きだよ?」
「……そうか」
ああ…お花が飛んでる幻が見える…。
もう、これは委員長と知り合った以上仕方ない流れなんだよね。
分かったよ、委員長。
地獄の果てまで友達として付き合って行こうじゃないか。
任せろ!
今年も八つ当たりでスムーズに委員会を埋めてやるよ!!
「おら、お前ら!今年も私が決めてやるからありがたく思えよ!」
「うわぁ、青島の八つ当たりだ!」
「今年はオレ達なにも言ってないぞ!?」
「横ぼうだー!」
「漢字を書けるようになってから帰って来い!じゃあそんなお前は国語係だ!」
「えぇー!?」
…こんな感じで、今年度も始まりました。
うーん、平穏無事に行くと良いな!