67.取り留めなく※
※焔くん視点です。
※シリアスというか、特に後半部分は本人も良く分からない思考に沿った話なので、読みにくくなっています。ご注意ください。
「ボクが美生か美鶴か?キミはどっちだとおもう?」
親父に、半強制的に連れて来られた先で、俺は皆とはぐれてしまった。
瑞穂すらいないんだから、これは完全に迷子だ。
困り果てていたところに、何だか聞き覚えのある声が聞こえて来た。
だから、思わずそっちの方に来たんだけど、俺は今、少し後悔している。
「いや、お前等ソックリだから分かんねぇよ」
「えぇ?答えるくらいいいでしょ?ねぇ、どっち?」
「…はぁ」
廊下の隅に蹲っていたのは、テレビでも良く見るし、前世でも良く見た顔…の、子供の頃の顔だ。
人気双子子役、渋谷美鶴だ。
ゴテゴテのゴスロリ衣装に、ツインテール。
一体何を目指してるんだ、という格好だが、双子の兄もこの格好だと言うんだから、筋金入り、というヤツなんだろう。保護者が。
…それはともかく、俺は別に、どうやら俺と同じく迷子らしいこの子を、邪険に扱いたい訳じゃない。
そこまで俺は冷たい性格じゃないぞ。
けど、「どっちだと思う?」は俺にとって鬼門のセリフだ。
何しろ、どう答えるのが正解か分からないのだ。
今の俺は、別にハーレムを望んではいない。
元々、何て言うか、……認めるのは恥ずかしいが、寂しかっただけだった。
ハーレムを作れば、皆が俺と一緒にいてくれるものだと、信じて疑っていなかった…というか、それが良くない事だというのは分かっていたが、記憶を持って転生なんていう、非現実的な事が自分の身に降りかかって、体の好い現実逃避が出来てしまった、という話だ。
まぁそれで話を戻すと、美鶴は、俺では無く、赤河焔のヒロインの一人だ。
他のヒロイン達と違って…いや、ある意味で麻子先生もそうだけど、焔に一目惚れしない貴重なヒロインである。
だから、気楽に声をかけてしまったんだけど、ここでさっきのセリフに戻る。
美鶴は、焔を普通に友達だと思っている。良くて先輩。
それが、高校で交流を深める内に、恋に落ちる。
でもその時には、もう焔は千歳を好きになっていて、それを分かっていた美鶴は身を引く事になる。
そんな美鶴が、完全に焔を好きになる時に出て来た重要なシーン。
そこで出て来たセリフが、さっきのセリフなのだ。
高校生になっても、顔かたちがあまり変わらなくて、シークレットブーツで誤魔化して、あとは同じような服を着れば、普通に見間違うレベルにソックリな双子。
自分の気持ちなんか勘違いだと言い聞かせる為に、美鶴は焔を試すのだ。
そこで焔は、見事に美鶴だと看破。
する…んだけど……いや、俺はしちゃ駄目だろ。
確かにあのイベントは高校のイベントで、大分先の話だ。
でもまったく同じ問いを投げかけられて、本当に影響がないと言えるのか?
くそっ、分からない。
どうすりゃ良いんだ?
「み…美鶴、さんか?」
「ブッブー!」
「じゃあ、美生くん?」
「それもハズレ!ふふふー」
……何とか正解を引き当てた、か?
この反応は、大人をからかって楽しんでいる時の感じっぽい。
俺は大人じゃないけど、これで良しだ。
ホッと胸を撫で下ろした俺は、美鶴にせがまれて、手を繋いで歩いた。
しばらくそうしてテレビ局内を彷徨ったけど、誰にも会わない。
……マジで何が起こってるんだ、これ。集団失踪?
「ねぇねぇ。ボク、ヒマになっちゃった。なにかおはなししてー」
「え、俺?」
「他にだれがいるの?」
「…あーはいはい」
くいくい、と手を引かれて、謎のおねだりをされる。
俺はあんまり他人に積極的にペラペラ話すのは得意じゃないんだけどな…。
仕方ない、と俺は適当に思いついた瑞穂の話をしてやった。
「もしかして、その人のことスキなの?」
「は?いや、別に…フツーに友達ってか、従姉だけど?」
しばらくすると、突然意味の分からない事を言われる。
いやいや、今の話のどこから好き嫌いの話に飛ぶんだ?
子供だからか?女子だからか?
判断材料が少なくて分からない。
「ふーん?」
何でニヤニヤするんだ。
今どきの子供は意味が分からないな。
…ま、俺も子供だけど。
そんな事を思っている内に、ようやく瑞穂と合流出来た。
アイツも、俺と同じように迷子だったらしい。
しかも、美生と一緒。
でもこれは、俺達のせいじゃなくて、大人達によるドッキリだったとか。
…全然気付かなかった。
そう思って溜息をついていると、美生が近寄って来た。
一瞬美鶴かと思ったけど、この感じは美生っぽい。
何でか俺の周囲をグルグル回って、ジロジロ見て来る。
「何か用か?」
「ヘタレ」
「は!?」
「なんかつまんない。ボクのがぜんぜんカワイイじゃん」
おいおい、何で突然俺ディスられてんの?
しかもそれだけ言ったら離れてったし。
あっ、瑞穂に抱きついた。
おい!何でそこでドヤ顔してるんだよ!意味分かんねぇ!
あー、イライラする。
「ちょっと若ぁ、しっかりしてくださいよ」
「はぁ?仕方ないだろ。わざとはぐれられたら」
「そっちじゃない!あっちですよ」
怒り気味に晴臣が美生を指す。
腹立つのも分かるが、何で俺に言うんだ。
直接文句言って来いよ。
「まだお嬢は小さいから、俺じゃ牽制になりきれないんですよ」
「何の?」
「若さ、別に鈍感って訳じゃないのに、何でお嬢関係だけポンコツなんです?」
「ポンコツとか言うな!」
「わっかりやすくイライラしてるクセに。ヘタレー」
「おい、こら!」
訳が分からない。
俺のどこがポンコツだって言うんだ。
「ワケ分かんねぇ……」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
何も、瑞穂がフラグを立ててるのは、美生だけじゃない。
漫画には出てなかったけど、陽介とか。
イベントって意味で言うんなら、廉太郎もそうだろう。
直接会った事ないけど、瑞穂のクラスメートだって、アイツの事好ましく思ってたし、俺のクラスの美術部のヤツだって、頼りになるとか、面白いとか、そう言う事を言っている。
アイツは間違いなく一級建築士だ。
避けよう避けようとか言ってても、関係なく旗を建てて行く。
アイツは良いヤツだ。
好きか嫌いかで聞かれても困る。
アイツは、いつでも俺の側にいて、一緒に笑って、ふざけて遊ぶ。
それがいつもの事で、アイツにとっては、俺も、他の皆も、子供みたいなものだから、もしも、誰かがアイツを好きだと言っても、何も変わらない。
変わらないでいて欲しいと思う。
偶にテンション高過ぎてウザいけど。
何か人類じゃない感じの方向に成長して来てて、怖い時もあるけど。
アイツには、側にいて欲しいと思う。
まさか、こんなに楽しく笑える日が来るなんて、前世では思わなかった。
失くしたくない。
良く分からない。
確かに、イライラする時があるんだ。
俺以外のヤツと笑ってる時。ふざけあってる時。
そこは、俺の席じゃないのか、なんて。
バカバカしい。
好きとか嫌いとか、そんなの。
それは、何かを壊す言葉だって。
どうして、思うんだろう。
そうだ。
一回だけ、前世で、凄く、凄く好きな人が出来て。
でも、その人はいなくなってしまって……。
「……頭、痛ぇ…」
思い出せない。
そうだ。短い時間だったけど、俺は確かに、そんな時間を持っていた。
あの人が笑うと嬉しくて。
俺だけが知ってる。大切な。
どうして、いなくなって。
痛い。頭が痛い。
思い出せない。
吐きそう…。
「焔!?」
「瑞……穂?」
「どうしたの、顔真っ青だよ!?えーとこう言う時は…水!水持って来るね!」
…………どうして。
こんな時に、タイミングを間違えずにアイツは来てくれるんだろう。
どうせ、俺なんて、漫画の主人公にでもならなきゃ、誰にも好きになってもらえないんだろうって、思ってたのに。
瑞穂は、友達でいてくれるって、思うんだ。
俺の手を離さないでいてくれるって、思うんだ。
……それ以上に、離したくないって、思うんだ。
頭痛ぇ。
俺、何考えてんのか良く分かんなくなって来た。
「大丈夫!?ほら、水だよ!」
「声うるせぇ……頭に響く…」
「ああ…ご、ごめん。静かにするね。はい、水」
「ん」
水なんかより、俺の頭を撫でる手の方が気持ち良い。
そう言ったら、どう思うだろうか。
照れては、くれないんだと思う。
照れて、欲しいのか?
…良く分かんない。
見てみたいとは、思う。
「うわ、結構熱あるよ?もー…ベッド行くよ?赤河家にいて良かったね」
「……ばかぢから」
「救世主に何たる言い草」
普通逆だろ。
何でお姫様だっこだよ。
お前どんなゴリラだよ。
馬鹿な事、たくさん言いたいのに。
意識が薄れる。
「じゃあ、伯母さん呼んで来る…」
「……みずほ」
「ん?」
「お前が、ここに、」
「すぐ戻るよ?」
「……ダメ。ぜったいダメ」
「えぇー?どうしたの、今日。甘えん坊だねぇ」
元気になったら、言えるはずがない事。
俺にも、良く分からない事。
全部、瑞穂の笑顔に溶けて消えて行って。
ただ、一緒にいたいなぁって、思って。
千歳にも悠馬にも晴臣にも晴雅にも、かぐやにも、麻子先生にも、廉太郎にも、陽介にも木原にも美生にも…渡したくない、俺だけの場所。
「となりに、いてくれ…」
「うん。いるよ、ずっと一緒にいる。焔が大人になっても、結婚しても、犯罪者になったって。どんな形でも、隣にいるよ。だって私達、仲間だもん」
仲間じゃなかったら?
同じ、前世の記憶を持つ仲間じゃなかったら?
お前は、この手を離すのだろうか。
俺じゃ、ダメなんだろうか。
……手が、温かい。離したくない。
どうか、離れませんように。
前世みたいに。
届かなく、なりませんように……。




