65.突入、テレビ局!
「あー、寒いっ!」
「もう冬か…早いな」
「確かに」
珍しく休みを取れたらしく、家族でのんびりとテレビを見て過ごす。
前世では、普通に一家団欒だったけど、今ではこうして赤河家、青島家、あと西家の三家でいないと、団欒って感じがしないから不思議だ。
慣れってヤツだね。
もし、今からでも前世に戻れるよって言われても、私なら戻らないと思う。
前の家族が嫌いって訳じゃないけど…まぁあれです。
寂しいからだね。
「あれ、もう冬?」
「どうした、ついにボケたか」
「失敬な!違うよ。イベント起きてないなーって思って」
「十分起こしてる気もするけど…確かにな。双子だろ?」
「そうそう」
双子って言っても、勿論臣君雅君の事じゃない。
焔が言ってた双子子役タレントの事だ。
『ハーレム×ハーレム』において、双子の片割れが、焔の婚約者になるのだ。
「呼びましたー?」
「呼んでねーよ!」
「あの双子ちゃんの話だよ、臣君。最近テレビに出てる」
私が、テレビを指しながら言うと、突然現れた臣君は、納得したように頷く。
焔のクイズ当てられなかった私が言うのもなんだけど、有名だからね、あの子達。
実際天使みたいに可愛いし。
…いや、あの雰囲気は、どっちかって言うと小悪魔ちゃんかな!
「ああ…渋谷兄妹…でしたっけ?俺はお嬢のが可愛いから興味ないけど」
「えーと、ありがとう?」
「ああー、お嬢可愛いー。俺だけの物になってくれたらもっと可愛いー」
「晴臣うっぜぇ!」
「ちょっ、若。嫉妬で殴るのやめてよ」
「嫉妬じゃねぇ!!」
臣君が抱きついて来て私の頭を景気良く撫でる。
うおおお、私の髪がぁぁあ!
…ボサボサになっても、はいっ!手櫛で元通り!
なんちゃって。
とかしてる間に、焔が臣君を追いかけまわし始める。
そうか。そんなに茶化されるのが嫌か。
…この二人って、実は相性悪い?
「何か気になる事でも?」
「ん、可愛いなーと思って。ね、焔」
「え?ああ、まぁそうだな」
「若ってああいう子が好みだったんですね。お嬢と結構タイプ違うんだ」
「好みの話じゃないからな!?」
再び取っ組み合いのケンカがスタートする。
いやいや、焔の身体能力がいかに高くても、臣君は無理でしょー。
相当腹立ったんだろうけど、諦めなよ。
取っ組み合いって言ったけど、取っ組めてさえいないじゃない。
臣君、社会人含めてすらあの道場で最強なんだよ?
雅君と松本さんは除く。
「渋谷兄妹……ああ、彼らですか」
「そうそう。可愛いよね」
雅君は、どうもピンと来てなかったらしい。
丁度テレビに名前付きで登場したら、納得したように頷いていた。
「……」
「雅君?」
「いえ。ただ僕も、心根を飾らないお嬢様の方が、可愛く思えまして」
「!!?」
「え、ちょ、マサ!?何言ってんの、お前!?」
「晴雅…お、お前もやっぱり晴臣と双子だったんだな……」
「焔様。この発言でそう解釈されるのは不愉快なので、やめて頂けますか?」
「それ俺に失礼だぞ、マサ!!」
くそうっ、何だどうしてデレ祭りが開催されているんだ!?
臣君のは慣れてるけど、慣れてるけど!!
雅君にサラッと言われる方が威力高いよ!!
落ち着け私、落ち着けー。
いつものテンションで行くのだ。
セリフくさっ!とか、そうやって突っ込むレベルで行くのだ。
「ま、またまた雅君は冗談が…」
「勿論、お嬢様は見目もお美しいですがね」
…負けたよ。
ああ、負けたよ!
私、可愛いとか言われ慣れてないですから!
って言うか、毎朝鏡で見てるから知ってますぅー。
この世界においても普通かちょっと上からくらいのレベルだって思いますぅー。
「ああー雅君好きぃー」
「はい。僕もお嬢様が好きですよ」
「お嬢そう言う事言うんだー。そんなお嬢は嫌いですよ」
「あっ。臣君が分かりやすく拗ねた」
「……」
「焔も分かりやすく拗ねている」
「別に拗ねてねーけど!?」
「何でそこでキレるの!?」
「ははは。お前たちは相変わらず仲が良いな」
ふと、大人だけでまったりしていたはずの伯父さんがやって来た。
おや?お茶を飲んでいたはずでは?
と思っていたら、伯父さんがテレビを指す。
「少し耳に入って来たんだが…焔たちは渋谷兄妹のファンなのか?」
…嫌な予感がする。
伯父さんが目を輝かせながら聞いて来る時は、あんまり良い事じゃない。
いや、伯父さんにとっては良い事なんだけど、私達にとってはそうじゃない。
焔が目を泳がせている。
気持ちは分かるけど、スルーは不可能だ。
ここは、とりあえず返事をするっきゃないな…。
「は、はい。実はそうなんです。可愛いですよね」
「そうか!それは丁度良い事を聞いたな!」
「え?」
「桐吾!説明してやれ」
「かしこまりました」
……どうやら、マジで春の時点で予想していたのが当たったようだ。
赤河グループのCMキャラクターに起用されたから、もし良ければ撮影見学出来るけど、どうする?っていうか行くよね?との事だ。
「ところで父さん。今までうちのCMなんて見た事なかったんですが…」
「ん?知らなかったのか?RRGがうちだぞ」
「ん?」
「あ、それ見た事ある…」
いや、見た事あるなんてものじゃない。
何か様々な会社のCMに、協賛的な感じで一緒に名前を連ねているヤツだ。
RRG。
一体何なんだとずっと思っていたけど…。
R=レッド。赤。
R=リバー。川。
G=グループ。
……赤河グループじゃん!!
怖ぇぇ!
知らない間に浸食して来ている感じが怖ぇ!
何か、改めて赤河家の大きさを実感したね。うん。
「旦那様は、焔様と瑞穂の二人にイメージモデルをやってもらうつもりでいましたが、嫌がるだろうとの想定から、正式にモデルを採用する事になったのです」
ありがとうダディー。
焔はイケメンだから良いけど、私のそこそこ顔が全国に流れるとか、それただの嫌がらせになるレベルだったからね。私への。
「よし、それじゃあ決まりだな。早速行くぞ!!」
伯父さんの行動力は見習うべきだね。
うん。
……だけは。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「はい、迷子ー」
何と言う事でしょう。
バシバシとありがちイベントを回収していってますよ、私。
主人公か。
いや、主人公は焔だから。私じゃないから。
どうやら、撮影が行われていたのが今日だったらしく、私達は本気で早速テレビ局へとお邪魔していた。
腕に付けられているのが入館章らしい。
失くしたら大変だ。
それ以前に、私は道を失くしてる訳ですが。
あ、上手くない?上手くないか。
うん、結構テンパってるのかもしれない。
キョロキョロと辺りを見回すと、似たような通路と似たような扉ばかり。
うーん…何で私、一人で迷ってるんだろうか。
と言うか、誰かの意図を感じる。
何故ならば、もっと人がいてもおかしくないはずなのに、人っ子一人いないからである。
テレビ局って、もっと人いるものじゃないの?
私が間違ってる?
残念ながら、前世でもテレビ局に来た事なかったからなー。
職場体験でテレビ局選べば良かった。
織物工場を選んだのは私です。
「ドッキリ?でも、私に仕掛ける意味はないし…あ、マズイ所来たかな?」
私が導きだした答えは、現在テレビ局を舞台に、壮大なドッキリを行っているのではないか、というものだ。
タレントさんが、気付いたらたった一人で…みたいな感じの。
そういう説明はなかったと思うんだけど、聞き逃していただけかもしれない。
私にドッキリ仕掛けた所で、喜ぶのは伯父さんぐらいだろうし、いや、案外私がどれくらい成長したか確かめる為の試練かもしれない。
お父さんならそういう理由で、伯父さんのドッキリを黙認する可能性もあるな。
…だとすると、どこかで焔も迷子になってる可能性がある。
早く探してあげないと。
ああ見えて、寂しがり屋さんだから。
「焔ー、いるー?聞こえるー?」
声をかけながらテレビ局を徘徊する。
手近な扉を開けてみても、本当に誰もいない。
これは、大がかりな事をやってるな。
撮影を見に来たんだから、お休みな訳はないしね。
寧ろ、本当に私が説明を聞き逃してて、入っちゃいけない所に来てたんだったらこれ相当迷惑だよね。
後で土下座しよう。
「………!」
あれ、誰かの声が聞こえて来た。
焔ではないようだけど…。
まだ聞き取れない。
もう少し近くに行ってみよう。
……因みに、これがホラーゲームならトラップだったりの可能性もあるけどね。
「……どこ、」
大分近くに来たみたいだ。
やっぱり、今日一緒に来たメンバーの誰でもない。
もっとずっと子供だ。
透明感があって、キーが高くて、可愛い。
…聞き覚えがあるぞ。
これってもしかして。
「渋谷くん?ちゃん?」
「あっ!」
角を曲がったところで、可愛らしいフリフリのゴスロリ衣装を身にまとったツインテールの子を見つけた。
間違いない。
渋谷兄妹……の、どっちかだ。
何故か一人だ。
「あの…スタッフさん、じゃないですよね?あなたは?」
「えーと、しがない見学者の青島瑞穂です。よろしくね!」
一人しかいない人気双子子役。
そして、何だか意図的に迷子にされた私。
真面目に裏があるのを感じる。
…ああっ、もっと真剣に断っとくんだったかな。
そう思いつつ、ウキウキする私はテレビっ子。
こうなったら、いっちょ話に乗ってやろうじゃないか!
焔ー。
多分そっちも大変なんだろうけど、頑張ってねー。
と、いう所で次回に続くよ!!
作者は、テレビ局に足を踏み入れた事がない為、すべて想像の産物です。
実在の子役さんやタレントさんやスタッフさんなどの雰囲気とは、一切関係ありませんので、ご注意ください。