64.穏やかな時間
いつもより非常に短いです。申し訳ありません。
「はっ!やっ!!」
「瑞穂、何やってるんだ?いつもならダラけてる時間だけど」
私が、本来なら部活もなく、刀柳館での訓練もなく、その他の習い事もなく、これは天が与えたもうた奇跡の時間か!!
ふーい、グダるぜぇぇええ!!
…としてるはずの時間に、庭で真面目に訓練をしている事を不思議に思ったのか家の中にいたはずの焔が出て来た。
私は、動きを止める事なく、笑顔を向ける。
「見れば分かるでしょ?特訓ですぜ親分!」
「誰が親分だ。…てか、珍しいな。イベントごとはともかくとして、お前、真面目に何かするの面倒がってたじゃないか」
「そりゃねー。人生二回目ともなれば、面倒臭くもなるよ」
「特訓は面倒臭くないのか?俺から見れば相当面倒臭そうだけど」
庭に置いてあるお洒落な椅子を、ズルズルと引きずって来て、私の近くに置くと焔は椅子の背もたれに肘をつく。
ちょ、坊っちゃん、お行儀が悪いですぜ。
「面倒だよー。別に私、チート活かして無双するのは夢じゃないしね」
「もう十分ハーレム無双してる気はするけどな」
「いやいや、それは焔の方でしょ。六年生のお姉様方にキャーキャー言われてたの見たよ、この間」
「お姉様ったって、小学生だぞ」
「何を言うか、小学三年生」
突きをしながら、言い返してやると、焔は引き攣った様な笑いを浮かべる。
そう言えば、今の焔の精神年齢ってどのくらいなんだろうか。
私は何となく二十代って感じでいるけど、焔はかなり前世の年齢に近付いているし、少し感覚が異なったりするんだろうか。
前世の精神年齢に、現在の肉体年齢って加算されるのかな?
んー…良く分からないなぁ。
「今の焔ってさ」
「ん?」
「恋愛対象って何歳くらい?」
「ブハッ!と、突然何言うんだ!…って、うわぁあ!!」
ガタン!!
「いってぇ!!」
私の質問に動揺したのか、変な座り方をしていた為にバランスを崩して、椅子ごと地面に倒れ込む焔。
おお、あれは痛い。
「変な座り方するからだよ。危ないって注意したでしょ」
「いや、いてて…してなかっただろ」
「あれ。そうだっけ?ああ…お行儀悪いなーって内心で思ってただけだった」
「お前そんな事思ってたのかよ…ったく…」
焔は、ぶつけたらしい膝を擦りながら、椅子を起こす。
あのくらいの転び方なら、怪我はしていないだろう。
せいぜい痕がついたかどうかくらいだ。
「で、何歳くらい?」
「…それ、答えなきゃなんないのか?」
「んー…出来れば。ちょっと興味あって」
「何、お前俺の恋愛対象気になるの?」
「焔の恋愛対象って言うか…前世の記憶って、どういう影響を及ぼしてるかなぁ、なんて、ちょっと気になったんだよ」
「…瑞穂がマトモな事考えてる…だと…」
「あれ、私馬鹿にされてる?」
考えるのは焔の担当ね!的に投げてはいたけど、一応精神年齢まで加味しても、私の方がお姉さんですからね。
考える時は考えますよ、真面目に!!
「少なくとも、小学生は何か違う。それ以上は…良く分からないな。今は別に、恋人とか探さなくても、お前がいてくれるし…」
「焔の貴重な…デレ!」
「デレとか言うな!真面目に返してやってんだぞ!?」
「だって嬉しいんだもん。いやー、やっぱり焔は最高に可愛い!!」
「撫でるな抱きつくな!鬱陶しい!!」
思わず訓練を取りやめて焔に抱きついて頭を撫で回す。
くぅぅ、まだ精神統一がどうのってお父さん辺りに怒られちゃうかもしれないけど、仕方ない。
焔のあまりの可愛さに耐えきれませんでしたって言っておこう。
あと、それで怒られても本望である。
だってさー、こんな愛らしい生き物目の前にして撫でないとか、正気の沙汰じゃないと思うよ、私。
「はー、まったく…。お前といると飽きないよ」
「お褒めにあずかり光栄です」
「褒めてないからな?」
「お前といると楽しいよ、って意味じゃないの?」
「どんだけポジティブに受け止めてるんだよ!皮肉だ、皮肉!」
「くそう…またいつものツンか。それはそれで良いんだけどね」
「ドMか!!」
実際、たった一人で転生していたら、どうだったんだろう。
私はこの世界に関する知識は一切ないから、普通に記憶を持って生まれ変わっただけって思ってたはずだよね。
それで、ここに焔はいたかもしれないけど、それは別の焔で…。
鈍感系主人公で、ハーレム築いてたんだよね。
「…正直、本当に焔がいてくれて良かったなぁ」
「はぁっ!?え、な、何だよ急に。お前こそ珍しくデレるのか?」
「……」
「おい、何か言い返せよ。俺が馬鹿みたいだろ」
「…………」
「…お、おい、瑞穂?どうかしたのか?気分でも悪いのか?」
あー、これこれ。
何だかんだ言って、世話焼きな焔が大好きだ。
冗談じゃなく、本気で焔がいなかったら、私今頃第二の人生楽しめてなかったのかもしれない。
私は焔のお腹辺りに、頭をグリグリ押しつける。
そうすると、おずおずだけど、頭を撫でてくれる。
あー落ち着く。
「本当に大丈夫か?何か変だぞ、お前」
「別にー。何か色々考えてたら、ちょっと切なくなっただけー」
「更年期障害か?」
「いやいや、おかしいでしょ。前世でもまだだったわ」
「なら知恵熱だな」
「焔の中の私、どんだけ馬鹿なのさ」
「相当」
「マジか」
こう言う、他愛のない時間がとても落ち着く。
こんな時間が、ずっと続けば良いって思うけど、そうならない事は、知ってる。
大人になるって言うのは、そう言う事だ。
努力し続けないと、穏やかな時間を守れない。
「休憩終わり!私、もう少し訓練続けるよ。ありがとう」
「別に良いけど。てか、マジで何で訓練してたんだ?面倒なんだろ?」
「うん…。お父さんが、それとなくあんまりサボるとすぐ弱くなるぞって教えてくれてって言うか釘をさして来てさ…。珍しいから従ってる」
「叔父さんが?確かに珍しいな」
タイミングから言って、理由はお察しだ。
勝って兜の緒を締めよ。
要するに、そう言う事だろう。
現代日本は平和だけど、決して百パーセントではない。
特に、将来どうするにせよ、お金持ちの息子の焔と、普通に仲良くし続けたいのなら、あまりにもグダグダしてたら駄目だろう。
普通は、普通だからこそ得難いのだ。
「何考えてんのか良く分かんねぇけど…」
「うん?」
「ま、疲れたら言えよ?茶ぐらい俺がいれてやる」
「おお、焔ったら良い男!」
「茶化すな、馬鹿」
まったく茶化してない。
姿が小学生じゃなければ、もう惚れてたよ多分。
…うーん、ちょっと年の差が…いやいや、それは前世だしね。
それを言ったら拗ねるだろうから言わないでおこう。
とにかく、こんな穏やかな日々が続くように。
努力を怠らないようにしよう。そうしよう。
「あっ、お嬢何やってるんですかー?俺も混ぜて」
「丁度良い所に!組手しよう、組手!」
「良いですよ。さー、どっからでもどーぞ!」
「ていやーっ!」
「……怪獣大決戦…」
「焔様。お嬢様の本気の拳を受けたくないのならば、少し自重なさった方がよろしいかと」
「……だな」
昨日と言うか、今日?接続障害でしたね。
お陰さまで、短編アップの時間がズレ込んだようです。
予告より時間が遅くなっていたようですが、無事に上がっているので、お暇な方は是非。




