63.刀柳館とトーナメント?
もの凄くグダグダ回です。
「道場内勝ち抜き選手権?」
「そうそう」
いつものように刀柳館へ向かうと、松本さんが私の腕を引っ張って、いつもは行かない、この建物で一番広い部屋へと連れて来られる。
県立とか市立の体育館にも匹敵する広さになっているこの部屋だけど、真面目に考えて、どうやって建てたんだろう。
土地とか、建築基準法?とか大丈夫なんだろうか。
気にしちゃいけないんだろうけど。
それはともかく、この部屋は滅多な事では使用されていない。
広過ぎて何か集中できないし、とは松本さんの言葉だ。
なら何故作った。
…いやいや、そこは突っ込んじゃいけないところですな。
まぁ、それはともかく、こんなだだっ広い部屋に連れて来られるなんて、何かがあるとしか思えなくて、緊張していたんだけど…。
まさか、勝ち抜き選手権とか意味の分からないイベントがあるとは予想外だ。
…ヨソウガイデース。
なんちゃって。
「私、この暑苦しい大会に出なきゃいけないんですか?」
「大丈夫!ちゃんと小学生の部だから!」
「あれっ、安心要素あります?」
「うん。瑞穂ちゃんはシードにしておいたよ!」
「話が通じない!!」
グッじゃない!
幾ら私がイベント好きとは言え、これは運動会とは訳が違う。
この部屋を見てもらえれば分かる。
何て言うか…暑苦しいのだ。
平均よりもガタイの良い男達が、フッとかハッとか言いながら組手をしていたり何か座禅的なものを組んで精神統一していたり、ギラギラと輝く目で自分のライバルになりそうな人の様子を窺っていたりと…まさに世紀末。
過剰に女の子要素が低い事も、そう感じる要因の一つだろう。
松本さん、何でニコニコ笑ってられるんだろう。
ありえん。
「定期的にこういう企画を組んでいてね。勿論、うちの実力を高水準でキープする為のものだよ」
「それは理解してますけど…遠慮しちゃ駄目ですか?」
「駄目駄目。全員参加が義務付けられてるんだよ」
「何ですかそれ。怖ぇ」
まぁ、高校生の人相手にしなくて済むのはありがたい。
無差別格闘戦とか、完全に漫画だし。
ああ、ここ漫画だった。偶に忘れるな…。
とりあえず、今の所拳に炎を纏う人とか、拳圧で相手を切り裂く人とかには会った事は無いから、一応は現実基準で考えても良いのかな。
…あり得ない事に代わりないけど。
私は、K-1選手が何かなのだろうか。無差別格闘って。
出なくて良いらしいのは唯一、弓道専攻の人だけだそうだ。羨ましい。
「あっ、お嬢ー!お嬢も出るんですか?」
「臣君に雅君。うん、小学生の部にね。二人は?」
「僕等は無制限の部です」
「え」
「大人相手にもやれるはずだからってさ。ですよね、先生」
「二人は優秀だからね。流石は青島さんの推薦だ」
いやいや、おかしくね?
ねぇ、おかしくね?
おかしいのは私の感覚の方なのか?
何が悲しくてこんな人間兵器養成所みたいな所のトップの方に君臨しなくちゃならないんだ。
しかも私の周辺の人ばかりが。
私、マジで着実に人外への道歩んでるな…。
もうお嫁に行けないかもしれない。
って、まだ試合も何もやってないんだから、落ち着け私。
臣君達だって、この世界では普通の部類に入るかもしれないじゃないか。
結果が出るまでは、考えないでおこう。
そうしよう。
「青島せんぱいもしゅつじょうなさるんですね」
「あ、ナオくんだ。ナオくんも出るの?」
「当然です。父上のむすことして、はずかしくない試合をしてみせます!」
どうやら、私の姿を見つけて駆け寄ってきてくれたらしいナオくん。
気合い十分の様子のナオくんぐうかわ。
もうあれだよね。可愛いは正義。
結構癒されたよ、ありがとうナオくん。
「それじゃあ、僕は日程の調整とかあるからこれで。直、先輩達の胸を借りるつもりで、頑張るんだよ」
「はいっ!」
「あとはよろしくね」
そう言うと、松本さんは奥の方へと消えて行った。
本来なら、そう簡単に姿を見失う事なんてあり得ないこの部屋だけど、今日ばかりは、人でごった返しになっているので、すぐに見えなくなる。
こんなに門下生がいたって事だよね。
皆、どんな想いでここに来てるんだろう。
だってここ、マジでキツくない?
私も、お父さんから言われなければ来てなかったよ。
「あ。先に小学生部門やるみたいですね」
「お嬢様、頑張ってくださいませ」
「うぅー…気は進まないけど頑張って来る。ナオくん、行こうか」
「はい、せんぱいっ」
非常にダルい。
ダルいけど、手を抜くのは私の主義に反する。
参加するイベントには、全力を尽くすのが私だ。
何しろ、二度目の人生は全力で楽しむことに決めている。
嫌々やるなんて、つまんない。
と、言う訳で、私は全力でトーナメントに臨んだ。
…結果から言おうか。
優勝しましたー。
え、軽い?
いやぁ、何しろ軽い内容だったから。
小学生部門は、人数が全体でもそう多くなかったから、試合数自体そんなに多くなかった、って言うのもある。
あるけど、周りが雑魚過ぎたのか、私が強過ぎたのか。
殆どアッサリ終わってしまったのだ。
私にとっての第一試合。
VS小五男子専攻は剣道。
合わせて竹刀を使って戦って、私の一刀を受けた彼の両手が痺れ、戦闘不能。
試合時間は僅か二分。
第二試合。
VS小六男子専攻は柔道。
ルール無用と言う事で、容赦なく顔面フェイントをかけて、目を閉じた瞬間をついて地面に引き倒してマウントポジション。
勿論殴らなかったけど、それで勝負あり。
試合時間は僅か五分。
第三試合、準決勝。
VS小六女子専攻は薙刀。
流石に無手はキツいなーと言う事で、竹刀を使用。
薙刀の攻撃を受け止めつつ、腕を捻って薙刀を弾き飛ばし、攻撃手段を失くした所に竹刀での寸止め。
試合時間は僅か三分。
第四試合、決勝。
VS小六男子専攻は相撲。
ガチでのパワー対決に勝ちたくないと言う理由で、彼のパワーを利用してブン投げて場外勝利。
試合時間は僅か一分。
…軽いでしょ?
正直、もっと強い人が多いと思っていた。
確かに、運動会ではちょーっと私達が目立ってるけど、ここは泣く子も黙る、刀柳館ですよ?
もっと強いと思うじゃん!!
でも、感想としては、多分小学生で良い勝負出来そうなのはナオくんだけだ。
ナオくんは、反対のブロックの準決勝で敗れてたけど、あれはパワー対決に負けただけで、純粋に技術勝負なら勝ってたと思う。
その辺りは、相手に合わせて戦うナオくんのこだわりだろうから、仕方ないところだったと思うけど。
だから、まったく私だけが異常に強い訳ではないと分かってほしい。
…誰に言い訳してるんだ、私は。
「優勝してしまうなんて、スゴイですねせんぱいっ」
「あはは…ありがとう。まさか優勝出来るとは思わなかったよ」
「いえ、けんそんなさらないでください!それがせんぱいの実力ですよ」
「あ、うん」
…ナオくんて、本当に普通の小二なんだろうか。
時々、中身大人なんじゃなかろうか、と思ってしまう。
言い回しが大人びてるだけで、発想とかは普通に子供なんだけど…。
あれだな。
私自身が記憶を持って転生なんて、訳の分からない経験してるから、そんな事を思っちゃうんだろうな。
「あ、無制限部門も決勝がはじまりますよ」
「そうだね。決勝は…まぁ、そうだよね…」
予想通りと言いますか、何と言いますか…。
無制限部門決勝は、双子だった。
完全にこれ、松本さんの手がかかってるよね。
ランダムにトーナメント組んだとか、絶対嘘だよね。
何か細工してあるよね。
思わず溜息が出そうだ。
二人が強いのに文句はないけど、何かの陰謀的なものを感じて、少しばかり嫌な気持ちになるのだ。
仕方ない、許せよ二人共。
試合開始の合図と共に、二人の姿が消える。
いや、消えるって言うか、戦いの舞台として設置された円の中央で竹刀をぶつけ合ってるだけなんだけど、速過ぎて良く目で追えない。
これ、完全に人外の動きですよね。
将来私もああならないといけないんだろうか。
…気が重いと同時に、目で追えない事に悔しさを感じる自分。アウトですね。
二人のそんな壮絶な戦いは一時間を超え、試合は中止された。
二人共優勝。
…うん、あり得ないな。
「俺の方が強い」
「諦めろ、晴臣。僕らは同じ強さだ」
「もう一時間やったら結果は違ったし」
「また来年もやるらしいし、その時に決着をつければ良いだろう」
「ぶーっ」
「あはは…」
一人で優勝出来なかった事に機嫌を損ねた臣君を引きずりながら、私達は帰る。
こうして歩いているだけなら、ただの普通の現代世界。
でも、こうしてチート級の強さが、まぁ一部努力とは言え、与えられている事を考えると、もしかして、いずれ何かと戦う事もあるんだろうか。
物事に意味のない事なんてない、とか言うし。
…考えても仕方ないか。
人生楽しむのに、強くて困る事なんて、とりあえずはないだろうし。
まずは、優勝出来た事を喜んでおこう。
それがきっと一番、建設的だろうから。
「焔ー!ただいま、優勝したよー!!」
「突然なんだよ!?」
「かくかくしかじかです」
「そんなんで通じるかー!!」
「あははー焔が怒ったー」
「って、中途半端に言い逃げ?途中でやめんな、気になるだろ」
「内緒なのです」
「なのでーす」
「うわっ、晴臣すげーキモい」
「えー、若ひどーい」
「…………はぁ。早く手を洗ってうがいをしましょう、お嬢様」
本日の24時(明日の0時)に、以前投稿した短編「悪役令嬢の姉は、脇役だと信じたかった」の続編と言うか補完編?を投稿予定です。
タイトルは「悪役令嬢の姉は、脇役ではいられなかった」です。
お暇な方や、前作を気に入ってくださった方は、是非ご覧頂ければ嬉しいです。
どうぞ、よしなに!