62.心繋がる運動会
さてさて、今年もこの季節がやってまいりました!
そう、運動会ですっ。
血わき肉躍る…この瞬間が堪らないぜ、ヒャッハー!!!
「瑞穂ー。お前、顔が変になってるぞ」
「はっ!ちょっとテンションが上がり過ぎてた」
「落ち着けよ。ったく、ガキなんだから…」
「イベントは全力で楽しむ主義なだけですぅ」
焔と、あーだこーだ言いながら学校へ向かう。
結局は今年もまた焔とクラスが分かれているから、今年、来年共に、焔とは争う運命にある。
ちょっぴり寂しいが、仕方ない。
全力で叩きのめしてやるぜ!!
「刀柳館でのごうも…地獄特訓の成果、見せてやんよ!」
「そう言えば、お前そんなヤバイ所に通ってたっけ。最近呻かないから忘れてた」
「あんなエグい目に遭ってる従姉の存在を忘れられるとか酷過ぎる!!」
「だって、筋肉痛でギャーギャー言わなくなっただろ?」
確かに、最近も更に特訓はハードな物になってきているにも関わらず、その場では吐きそうになっても、家に帰ればピンピンしてる事も増えて来た。
単純に強くなって来たのかなーって思ってたけど、良く考えたら異常な速さだ。
……あれ、私知らない間に、人外への階段上ってた??
「うう…ファンタジー世界ならともかく、現代日本で無双したくない…」
「オリンピックにでも出れば良いんじゃねーの?応援してやるけど」
「焔の応援とかレア!…いやぁ、嬉しいけど、多分それはないよ」
「?お前、祭り好きだろ。目立てるぞ」
「私は目立ちたいんじゃなくて、お祭りに全力で参加するのが好きなの」
「何が違うんだ??」
ふんだっ。
繊細な乙女心は、焔には分からないだろうさ。
なんて思う辺り、最近私も精神年齢下がってきてないか?
生まれ変わってから凡そ九年。
……良く分からないな。まぁ、良いか。
「とにかく!今日の運動会を全力で楽しむよ!」
「まぁ、頑張れよ。お前さ、もしかして今年も軒並み参加か?」
「当たり前だぜ!…と、言いたい所だけど、他の子たちにも参加して欲しかったからね。去年までよりは少ないよ」
「へぇ…お前も大人になったな」
「元から大人ですけど何か?」
「そうだったな、オバサン」
「ねぇ、ケンカ売ってる?売ってるよね。よし、言い値で買おう」
しばらく取っ組み合いのケンカをした後、私達は何事もなかったかのように学校へと入ると、各々の教室へ分かれて行った。
この辺り、以心伝心感あるよね。
うむ、これぞ幼馴染。
あれ。意味分からない?
大丈夫だ、私も意味は分かってない。
「あ、おはよー青島!」
「今日はよろしくね、瑞穂ちゃん」
「おー、皆おはよー!他クラスなんて全力で退けてくれようっ!!」
くくく、我が作戦が火を吹くぜ!
と、言う訳で、私は最終確認をするべく黒板の前に立つのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「……本当にやるのか?」
「この期に及んで何を言うか。もうとっくの昔に選手登録は終わってるよ?」
「だが、俺は青島より足が遅いし…」
「まったく…練習したから大丈夫だって。自信持ってってば」
「……」
えー、幾つかの競技を終え、次は二人三脚だ。
勿論私もエントリーしていて、相棒は委員長だ。
委員長は、インテリ眼鏡キャラだけど、足は速い。
委員長より速い人もいなくはないけど、二人三脚は、足の速さ以上に、息が合うかどうかが問題になって来る。
なので、私としては委員長を推したい!と主張した結果、ペアになった訳だ。
ま、まぁ、私の主張が認められたと言うよりは、あまり愛想の良くない委員長を私に押しつけたい、と言う周囲の空気の影響が大きかったみたいだけど。
そんなのは知らなければどうと言う事はない。
現在、問題点を上げるとすれば、委員長が妙に自信がない所だろうか。
私が練習の時全力で走るのを見て、自信がなくなってしまったそうだ。
私のせいじゃないか?
はい、仰る通りです。
でもさ、練習とは言え競う相手がいて、全力を出さない事が出来ようか。
いや、出来まい。
…言い訳乙。
「委員長、二人三脚しか出ないよね?」
「ああ」
「他の人の士気が下がるかもーって思ってるからでしょ」
「……そうだ」
「けど、二人三脚は、相棒が私だよ。今更委員長の愛想が悪いからって、避けたり嫌いになったり、士気が下がったりしないよ。って言うか、一緒にやってくれたら士気上がると思う!」
「青島…」
「もし委員長がヘコたれそうになったら、私が頑張るから、委員長は私がヘコたれ
そうになったら頑張って。助け合おうよ、委員長!」
「……」
グッと手を握って訴えかける。
委員長と組みたい、と思ったのは、実はこの辺の意図もあった。
変に遠慮がちな委員長は、他の人を慮り過ぎて、自分が犠牲になる傾向にある。
下手したら、何にも出場しない、なんてオチも容易にあり得た。
それを水際で阻止したのが私である。
…それを笠に着る気はないですけどね。
少なくともこれで、委員長は運動会との繋がりを保つ事が出来る。
私としては、勿論一位を取る気でいるけど、何ならビリだって良いのだ。
委員長が一生懸命頑張るのを見て、避けるような悪い子は、うちのクラスにはいないと、私は信じている。
出来れば、圧倒的な実力差で一位を取って、見返してやりたいんだけど、それはそれで難しいかな。
私の功績になってしまったら意味がないし。
だけど、その辺りは大丈夫だと思っている。
私は、多分あの特訓によってチートへの階段を上り続けているから、クラスで一番足が速くなってしまったけど、それを除けば、委員長の足の速さは上から三番目なのだ。
因みに、二番目は藤林くんという男の子で…って、話が逸れてしまった。
とにかく、委員長にはヒーローになれる素質がある。
特に、小学生の間ならば、身体能力で人気を取ると言うのが堅実だ。
何しろ、委員長は頭が良いけど、結局遠巻きに見られてるし。
…それも置いておいて。
運動会というこの雑多な雰囲気に押されて、あれっ結構委員長って良いヤツじゃない?足も速いしカッコ良い!友達になって、大作戦。
結構、良いと思います。
「……分かった。やれるだけ、やる」
「やった!!頑張ろうね、委員長」
「……」
しばらく時間がかかったけど、委員長は力強く頷いてくれた。
ああ、もうこれだけで考えてた色々がどうでも良くなって来るレベルだ。
慣れて来たとは言え、委員長の目力、すごく精神力消耗するんだよね。
真面目に魔王レベルだ。カッコ良い。
と、まぁふざけるのはこの辺にして、問題はもうすぐ後の本番だ。
気合い入れてくぞ!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「うわっ、同じ組かよ」
「あれ。よーすけ出るとか珍しいね。どういう風の吹きまわし?」
「ああー!ヨースケくんずるいー」
「良いなぁ…ボクも瑞穂ちゃんとが良かった…」
なんと、二人三脚の同じ組に、焔とさっちゃんがいました。
後ろの組には、ちーちゃんとゆーちゃんもいるけど、組が違うから、ライバル的な意味では気にしなくても良い。
皆、スタート位置についてるから、普通に会話はするけどね。
「寧ろ、焔がさっちゃんと出たのが意外だったなぁ」
「俺は千歳か悠馬と組むつもりだったんだ。それをコイツが…」
「面白そうだと思って」
「さ、災難だったね」
言葉通りに受け止めれば、さっちゃんは二人三脚が面白そうだから、立候補したという事になる訳ですが。
明らかに理由が違いそうだ。
きっと、焔の初心さ加減をイジって遊ぶ予定だったんだろう。
何それ羨ましい。
「…あまり迷惑かけるなよ」
「迷惑?かけてないでしょ、赤河」
「思い切り迷惑被ってるし。…まぁ、良いけどさ」
本当に押しに弱いなぁ、焔は。
そこが可愛い所でもあるのだがね。
「次の組、位置について」
そんな会話を続けていると、号令がかかった。
私達は立ち上がると、足を結び、肩を組む。
「委員長は自由に走って。私が合わせるから」
「了解」
「よーい、」
パン!
先生が空に向けたピストルが、乾いた音を立てる。
その瞬間、全員が一斉に駆け出した。
でも、ここが二人三脚の難しい所で、スタートダッシュに失敗したチームが幾つか転んでしまった。
このタイミングって、練習してもなかなか難しいんだよね。
ちょびちょび歩くチームもいるし、おっかなびっくり走るチームもいる。
そんな中、私と委員長、焔とさっちゃんチームがデッドヒートを繰り広げる。
あんまり見た事なかったけど、さっちゃんの足の速さが委員長と同じくらいなのだろうか。
この様子からすると、多分そうだろう。
委員長は最初から全力で走っているし、焔が全力を出していればもっと速い。
これは恐らく、躓いた方が負ける。
試合前は色々と悩んでいた委員長だったけど、今は迷いなく、ただゴールに向けて真剣に足を動かしている。
私はそれに合わせるだけだ。
ここで何かを言う事はない。
集中を削ぐデメリットの方が大きそうだからだ。
「…このままじゃ同着だな。仕方無い」
ぼそり、とさっちゃんが何事かを呟くのが聞こえて来た。
ここで作戦変更か何か?
内心で首を傾げていると、急に焔の走るスピードが上がる。
ええ!?焔の全力より速くない!?
い、一体何を言ったんだ、さっちゃん。
「……速い」
「委員長は集中!」
「…了解」
そのあまりの速さに気を取られかけた委員長だったけど、何とか気を引き締め直してくれる。
私はホッと胸を撫で下ろした。
いや、だって冷静になってみよう。
焔も、何だかんだ言って結構な身体能力って言うかチートですよ。
それに、さっちゃんがついていける訳がない。
するとどうなるかと言えば…。
ドジャサァアア!!
「ぐわっ!!」
「いっつぅ!!」
……そりゃ、ああなるよね。
速過ぎる焔についていけなかったさっちゃんが躓いて転ぶ。
そして、そんなさっちゃんに引っ張られてて焔も転ぶ。
くくく。勝負を決めに来たんだろうけど、愚策でしたな。
こうして、私と委員長は、ブッチ切りでゴールした。
「はぁ…はぁ……っ、勝った、のか?」
「勿論!一位だよっ!」
受け取った旗を渡すと、委員長は嬉しそうに頷いてくれた。
しかもその後クラスの陣地に戻ると、最初に立ててた青写真みたいに、委員長はヒーローとなった。
怖い、といって避けていたクラスメート達が、やんややんやと委員長を褒め称えはじめたのだ。
しばらく戸惑っていた委員長だったけど、皆に話しかけてもらえて、よっぽど嬉しかったんだろう。
薄っすらと笑顔を見せてくれた。
その破壊力たるや。
これから先も、避けられる事はなくなるだろう、と思える程に、クラスメートは絆されていた。
これは予想外だけど、素晴らしい効果だ。
もっと笑おう、委員長!
「…青島のお陰だ。ありがとう」
「いえいえ、それほどでも」
「謙遜しないのか?」
「本気でお礼言ってくれてる人に、そんな失礼な事しないよ」
「?そうか」
私の言いたい事は良く分からないみたいだったけど、問題なし!
私は、嬉しそうな委員長の表情を糧に、それから先の競技も獅子奮迅の活躍をしてやった。
結果、焔を抜いて優勝する事が出来た。
「よっしゃああ!勝ったぁぁああ!」
「く、くそっ。……てか、お前マジでバケモンに近付いてないか…?」
「失敬な!」
と、言う感じで、今年の運動会は得るものが多かったと思います。まる。
アイリス恋愛F大賞に応募してみようと、別作品を上げ始めました。
応募締め切りまでに、どこまでの話数を書けるか分かりませんが、短期集中連載で頑張って行こうと思っています。
お暇でしたら、是非そちらもご一読くださいませ。
「水のエルフと氷炎の騎士」というタイトルで、普通の恋愛ファンタジーより恋愛はしていませんが、二軍恋愛よりは恋愛してます。