59.カオスDEプール(3)
「ククク…逃げずに良くぞ参ったな!我が永遠の好敵手共よ!」
「ねぇ、何でちょっと懐かれてるの?」
「俺に聞くなよ」
着替えを終えて男子組と合流すると、やはりと言うか何と言うかな感じの、懐かしの廉太郎くんが待ち構えていた。
しかもちょっと斜めに立ってる。
その内、URYYYとか言い出しそうな立ち方だ。
絶対真似しちゃいけないヤツだ。
去年、ひと悶着あったから、てっきり嫌われてるかと思いきや。
何か去年以上に絡んで来る。
これは厄介なのに気に入られたものだ。
一足先に、更衣室で遭遇していたらしい焔は、既にゲッソリしている。
割とマイペースな臣君ですら、ちょっとイライラしてるし…。
…いや、臣君その辺りは結構短気か。
外見詐欺だもんね、ごめんね。
「お嬢ー?今、何か失礼な事考えませんでした?」
「えっ、そ、そんな事ないよ!?」
何故バレた!?
最も付き合いの長い焔相手だからいつも筒抜けなんだと思ってたけど…。
もしかして私、分かりやすい?
いや、優先度低い事に関しては、隠す気がないだけだよ。
ホントだよ!?
「嘘はいけませんねぇ」
「あはは…」
「罰として、今日は一日俺に付き合ってもらおっかなぁ?」
「へ?」
そう言うと、臣君はヒョイと私を姫抱っこする。
流石、軽々である。
周囲の、数少ない女性客から、黄色い声が上がる。
ちょ、落ち着いて!
抱き上げてるのは荷物みたいなものだから。
そう思いつつ、周りに視線を走らせると、麻子ちゃんと目があった。
私は反射的に、違う、誤解なんだと叫びたくなり、はたと気付く。
あれ、これどっちかって言うと、浮気した男の思考回路じゃね?
落ち着け、私。
軽く深呼吸してから改めて麻子ちゃんを見る。
と、何かどっちかって言うと、嬉しそうな顔をしていた。
「瑞穂ちゃんにじゃれる晴臣さん、格好良い…」
どこをどう取ってそう思った!?
駄目だ。麻子ちゃんは手遅れだ。
私の手でどうこう出来る気がしない。
ここは、問題を先送りしよう。
私は、そっと麻子ちゃんから視線を逸らした。
「ちょっと!今日はみんなで遊ぶんだよ!」
「そうだよ、ズルイよ!」
「えぇ?ちょっとくらい、良いでしょ」
「よくないの!」
「そうだそうだ!」
グイグイと臣君の羽織るパーカーの裾を引っ張るちーちゃんとゆーちゃん。
柔らかな物言いに反して、結構目は好戦的だ。
ちょいちょい、高校生のお兄さんや。
相手は小学生なんだから、そんな意地悪しなくても…。
「大人げないぞ、晴臣」
「ちょっと遊んでただけだろー」
「目が本気だった。双子に分からない訳ないだろう」
「そりゃ確かにちぇー」
心底残念そうに私を下ろす臣君。
え、そんな残念ですか?
「まったく、仕方ないな。…お嬢様、ご気分は如何ですか?」
「いやいや、そんな心配しないで。全然平気」
「ですが…」
「何なら、別にもっと抱っこしてても良いんだよ?」
「え」
「え」
両手を広げて、カモン!とばかりに提案すると、双子が同時に停止した。
私…空気読めない天才なのだろうか。
素直に今思った事を言っただけなんですけど。
そう思ってると、後ろからはたかれる。
当然犯人は焔である。
「痛いよ、焔!?」
「痛くしてるんだよ!なんて冗談言うんだ」
「え、嫉妬?嫉妬なの?なら、焔は私が抱っこ…」
「要るか!って言うか、俺のが背ぇ高いから!」
「大分鍛えたから、焔くらいならいける!」
「え。それこそ冗談だよな??」
「マジですが何か」
「何だコイツ、怖ぇ!!」
最近、特にメキメキと上達してるのを感じる。
だから、焔ぐらい真面目に余裕で抱えられる。
手を差し出されたら、全力で拒否された。傷付く。
「何今の。可愛過ぎ…マサ…俺、そろそろ犯罪者になる」
「全力で抑えろ」
ようやく再起動したらしい双子が、訳の分からない事を言っている。
けど、元気になったっぽいしスルーだね!
何しろ、いつまでも放置していたら、更に面倒な事になりそうだからね。
「だから、僕を、無視っするなー!!」
「坊ちゃま坊ちゃま!近所迷惑ですよぅ!!」
「…はぁ。うっざ……」
ごめんね、廉太郎くん!
わざとじゃないんだよ。
放っておくと会話に混ざれないレベルで会話が進む。
これがデフォルトなんです。
私ですら、ボーッとしていると、会話に戻れなくなるから。
うーん、何か去年も内心で謝ってた気がする。デジャヴ?
「ねぇ。さっきから喚いてるアイツ、あんたの友達?」
「いや、一応顔と名前だけは知ってる赤の他人かな」
「な、何だと!?昨年の激闘を忘れたか、我が好敵手よ!」
さっちゃんからの質問に、素直に首を横に振る。
すると、廉太郎くんが愕然とした表情になる。
あれ、何で?
友達じゃないよね、私達。
ほら、焔もうんうん頷いてるし。
「へぇ」
私の答えに、満足げに目を光らせるさっちゃん。
何するつもりなのかな?と、不安に思いながら眺めていると、つかつかと迷いなく廉太郎くんの方へと歩み寄っていく。
「な、何だ貴様は。我らの時間を邪魔するつもりか」
「アタシさ、あんたみたいなタイプ好きなんだよね」
「…は?」
急に何を言い出すのか。
さっちゃんは、ガシリと廉太郎くんの肩に手を置くと、ニヤリと笑った。
廉太郎くんのが年上なのに、その雰囲気に気おされたのか悲鳴が漏れる。
「あっ、ちょっ、貴女!坊ちゃまに何を…」
「大丈夫大丈夫。ちょっと話するだけだから。さ、行こーか!れんたろークン?」
「は、離せ無礼者!私を誰だと心得る!ものども、出合え!!」
「坊ちゃまをお放しください!」
「だいじょーぶだいじょーぶ」
やべぇ、さっちゃんが最高に悪役っぽい。
年上の廉太郎くんの腕を掴んで引っ張っていく様は堂に入っている。
建物の陰ですぐに見えなくなるものの、廉太郎くんの口上が時々聞こえてくる。
本当に大丈夫なのかな、と思って見ていたら、最終的に、アッ--!って悲鳴が耳に入って来た。
……まさか、新しい扉開かれてないよね。
大丈夫だよね、さっちゃんだって普通の小学生だもんね?
動揺しながら見ていると、ご機嫌になったさっちゃんと、魂が抜けた感じになってしまった廉太郎くんと有真さん、そして、憎々しげにさっちゃんを睨みつけるも何も言わない有香ちゃんが戻ってきた。
なんて異様!!
ちょっとしたホラーを見ている気持ちだ。
これは、触れない方が良いだろう。
私は、またしてもそっと目を逸らした。
「なぁ、瑞穂。あれ…」
「聞かなければどうという事もない」
「お前はどこの彗星だ!」
そして、大人しくなった轟三人組は無視して、私達は遊び始めた。
え、むごい?
そんな事ないよ。
寧ろ、帰るまで心穏やかに遊べて、感謝してるくらいだよ。
心穏やかって言っても、まぁ皆まとまりないし、自由に動き回るし、ちょいちょい逆ナンされたりするし、最早悟ったって感じだったけどね。
まぁ、文句はない。
リフレッシュ出来たし。
あとは、帰りに…。
「……今日はありがとう。楽しかった」
「い、委員長!!」
本日一日、殆どしゃべらなかった委員長が、嬉しそうに笑ってくれた。
その事があれば、私、これからも生きていける!
決して、また余計なフラグが立ったのなんて知らない!
断じて気付いてない!
「あ、あの、介抱して頂いて有難うございました、十村様」
「いいえ。困った時はお互い様ですから。それでは、失礼します」
「早く来い、有真」
「……十村様、なんてお美しいんだ……」
「おい、有真!歯をくいしばれぇぇ!!!」
「ふぐえぇぇっ!!!」
「…バカ兄」
あれ、麻子ちゃんってヒロインだっけ?ヒロインだったな。
有真さんとか、同い年じゃん。
何と言う三角関係。
いや、いやいやいや、面倒な事になりそうだから気付いてない。
私は知らんぞ。
「ねー、瑞穂。アレとまた会えたりする?」
「さっちゃん……何、本気で気に入ったの?」
「うん。イジリがいある」
ここにも変なフラグが立ってるとか、そんなの見えない。
見えないんだから、知り様もないですよね。そうですよね。
あ、いや、こっちは別にどうでも良いのかな?
……頑張れ、廉太郎くん!!
「ねぇ、ミズホちゃん!手、つないで帰ろ?」
「勿論だよ、ちーちゃん!!」
「あ、ボクも…」
「いやいや。反対側は俺で予約済みだから」
「ええ!?ズルイよ、晴臣さん!!」
「まぁ?若になら譲ってあげても良いですけどね?」
「はぁ?何で俺だよ。普通に悠馬に譲ってやれよ」
「ライバルに上も下もないんで」
「???」
「ずるいーっ!」
「……本当に大人げないぞ、晴臣…」
そんなこんなで、プールの騒動に幕が下りた。
これが、後々何かに影響しませんように。
祈るばかりである。
「うおお、楽しいけど何か色々予想するの面倒臭いー!」
「お前どうせ全力で楽しむだけだろ!?予想するの、基本俺だからな!?」
「ふふふのふ。私達は、一心同体だから」
「誤魔化されないぞ、俺は!」
上手くまとまり切らず、いつもより更新が遅くなりました。
本当は、もっとたくさん要素を詰め込みたかったプール回です。