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05.此処は漫画の世界

「それで、この世界ってなんて漫画なの?」


 (ほむら)と仲直り?した私は、早速ずっと聞きたかった事を口にする。

 すると、(ほむら)は怪訝そうな顔をする。

 それから、少し考えるように首を傾げると、やがてジトッと私を見た。


「お前、マジで知らなかったのか?」

「だから言ったでしょ?「未来に何が起こるかなんて分からない」って」

「いちいち分かりにくいんだよ!くっそ、無駄に疑っちまったじゃねーか…」


 まぁ、(ほむら)がそんな子だと分かった上で、それっぽい言葉を選んで、神経を逆撫でして来た私にも原因はあるんだけどね。

 私は、狡い大人だから言わないのだ。


「で、なんて漫画?」

「思った以上に興味深々だな、お前。今まで相当猫被ってたんだな」

(ほむら)も警戒してたろうけど、私もしてたんだよ。で、なんて漫画?」

「しつけーな、今言うよ!」


 こうやって腹を割って話してみると、何とまぁテンポの良い会話。

 そうそう、私が友達に求めてたのはこういう会話だよ!

 (ほむら)の血管が心配になる?

 大丈夫大丈夫。

 主人公は死なない法則があるから。


「主人公は、(ほむら)なんだよね?」

「一応な」


 よし、大丈夫だ。

 主人公は死なない!

 ファンタジー設定だと分からないけど。

 少なくとも此処は現代日本だから大丈夫だ。

 あっ、それとも実は高校になったら異能力に目覚めてとか、ゾンビと遭遇して…とかだったら第一話で死ぬ可能性があるかも。

 盲点だった!その場合は距離を取ろう。


「お前、何か失礼な事考えてないか?」

「えっ、何の事?」

「……」


 意外と勘が鋭いぞ、(ほむら)

 素晴らしい!こんなに楽しい会話はいつぶりだろう。

 うーん……前世を含めても相当ぶりな気がする。

 あっ、ちょっと泣きたくなって来た。


「で、タイトルだけど…………だ」

「え?声小さくて聞こえないよ?」


「だから……『ハーレム×ハーレム』だ!」

「うわ、ダサッ!!」


 それは言い辛い!

 ごめんよ、無理に聞いて。

 まぁ、口に出しては謝らないけど。


「そのタイトルからすると、ラブコメ?」

「ああ。週刊の少年誌で連載してた」

「えっ、そんなダサいタイトルで?」

「お前随分とディスるな!結構人気だったんだぞ」


 漫画って相当有名になった奴をコミックスで読む派だったから、全然知らない。

 しかも、どちらかと言うと少女漫画派だったし、巻数が多くなりがちな少年誌には、なるべく手を付けない様にしていた事もある。

 それで、全然知らない世界だと思った訳か。なるほど。


「舞台は中学?それとも高校?」

「高校に入ってから。ただ、過去編って言うか、思い出みたいな感じで、少し過去についても扱ってたから、一応その辺りもなぞろうって思ってたんだ」

「ふむふむ」


 ちとせちゃんを助けるイベントとかか。

 とすると、ちとせちゃんがメインヒロイン!

 道理で圧倒的ヒロイン力を感じると思った!


「ちとせちゃんがヒロインって事だよね?」

「ああ。メインヒロイン5人の中の、ツンデレ幼馴染枠」

「なんと!美味しいポジションですな」

「一番とか二番人気だった」

「流石」


 あんなに涙目で私の後ろに隠れてた女の子が、将来はツンデレか。

 何それ。ギャップ萌えだけでご飯食べれそう。

 あっ、やっぱパンが良い。ご飯は無理だわ。


「つまり、(ほむら)はあんないたいけな幼女に敢えてトラウマを植え付け、後から颯爽と助ける事によって、恋心を芽生えさせようと計画していた訳ですね。ゲスいな」

「う、うるさいな!俺だって必死だったんだよ!!」


 良く聞いてみると、(ほむら)も悩んでいたらしい。

 自分の勝手な理屈に、何も知らない女の子を巻き込んで良いのかと。

 実際に、イジメられている現場を見たら上手く動けなくて、悩んでいる内に私がアッサリ…ではなかったけど、解決してしまって、テンパった結果、あんな意味の分からないキレ方をしてしまったらしい。

 これが所謂、黒歴史だな。

 あと十年もしたらこのネタでからかってやろう。

 ……その頃には忘れてるか、私が。


「完結してる作品なの?」

「ああ。二十巻弱って所だったかな。高校1年生から3年生まで描いてた」

「もしや、ちとせちゃん落ち?」

「そうそう。他のキャラのファンからのクレームが凄かったらしいぞ」

「それはラブコメでは良くあるんじゃない?だからってハーレムエンドもどうかと思うけど」

「……お前やっぱ性格悪くねぇ!?」

「褒め言葉ですね!ありがとうございます!」

「ちっげぇよ!」


 いちいち反応してくれる(ほむら)が、とても可愛いです。

 うん、仲直り?出来て良かったー!

 上手く転がってくれるか微妙な所だったけど、神様のお陰かな。

 そう言う事にしておいて、感謝しよう。

 サンキュー、神!

 今は、チート能力より何より、仲間が出来た事が嬉しいよ!


「てか、タイトルの割りに、ハーレムエンドじゃないのか」

「ハーレム、ハーレムしつけぇぞ!」

「いや、素朴な疑問だよ」

「んー…俺も知らねぇけど。多分、恋人見つけるまでは実際ハーレムだし、その事を言ってるんじゃないか?」

「あー、なる程ね」


 テキトーに付けたのかな。

 意外と人気作のタイトルって、ノリと勢いで付けてたりするって言うし。

 そのまんまじゃん!ってタイトルもあるしね。

 いや、でもダサくない?もっとあったよね、何か。

 愛のペンダゴンとか。

 ……今の無し!今の無し!!

 やばい、自ら黒歴史を公開してしまう所だった!

 口にしなくて良かったー。


「?微妙な顔してどうした」

「べ、別にー?それより、あらすじってどんな感じ?」

「ああ。えっと…」


 (ほむら)が語ってくれた事には、つまり以下のようなストーリーだった。


 主人公の赤河(あこう)(ほむら)は、高校生になると、父親から、自分には複数人の婚約者がいる事を伝えられる。

 全員同じ高校に通わせるから、在学中に必ず一人を妻として選ぶようにと言い渡された彼は、そんなの勝手すぎると猛反発。

 しかし、超お金持ちである父親には逆らえず、渋々高校へ行く(ほむら)

 そして5人の婚約者と日々を過ごし、絆を紡ぎ、やがて彼は一人の少女に心惹かれて行く。

 幾多の困難の中、ついに(ほむら)は少女への想いを自覚する。

 やがて高校最後の文化祭、彼は思い切って彼女へ告白。

 無事結ばれ、幸せに暮らすのだった。完。


「……」

「……」

「何で婚約者複数人いるの!?旦那様!?ちょ、マジで言ってる!?」

「マジだよ」


 (ほむら)は、げんなりとした表情で頷く。

 色々ネジ飛んじゃってる旦那様は、読者の間でも微妙な人気を誇っていたとか。

 それで、顔を覚えていた(ほむら)は、生まれた直後に彼の顔を見て、仰天したらしい。

 私は(ほむら)が生まれた日を思い出して、激しく納得する。

 そう言や(ほむら)、めっちゃ悲鳴上げてたもんね。


「何か、そうせざるを得ない理由とかの説明あった?」

「ない。ってか、あんま赤河(あこう)家に関する説明ないんだよな、この漫画」

「へぇ…何で売れたの?」

「俺に聞くなよ!」

「好きで読んでたんじゃないの?」

「俺は、別の漫画読むついでに読んでただけだよ」

「それでセリフまで覚えるもん?」

「俺にとってはそれが普通だったんだよ」


 あれ、(ほむら)って、意外と頭良い子なの?

 私、流し読みしてた漫画どころか、好きで読んでたのさえ、もうセリフ思い出せないんだけど…。

 有名どころはともかくとして、過去編とも言える幼稚園での一部始終を覚えてるのって、あり得るのか?凄くない?

 よし、ひっそり内心で尊敬しておこう。


「まぁ、あの伯父さんならアリな気がするけどね」

「名前からして中二病だしな」

「全力で同意」


 赤河(あこう)緋王(ひおう)


 親戚でも無ければ、絶対関わりたくない名前だ。

 まぁ、イケメンなんだけどね。金持ちだし。

 だけど、思い立ったら吉日が座右の銘だと言わんばかりのフットワークと、思いつきを実現させられるだけの金と力を持った人程、面倒臭いものだと言わざるを得ない。

 普通に仕事で忙しい人だから、今はそれ程被害は受けていないけど、学生時代とかは特に、そうだ北極へ行こう、って言って翌日には授業休んで北極に行くレベルでの自由さを発揮していたらしくて、主な被害者であるお父さんは、胃薬なくして伯父さんとは付き合えなかったと言う。

 今ではもうすっかり慣れたらしいけど、慣れてない私は、いつその自由さが牙を向いて来るかと気が気ではない。


 そんな人だから、ノリと勢いで、息子に多数の婚約者を設定した、と言われても何となく納得出来る気がするのだ。

 伯父さんに失礼?知らんな。


「あ、そうだ。これだけは聞いておきたいんだけど」

「何だ?」

(ほむら)さ、私の事「モブ」って言ってたじゃない?」

「あー……うん」


 はた、と思い立って尋ねてみる。

 (ほむら)は、苦虫をかみつぶしたような表情で軽く頷く。

 気にしてる所申し訳ないけど、絶対に聞かないといけない事がある。


「私、ハレハレに登場してるの?」


 私の質問に、(ほむら)は数度目を瞬く。

 それから、うーん、と軽く唸って、そして頷いた。


「一応な」

「どんぐらい?」

「モブの中では目立ってたけど、作品全体でセリフは一、二回くらいだよ」

「わぁ…ホントにモブだね」

「名前なんて登場してなかったし、元々青島(あおしま)瑞穂(みずほ)なんて名前のキャラも、(ほむら)の従姉なんてキャラもいなかったから気付かなかったけど、顔だけ見れば確かにいたよ」

「寧ろ、良く思い出せたね」

「つーか、思い出したから余計に混乱したんだけどな」


 それは当然だろう。

 モブだと思ってたキャラクターが、主人公と想像以上に近いポジションだった、なんて私だって初めて知ったら驚く。

 場合によっては、(ほむら)みたいに信じられなかったかもしれない。

 …なんて、過ぎた話だからそれは別にどうでも良いんだけど。


「って事は、私に与えられてる役割って無いんだよね?」

「ああ。呼び出し係を役割って言うならあるけど、大したシーンじゃなかったし」

「よし、決めた!なら、私は好き勝手に生きさせてもらおう!」

「は?」


 驚きから目を瞬く(ほむら)

 決意からグッと拳を握る私。


 主人公、ヒロイン、悪役。

 そんな感じの役割が与えられていたのなら、それに準じる予定だった。

 その方が面白そうだし。

 だけど、神が私に与え給うた役割は、「無職(モブ)」。

 お前は自由に生きなさい、と言う天啓に違いない。


「物語を気にするなんて、モブの立場じゃバカバカしいし、好きに生きる事にしたんだよ、(ほむら)!!」

「いや、お前既に好き勝手に生きてるだろ」

「褒めるなよ、照れるじゃないか!」

「褒めてねーよ!」


(ほむら)はどうする?」

「俺?」


 一拍置いて尋ねると、(ほむら)はまたしても目を瞬いた。

 (ほむら)がいちいち私の発言に驚くのにはもう慣れた。

 スルーして、自分の見解を述べる。


「一応、(ほむら)は主人公でしょ?レール通りに歩く道もあるよなーと思って」

「お前が俺のハーレム否定したんだろ」

「ハーレムを否定したんじゃないよ」

「どう言う意味だよ」


(ほむら)が、ハーレム自体に魅力感じてるなら、私も応援するよ?面白そうだし。

さっきは、一人になりたくないって理由でハーレムを所望してるみたいだったからそれは違うんじゃないの?って言っただけだよ」

「同じじゃないのか?それって」

「私の中では違うから違うのー」

「意味分かんねぇ」


 (ほむら)は軽く鼻で笑う。

 私はそれを見て、内心で胸を撫で下ろした。

 もう、(ほむら)の目に、涙は影も形もなかった。


「良く考えてみりゃ、ハーレムに固執する必要もないんだよな」

「そうだねぇ」

「俺も、気侭に生きてみる事にするよ」

「それが良いと思うよ!」


 パチパチと手を叩くと、(ほむら)がハッとして顔を赤くした。

 え、今の何処に赤くなる要素が?

 なんて思っていたら、予想外のツンデレを頂いた。


「い、言っとくけど、別にお前に感化された訳じゃないんだからな!」

「え?ああ、そうだね。ぷくく」

「ああ!お前、今笑ったな!?だから違うぞ!勘違いすんなよ!?」

「うん、してない」

「微笑ましい物を見るような目で俺を見るんじゃねー!!」


 いやはや、何ともこれからの人生が楽しみだ。

 ツンデレ坊っちゃん(ほむら)と、その従姉の私。

 まだまだ、第二の人生はこれからだ。


「あ、ところで(ほむら)

「な、何だよ」


「前世の年って幾つ?」


「年?……確か十四だったと思うけど」

「ガッデム!」

「は?突然どうした」

「ふっ…今は同い年だから関係ないもんねー」

「……もしかして、瑞穂(みずほ)って結構おばさ」


「おばさん言うなー!!」

「いってぇ!!」


瑞穂さんの前世は、二十代後半でした。

おばさんじゃないよ!

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