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二軍恋愛-知らない漫画のモブに転生したようです-  作者: 獅象羊
第一章「小学生編」(三年生)
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53.美術部と誘い

 今日は元気に部活動だ。

 今日は、と言うか、出来る限り毎回部活には出るようにしてるから、言葉から受ける印象より、もっと来てるけどね。

 私だって、普通の小学生生活を送りたいのだ。

 そんな、毎日のように拷問メニューに浸っていたくはない。


「ふんふふーん」

青島(あおしま)くん。何を描いて…うっ」

「あっ、先生!どうです?このピカソもビックリの芸術作品は!!」


 いつもは、美術室に置いてある胸像とか、そう言うのを使ってデッサンとかをしているけど、今日は珍しく、自由に描いて良い、と言う事になっている。

 外に出て風景画を描いている子達が多い中、私は美術室に残って、筆の向くまま気の向くまま、画用紙に抽象画を描いていた。


 それを覗き込んで来たのは、顧問の先生。

 結構ご年配に見えるけど、意外と若いらしい、穏やかな表情の男の先生だ。

 褒めて伸ばすスタイルが生徒から大人気で、先生の人望によって美術部を選んだと言う生徒も多いらしい。

 素晴らしい人心掌握術。私も学びたい。


 そんな先生は、私の画用紙を見た瞬間、笑顔でフリーズした。

 先生は、私の描く絵を見ると、度々こんな状態になる。

 一体何がいけないんだろうか。

 頬の筋肉なんて痙攣してるし。


「どうしたんですか、先生?」

「い、いや」


 先生は、誤魔化すように軽く咳払いする。

 それから、ニッコリと優しげな笑みを浮かべた。


「確かにこれを見たらピカソも驚くだろうね。その…青島(あおしま)くん独特のセンスだ。決して誰も真似する事は出来ないだろうね」

「ですよね!ありがとうございますっ」

「あ、ああ。うん」


 そんなに感銘を受けたのか。

 イヤだわ、世界でオンリーワンだなんて。

 そこまで褒められたら、やるっきゃない。

 私、美術部も、片手間じゃなくて頑張るよ!!


「あっ!」

「ん?どうしました、先生?」


 何故か、ふと先生が名案を思いついた、みたいな風に顔を輝かせ出す。

 今日の先生、ちょっと情緒不安定じゃない?

 不思議に思っていたら、先生はさっきまでより嬉しそうに、時計を指した。


青島(あおしま)くん。もう、習い事に行く時間じゃないか?」

「あれ?……本当だ」


 つられて時計を見れば、確かにもう「刀柳館(とうりゅうかん)」に行く時間だ。

 何しろ一応、あそこでの拷問は、私にとっての最優先事項だ。

 部活を優先したくても、やっぱりそれは出来ない。


 その為に私が考えたのは、部活と拷問が被っている場合、少しでも部活に出て、あっちは休まない、と言う事。

 その分厳しくなってる気が、間違いなくしてるけど、仕方ない。

 私は、普通の小学生生活を送りたいのだ。

 例えそれが、少しの時間であっても。


 それで、今日はその二つが被ってる日。

 私は深く溜息をつく。

 サボる気はないけど、出来る事なら、もう少し絵を描いていたかった。


「先生。せめてもう少しだけでもいちゃ駄目ですか?」

「駄目だ。青島(あおしま)くんは、やるべき事の順序を間違えたりする子じゃないよな?」

「うぅ…はい」


 ここで「いいえ」などと言う答えはあり得ない。

 私は、ちょっと特殊な青島(あおしま)家の娘だ。

 常識的ではなくても、青島(あおしま)家的な常識にあてはめて言えば、拷問を優先させる事は常識的なのだ。

 ああ、最悪。


 私は、あからさまに溜息をつきながら、画材を片付けて行く。

 与えられているロッカーに全てを詰め終えると、最後に残った、描きかけの絵を先生に託した。


「先生」

「ん?なんだ、青島(あおしま)くん」

「この子の事、上手い所に保管しておいてあげてください!お願いしますね!」

「え、あ、ああ。分かった」

「それでは、不肖青島(あおしま)瑞穂(みずほ)!行って参ります!!」


 ランドセルを背負った私は、そのまま美術室を飛び出す。

 ダラダラ向かいたい所ではあるけど、行くとなったら時間を無駄にしたくない。

 こうなれば、真面目に取り組む事にしよう。


 よっしゃ、今日も死んできますか!


「…あれだけ才能に溢れた子が……どうして芸術の才能だけないんだか…」


 ん?何か悪口が聞こえた様な…。

 ……(ほむら)かな!



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「あれ…?」


 校舎の外へ向かおうとしている途中、中庭で一人、読書にふける委員長の姿を見つけてしまう。

 妙だ。

 今は部活動の時間であって、読書の時間じゃない。

 そもそも委員長は、文芸部に入るって言ってたはずじゃなかっただろうか。


 ……駄目だ。


 気になった事を無視して行けない。

 大丈夫、分かってる。

 私においての優先順位は、常に皆の笑顔、だ。

 だってそれが、私の幸せに繋がるんだから。


 そうと決まれば、実行あるのみ。

 出来る限りスムーズに。

 可能な限りウザくないように。


 私は、そう意識しながら、委員長の方へと駆け寄った。


「委員長!こんな所でどうしたの?」

「……読書」

「いや、それは見れば分かるけどさ…」


 普通に解釈すれば、迷惑だから話しかけんな、と暗に言っているようなセリフ。

 でも、委員長の雰囲気からして、そう言う訳でもなさそうだ。

 いつも通り氷みたいにクールなだけなんだけども。

 私は、少しだけ考えて、言葉を続けた。


「部活はどうしたの?」

「……入ってない」

「え?」

「……」

「入ってない??文芸部は?」

「……入ってない」

「えぇ?」


 どうしてだろうか。

 少なくとも、文芸部に入る気はあったようだと思ったけど。

 それとも、それは春時点までで、今はそうでもない?

 いやいや、おかしいでしょ。

 寧ろ、入部する部活を決める段階で興味あったものに入らないとか。


「揉めてやめたとか?」

「……やめてない」

「えぇ?じゃあどうして?」

「……そもそも、入ってない」

「ケンカでもした?」

「……してない」


 駄目だ、分からん。

 委員長、無口過ぎやしないかい?

 他の人…文芸部の人に話を聞けば分かるだろうけど…。

 もし何か物凄い理由があって、私が話を聞きに行ったせいでこじれるのも嫌だ。

 ここは、目の前の委員長から聞き出すしかない。


 ま、これも一つのコミュニケーションってヤツだしね。

 友情構築には、必要な作業だ。


「良かったら、理由聞かせてくれない?」

「……何で」

「何でって?」

「……青島(あおしま)には関係ない」


 委員長は、本に目を向けたままクールに返して来る。

 今までより少し長く話してくれてるけど…答える気はないのかな。

 言葉を返してくれてはいるし、話しかけてる事自体を迷惑がってる訳ではなさそうだけど…。


「関係あるよ」

「……どこに?」

「だって、友達でしょ?」

「……」


 ピクリ、と委員長が反応を見せる。

 ゆっくりと、本から視線が上がり、目が合う。

 スッと細められた目は冷たく、怒っているようにも見える。

 あれだ。

 表現するのであれば、ブリザード的な。


 え、今ので怒る要素なくない?

 間違えたか?

 踏み込み過ぎた…感じもないし。

 次の手を悩んでいると、委員長の方が先に口を開いた。


「……この間のあれ、本気だったのか?」

「あれって?友達になろうってヤツ?」

「そう」

「だって、好きにしろって言われたからさ」


 そこで更に、委員長が大きな反応を見せた。

 眉間のしわが、いつもより深くなったのだ。

 ちょいちょい、可愛い顔が台無しになっちゃうよ!


「……物好き」

「そうかな?普通じゃない?」

「……普通じゃない」


 そりゃそうか。

 私だって、意識的にやってるから、普通じゃないだろう。

 だけど、それは認められないな。

 だってそれだと、私が異常みたいだもん。

 違うよ!物好きじゃないよ。


 委員長は、少しだけ考える素振りをして、再び本に視線を落とす。

 これ以上の会話は拒否って所だろうか。

 なら、流石に良い時間だし、引き上げようかな。

 そう思っていたら、本に視線を向けたまま、委員長が口を開いた。


「……文芸部には、入ってない。入れなかった」

「え?」


 どうやら、理由を説明してくれる気になったらしい。

 めちゃくちゃ分かりにくいけど、どうやら嫌われた訳ではなさそうだ。

 一安心である。


「俺に、怯えて泣き出した子がいたから。入るのやめた」

「うわ…」


 思わず絶句した。

 確かに、委員長は顔が怖い。

 いや、顔は可愛いんだけど…目つきが怖い。

 意思が強いのかもしれない。

 強過ぎる眼光は、小学生には少々厳しい。


 委員長を苦手に思う子は、クラスの中でも多い。

 と言うか、殆どの子が苦手に思ってるかもしれない。

 だからと言って、泣き出す子なんて見た事なかった。


 もしかすると、文芸部って、ナイーブな部員が多いんだろうか。

 前世の高校での文芸部を想像しちゃ駄目なんだな、きっと。

 あの頃のメンバーだったら、オタクばっかだったし、こんなドS王子みたいな子の入部を、断るはずがない。


「それは…災難だったね」

「……別に。慣れてる」


 嫌な慣れもあったもんだ。

 私なら泣いちゃう。


 …でも、そう言う理由なら、その泣いた子に気を遣って、委員長は文芸部に入らなかった、と言う事なのかもしれない。

 やっぱり、見た目に反して優しい子だ。

 私の目に狂いはなかったようだ。


「他の部活は?」

「……どうせ、同じだし」


 泣かれるくらいなら入らない、と。

 つまり、部活に入りたくないのではなくて、入りたくても入れない、と言う事になる。

 それはあんまりじゃないか。


 私は、グッと委員長の肩に軽く手を乗せた。

 委員長は、驚きもせずに、ゆっくり私を見る。

 そして私は、意を決して誘いをかけた。


「なら、今からでも良いから、一緒に美術部入らない!?」

「……何で」

「寂しいでしょ?」

「……別に」

「えぇー。一緒にやろうよー。私なら泣かないし。友達でしょ?」

「……」


 また、冷たい視線が突き刺さってくる。

 えぇー、これでも怒らせちゃった?

 委員長の琴線が何処にあるか良く分からないな。

 うぅー難しい。


「あっ、その別の友達の所に一緒に入る予定とかある?」

「ない」

「即答かい。…ま、良いや。委員長は、美術部は嫌?」

「別に…」


 委員長は、本を閉じてランドセルへしまうと、それを背負って立ち上がる。

 そのまま歩き出して、帰っちゃうのかなー?と思って見ていると、また友達になる事を許してくれた日みたいに、ポツリと呟いた。


「……考えとく」

「そっか!よろしくね!」

「……」


 委員長はコクリと頷くと、さっさと校門の方へ歩いて行ってしまう。

 マイペースな子だ。

 まだまだ距離を感じるけど、それも良いね!

 もっと仲良くなれるように頑張ろう。


「って、あっ!道場!!」


 やべぇ、忘れてた!!

 早く行かないと殺される!


 私は、委員長との会話によって忘れていた重大な任務を思い出して駆け出す。

 いかんいかん。

 順序を間違えないにしても、二番目を忘れるとか馬鹿過ぎでしょ。


 そして私は、急いで校門に向かいながら、その途中にあるテニス場で、先輩同級生問わずの女子から、キャーキャー言われてる(ほむら)を発見すると同時に、冷やかしを投げかけ、それから「刀柳館(とうりゅうかん)」へ走るのだった。


「キャー!赤河(あこう)くん、カッコ良いー!」

「こっち見てー!」

「おい、うるせーぞ女子!ちゃんと練習しろよー!」

「男子カッコ悪いー。でも、(ほむら)くんはカッコ良いー!」

「可愛いー!」


「やっぱ、テニス部やめとくんだったかな…」

「ヒューヒュー!(ほむら)、超イッケメーン!モッテメーン!リア充ー!」

「おい、そこの通りすがりの馬鹿瑞穂(みずほ)!うるせーぞ!!」


「あはは。(ほむら)って、ホント青島(あおしま)と仲いいよなー」

「良くない!!」


瑞穂さんの絵の才能は皆無です。

ただ、料理や裁縫などは平気です。

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