48.委員長と副委員長
心機一転だけじゃなく、文字通り環境も変わった初日。
私は気合いを入れて集会に臨んでいた。
やっぱアレですよね。
誰も聞かない校長先生の話を聞くとか格好良い。
マジでリスペクト。
と言う訳で、長々しい校長の話すら、私は真剣に聞いていた。
最近買ったセラミック包丁と、昔ながらの包丁の違いとかけて云々、みたいな話をしていた。
下手なリラクゼーションを受けるより、よっぽど眠くなるって何故でしょう。
いや、だが私は今日から新生瑞穂になるのだ。
この程度の眠気には負けんぞぉ。
そんなこんなで、私は一睡もする事なく、きちんと話を聞き切った。
鋼の如く、全く違う人と組み合わさる事で力強さがーって、ちょっとだけタメになったような気がしなくもない。
使いどころに悩むけど。
そして、安全安心、マイクラスへと舞い戻る。
マイクラスだけに。
あっ、つまらないですか、そうですか。
着席すると、担任の先生がこれからについての話を始める。
って言っても、こう言う話は毎年大して変わらない。
行事については、回って来るプリントを見れば良いし。
そう思うと、段々眠くなって来る。
やっぱり、さっきまで校長の話で頑張りすぎたかもしれない。
あっちで寝ておくんだった。
前世はなー。
眠くなる事なんて無かったのに。
身体が子供だからだろうか。
楽しい時はともかく、つまらない時は果てしなく眠くなる。
しかも、いつまでも寝れる。
ああ、若いって良いな!
いや、今に関してだけ言うと全然良くないんだけど。
先生の話聞かなきゃなんだけど。
「はいっ!瑞穂さんがいいと思います!」
「ボクもー」
「わたしもー」
どうしたら起きてられるかな。
何か今、私の名前が呼ばれる幻聴まで聞こえて来たし。
さては相当眠いんだな、私。
「そうね、青島さんは責任感も強いし、リーダーシップもあるものね」
「……俺は、誰とでも良い、です」
羊を数えると眠れるって言うけど、私逆に目が覚めて来るんだよね。
なら、普通に羊でも数えてみようかな。
この羊って、英語で眠るの意味のスリープと、羊の意味のシープが、何か似てるよねってだけの理由で言われてる話らしいんだけど、なかなか面白い。
何で語感が似てるってだけで、それを数えたら寝れるって話になったんだろう。
「青島さんはどうかしら?」
「……ひつじ」
「青島さん?」
「へっ?」
ハッと我に返ると、何かクラス中の視線が私に集中している。
あれっ、私知らない間にそんなカリスマ性を発揮してた?
いやだな、照れちゃう。
「青島さん、ボーッとしてどうしたの?大丈夫?」
「あ、はい!すみませんでした」
「元気なら良いんだけど…」
ボケてる場合ではなかったようだ。
何で先生に声かけられてるの、私。
まだ初日だし、問題解かせようってワケじゃないよね?
別にまだ小三だし、急に言われても問題無いけどさ。
「それじゃあ、もう一度聞くけど、青島さんはそれで良いかしら?」
何の話だ。
急に言われても困っちゃう。
…まぁ、話を聞いて無かった私が全面的に悪いんですけどね。
どうしよう。
羊がどうのとか考えてる場合じゃなかった。
重要な話だったら困ったぞ。真面目に。
でも、こんな所で将来に関わる重要な話をするとも思えない。
何かを確認されてるんだから、適当に頷いておこう。
「えっと、良いと思います!」
「本当に?良かった!もっと手間取るかと思ったんだけど、無事に決まったわね」
「??」
先生は機嫌良く手を叩く。
そして、サラサラと黒板に何かを書いていく。
それを見て、私は固まった。
「副委員長…青島瑞穂……」
「それじゃあ、委員長さん、副委員長さん。他の委員会決めはよろしくね」
オーマイブッダ!
三年生から委員会とかあるんかい!
完全に頭から抜けていた。
副委員長とかマジめんどくさい!!
どうせクラス全員、自分以外なら誰でも良いとか思ってるんだろ!?
畜生め!ボーッとするんじゃなかった!!
ああ、前世と同じ轍を踏んでしまった。
かつて私は、人付き合いが面倒と言う理由で、我関せずを貫いていた。
その結果が、数年連続で委員長…。
もうあの悪夢は繰り返すまい。
そう、思っていたのに…ガクッ。
……なんて。
まぁ、決まってしまったものは仕方がない。
うっかりしてたとは言え、やると言ったのは私だ。
これを覆すのは、私の美学に反する。
もしかしたら、意外とやってみたら面白いかもしれないし。
最初からつまらないと決めつけて避けるのも良くない。
「えっと、よろしくね。委員長」
「……」
委員長は、何も言わずにコクリと頷く。
私はもう一度黒板を見る。
委員長の欄には、「柊陽介」と書かれている。
これまた、漫画の主人公みたいな名前だ。私主観だけど。
陽介君。即ち委員長は、無表情な少年だった。
整った容姿で、どちらかと言えば可愛らしいタイプなんだけど、その鋭過ぎる眼光が、全ての印象を塗り替えている。
つり上がった目元に、負けず劣らずの冷たい目。
ひと言で言えば、ドSキャラとか、俺様キャラとか、そんな外見だ。
あっ、全然ひと言じゃないね、ごめん。
生真面目そうな感じもするし、きっと委員長は自ら立候補したんだろう。
そう思って尋ねると、彼は首を横に振った。
「眼鏡」
「え?」
「眼鏡かけてるから推薦された」
「うわっ、何て馬鹿な理由」
…それで断らなかったと言う事は、見た目に反して相当良い子みたいだ。
案外、こんな冷たそうな外見を裏切って、ボーッとした子なのかもしれない。
そう考えてみると、親しみを感じた。
よし、上手くやっていけそうな気がするぞ!
「さてさてー。この私を推薦してくれちゃった人は、積極的に面倒臭そうな委員会に回して行くからそのつもりでねー」
「えぇー!?」
「ふざけんな青島ー!」
「人に責任押し付けたツケが返って来ないと思うなよ!副委員長サマの命令だ!」
「おーぼーだ!」
「言葉の意味を学んでから帰って来い!」
反発を強めるクラスメート。
悪い笑みを浮かべる私。
さながら民衆と愚王だ。
……あっ、それだと私やられちゃう。
パンがないならお菓子を食べれば良いのに!
「って、自然に私が仕切っちゃってたね。ごめん、委員長。委員長がやる?」
「…任せる」
「了解!聞いたかお前らー!今から私がルールだ!!」
「えぇー!?」
我関せずに本を開き始めた委員長。
うーん、騒がしいの嫌いなのかな?
まぁ、とりあえず任されたし、仕事しますか。
私の傍若無人な采配に、先生はオロオロしてたけど、この私が、本気で反発を生ませるはずもなく、割とスムーズに委員会は決定した。
どうだ、素晴らしかろう。
先生、内申良くしても良いのよ?
ん?小学校にはなかったっけ?うーん、知らんな!
とりあえずこんな感じで、クラスは上手くいきそうだ。
良かったね!!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「…良かったな」
「え、何でそんなテンション低いのー?」
家に帰って初日の事を報告し合う。
けど、何故か焔のテンションが異常に低かった。
流石の双子も、心配そうに焔を見ている。
「いや…俺もさ、委員長にさせられたんだけど」
「マジ?仲間じゃん。…そんなに委員長イヤって事?」
「違くて…副委員長がさ、キャラ濃いって言うか、毒舌って言うか……はぁ」
やっぱり焔って、実は女の子苦手じゃない?
何故ハーレムを作ろうと思ったんだお前は。
そんな調子じゃ、ハーレムどころか恋人も怪しいぞ。
…ん?いや、焔モテてるし、恋人は作れるか。
「若、それはきっとツンデレですよ」
「適当な事言うなよ、晴臣」
「何か嫌われる心当たりはございますか?」
「ない」
焔は、別に初対面から嫌われるようなタイプではない。
良く言えば人当たりが良い。
悪く言えばキャラが薄い。
顔は目立つんだけど、喋ると一般人だ。
庶民派の金持ちは好かれるよ、良かったね焔。
「…少なくとも今、お前に何か馬鹿にされてるのは分かる」
「えぇ!?馬鹿にはしてないよ!可愛いなって思ってただけだよ!」
「普通に馬鹿にしてるだろ!!」
以心伝心レベルが上がっているようだ。
結構な事なんだけど、どうして私には伝わって来ないのか。
この思い、一方通行。
私ったらなんてポエマー。
「毒舌って言うと、何て言われたんです?」
「昨年のプールで出会ったあの市村の妹みたいな雰囲気でしょうか?」
市村の妹と言えば、金持ち巨大病院、轟医院の子息、廉太郎君の付き人をしている市村兄妹の妹、市村有香ちゃんの事だ。
彼女の場合、毒舌と言うより、手段を選ばないと言うか、主人を全然敬ってないのが態度に出てると言うか、なんだけどね。
身近な毒舌と言えば彼女になる。
……いやいや、双子も十分ちょいちょい毒舌家だけどさ。
本人達にそれは言えないよ。
何倍かになって返ってくるもん。
触らぬ双子にたたりなし、だ。
「あんまりクラスメートに馬鹿とか愚かとか言うから、止めに入ったんだ」
「おお、委員長の鑑。エライ!」
「いや、普通だろ。…まぁ、それで返ってきたのがさ……やっぱ無理」
とんでもない暴言を吐かれた様だ。
焔の顔色が真っ青な事から、簡単に推測出来る。
空気を読んだ臣君は、ポンと焔の肩に手を置く。
「一人にフラれたからって落ち込んだらダメですよ。世の中に女の子は、それこそ星の数ほど…」
「俺フラれたワケじゃないからな!?告ったワケでもないからな!?」
「告白する前にフラれ…」
「好きでもないから!!」
うんうん、大分顔色が良くなって来た。
怒りで真っ赤だけど、十分だ。
気分が落ち込むと、ロクな事にならないしね。
良くやったぞ、臣君。褒めてつかわそう。
「因みになんて子?」
「えーっと、木原。木原明佳」
「知ってる子じゃないんだよね?」
「うん、まぁな」
漫画のキャラでもないのに毒舌とか。
何そのナチュラル素材。怖いわ。
でも、考えてもみれば、うちの委員長も結構キャラ立ってるもんな。
双子だって同じだ。
もしかすると、私達の周囲には、漫画のキャラだけじゃなく、注意すべき人物がたくさんいるのかもしれない。
…そう考えるとちょっと怖いのでスル―だ!
「とりあえず、頑張って生き延びようぜ焔!」
「はぁ…気が重い」
「エイエイオー!」




