46.三年生に向けて
そろそろ、また春がやって来る。
冬はどうしたとか聞かないの!
細々とはあったけど、大きなイベントは何もなかったんだよ。
では、その細々としたイベントについて振り返ってみよう。
まずその一。
麻子ちゃんが、高校に合格しました。
夏ごろまでは、私達と遊ぶ事の方が多かったような気がする麻子ちゃんだけど、両親の期待に応える程までとは行かなくても、勉強を頑張りたい、と言ってしばらく公園に来ないで、勉強していた。
その結果が、受験合格!
いやぁ、見事でしたな。
しかも、この辺りで一番頭が良い高校に受かったらしい。
麻子ちゃん曰く、まだ将来を決める事は出来ないけど、少し教師に興味がある、と言う事だった。
全然そんな予兆はないんだけど、これからヤンキー先生になるんだろうか。
グレるイベントなかったし、大丈夫だと思うんだけど…。
そんな麻子ちゃんも見てみたい、と思う私はヒドイだろうか。
とりあえず、まだちょいちょいマイナス思考な所はあるけど、麻子ちゃんは概ね元気だし、順調だ。
伯父さんに誑かされる心配もないし、オールオッケー!
それでは次に、その二。
お父さんから、使用人訓練を受けるように、との指示を頂きました。
これは、今までも何となく察する所があったけど、やっぱり私は、将来焔にお仕えする為に、色々と訓練を受けなければならないらしい。
一般的に言う、執事とか秘書とか、そう言う人達の仕事を一手に引き受けても全然平気、みたいな完璧超人を育成するプログラムに参加するのだ。
何それ怖い。
転生したからと言って、何かしらかのチートを貰った覚えもないのに、これからチート級になる訓練を受ける私。
…ちょっとワクワクする。
ファンタジー世界と違って、ここは現代日本。
バトル物でもないから、命の危険は、まぁ殆どない。
そんな中、あらゆる能力に長けた人になる訓練をするのは、リスクも少ないし、大歓迎だ。
焔が命の危険に晒された時には、身体を張る必要はあるだろうけど、いかに金持ちと言えど、早々命を張る機会なんて訪れないだろう。
その辺りは、気楽に考えておく。
つまり、命の危険無くして、無双が実現できる、と言う事に他ならない。
その代わり、血反吐を吐くレベルでヤバい訓練らしい。
ちょっと戦慄した。
だけど、私も青島の娘ですからね。
そりゃもー頑張りますぜ。
とは言え、そんな訓練は、三年生に上がってからだ。
まだ少しだけ猶予がある。
その時間は、のんびり能天気な子供ライフを送ろうではないか。
そう思って、このしばらくは生活していたりします。
…と、まぁ細々としたイベントはそんな所かな?
確認終わり!
それじゃあ、お菓子を持って焔の部屋に行こう。
来年度の注意事項も確認しておかないとね。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「瑞穂とー」
「焔のー」
「三年生対策会議ー!ワーッパフパフパフパフーッ!!」
「…やっぱ今年もやるんだな」
「あたぼーよ!」
お菓子を持って、焔の部屋に突入する。
突然の流れでもちゃんと付き合ってくれる焔、マジイケメン。
拝んでおこう。
「確認が必要なのは分かるからな。…って、何で拝んでんだ!?」
「痛いっ!焔の愛のツッコミが痛い!」
「はぁ!?愛なんて入ってないから!」
「大丈夫、分かってるよ。焔は実はツンデレじゃなくて、ボコデレなんだよね!」
「何もかも分かってねぇ!!」
ボコデレ。
即ち、照れ隠しで殴っちゃう!と言う可愛い属性。
まぁ、否定されたので、違うと言う事にしておこう。
まったく、素直じゃないんだから。
「で、来年度分のイベントを言えば良いんだよな?」
「うん。オナシャース!」
「えーっと、」
焔は、番茶を飲みながら思考を巡らせて行く。
それを見ながら、私も番茶を飲みつつお菓子をつつく。
この辺り、私は力になれないからね。
何しろ、ハレハレ見た事ないし。
あー、お茶美味ー。
「来年度は、子役の子と知り合うイベントだな。で、婚約」
しばらくして、まとめ終えたらしい焔がそう言った。
過去編、おざなり過ぎない?
毎年ヒロインと知り合うとか。やべぇ。
まぁ、そうは言いつつ、飽きないし、それはそれで良いんだけどね。
焔の様子からして、かぐちゃんみたいに、何て言うか、地雷な子ではないんだろう、と言う所からも、落ち着いて聞いてられるし。
「おお、新たなヒロインちゃんか。可愛い?」
「子役だしな。と言うか、お前も知ってると思うぞ」
「ああ、子役ならテレビに出てるよね」
子役と言う事は、そう言う事だろう。
ピンと来た私は手を軽く叩いて頷く。
でも、子役かー。
誰だろう?
「名前はー…」
そう言いかける焔を、私は反射的に止める。
「あっ、ちょっと待って!当てる!!」
「別に良いけど」
私も知ってるのなら、折角だし当てたい。
私は、腕を組んで唸り始める。
予想外に、面白いゲームが始まった。
「うーんとねー…」
私は、それからしばらく、思いつく限りの名前を上げた。
二時間のサスペンスドラマに出ていた男の子とか。
時代劇のヒロインの幼少期を演じていた女の子とか。
でも、妙に当たらない。
「えー、何で当たらないのー?」
「寧ろ、お前何でそんなマイナーどころばっか上げて来るんだよ?」
「いやいや、マイナーじゃないよ!王道だよ!」
「そう思ってんのお前だけだろ」
「ひでぇ!!」
焔がそう言うって事は、もっと有名な子か。
誰だろう。
言い訳じゃないけど、私は本当に有名っぽい子を上げてた。
それで当たらないとなると、もっと有名と言う事になる。
うええ…バラエティーとかに出てるのかな?
そうなると困る。
意外とバラエティー見ないんだよなー。
「ヒント!ヒント頂戴!」
「ヒント言ったら絶対当たるしなぁ」
「じゃあ分かりにくい所で、年齢とか」
「年か。俺らより年下」
「うわぁ、微妙なヒント!」
私は更に頭を悩ませる結果となってしまった。
うおお、焔ってば、実はドSか!?
私が頭を抱えてるの見てニヤニヤしてるし。腹立たしい!
「もっとヒントやろうか?」
「ぐぬぬ…そんなニヤニヤした奴から施しを受けるなどぉ…」
「でもこのままじゃ分からないだろ?」
「分かる!絶対分かる!と言うか当てる!!」
「じゃあ、せいぜい頑張れー」
最早棒読みである。畜生め。
お前なんて淹れたての番茶飲んで、舌を火傷でもすれば良いんだ。
そう思っておかわりを注いであげる。
「サンキュー。…ん、美味いな」
…ちぇっ、普通に飲んでる。
よし、気を取り直して考えよう。
伯父さんが気に入りそうな子かー。
「はっ!まさか、赤ちゃんモデル…」
「子役だっつってんだろ」
「ですよねー」
ガチで怒られた。
いや、でも今赤ん坊って事は、十歳差まではいかないんだから、将来的には別に問題ないんじゃないかな?
って言ったらもっと怒られるから黙ってよーっと。
「何か今の答えムカついたから、もう時間切れな」
「ええ!?そんな殺生な!!」
「反論は受け付けません」
「ぐおおおっ」
何と言う事だ。
全然答えが出ていないと言うのに!
床を軽く叩く私に、無情にも答えを振らせる焔。
「渋谷美鶴。聞いた事あるだろ?」
「あの、双子タレントの?」
「そうそう」
「えぇー、意外!」
流石に私でも知っている。
それどころか、最近双子とか臣君雅君と一緒だねー、なんて話をした。
お人形さんみたいに可愛らしい顔立ちと、性別が違うとは思えない位そっくりな二人は、お茶の間の人気者だ。
どうして思い出せなかったかと言えば、何と言うか、あの子は二人セット、と言う印象が強かったからだろう。
渋谷美鶴と言えば、兄の美生。
渋谷美生と言えば、妹の美鶴。
その位、彼らは常に一緒なのだ。
お陰様で思い出せなかった。うう、悔しい。
「で、因みにどんなイベントなの?」
「テレビ見てて美鶴を気に入った親父が、テレビ局見学。で、更に気に入ったせいで、婚約騒ぎになる」
「意味分かんねぇ」
流石漫画の伯父さん。
現実でも突拍子もないけど、漫画の方は余計に凄い。
現実は、一応焔に婚約者云々、とか騒ぎを起こしてない分マシだ。
「今回はどうする?何か私、どうせ避けられないような気がして来たんだけど」
「奇遇だな、俺もだ」
「焔としては避けたい?」
「どっちかって言うと、親父が他人に迷惑かけるのを避けたい」
「納得」
だとすると、テレビ局見学とか、迷惑この上ないし、それだけでも避けられるように行動するべきかな。
そうすると、どうせ街中とかで出会うんだろうけど。
もうそれはスル―だ。
寧ろ楽しんで行こう。
「焔はさ、何処で知り合うと思う?双子ちゃんと」
「んー…どうだろうな。学校が撮影現場になる、とか?」
「ありそうありそう!あっ、例えば、赤河グループのCMキャラクターに起用されるとかは?」
「それなら仕事だし、迷惑かけなくて済みそうだなぁ」
しばらく二人で、ああでもないこうでもない、と話をする。
結局結論としては、伯父さんが双子ちゃんに迷惑かけないように、出来る限り頑張ろう、と言う所か。
よーし、三年生も楽しんで行こう!!