45.みんなの思い※
※悠馬、千歳、焔視点+αです。
みーちゃんは、ぼくのだいじな友達。
小学校にはいって、キンチョーしてたぼくに、やさしく声をかけてくれた。
今日からとなりだねって。
友達になろうって。
ぼくは、あんまり人に話しかけるのトクイじゃなかった。
だから、とってもうれしかった。
みーちゃんには、たくさん友達がいた。
クラスの子たちとも、すぐに仲良くなってた。
ぼくは、そんなみーちゃんがじまんだった。
どこに行くのにも、いっしょだった。
それで、みーちゃんと行く所は、みんなとっても楽しかった。
ぼくは、みーちゃんといっしょに遊ぶのが、大好きだった。
でも、さいきんはちょっとちがう。
キライになったわけじゃないけど。
なんとなく、かゆい?気持ちになる時がある。
どうしてなのか、良く分かんないけど、いつからかは分かる。
これは、ぼくがある事件を起こした時からだ。
おかーさんが、大けがをして入院して、ぼくは、だいじょうぶだよ、って言われても、なんだか不安で、こわくて、気持ちわるかった。
毎日つらくて、はきそうで。
でも、それをみーちゃんに知られたくなかった。
みーちゃんはやさしいから、心配させちゃう。
それが、ぼくはとてもイヤだった。
なのに、みーちゃんにだいじょうぶだよ、って言うたびに、もっと具合がわるくなっていく気がした。
イヤだなって思った。
ぼくは、おとーさんにもおかーさんにも、みーちゃんにも、心配なんてかけたくないのに。
みーちゃんもホムラくんも、そんな顔したことないのに。
ぼくだけ、どうして弱いんだろう。
子供なんだろう。
そう思うと、もっと苦しくなった。
そうしてる内に、ぼくは、とうとうやってしまった。
おかーさんが、ぼくはオムツからのそつぎょーが早いってほめてくれたのに。
ぼくは、もうおにーさん、って言ってもらってたのに。
こんなかんたんなこともガマン出来なかったのかって、かなしくなった。
クラスのみんなが、ぼくを笑った。
当然だと思った。
だって、ぼくは子供みたいなことをしたんだ。
でも。
もし、みーちゃんに笑われたら、すごくイヤだ。
考えただけで、もっと具合がわるくなる。
だけど、みーちゃんはそんなことしなくて、ぼくを守ってくれた。
エラかったねって、ほめてくれた。
ぼくが泣いても、バカにしたりしなかった。
みーちゃんがあったかくて、ぼくはもっと泣いてしまった。
ぼくは、うれしかったんだ。
みーちゃんは、ずっとぼくの味方でいてくれるって思って。
だけど、この時から、よく分かんない感じがするようになったんだ。
みーちゃんは、ぼくよりずっと大人なんだって、保健室の先生が言った。
同じ年なのに?って聞いたら、先生はむずかしい顔をして笑った。
それで、ぼくの頭をなでながら、こう言った。
「お前にはまだ分からんか?」って。
何となくムッとした。
それで、気を付けてみーちゃんを見るようにした。
そしたら、先生の言ってるとおりだって分かった。
みーちゃんは、おかーさんみたいだ。
でも、それってわるいことなのかな?
ぼくは、そうは思えない。
なのに、みーちゃんが、おかーさんみたいなことを言うと、ぼくは、なんだかイヤな気持ちになる。
何だか、かゆいんだ。
ぼくは、みーちゃんに守ってもらった。
だから、今度はぼくの番。
そう思うのに、みーちゃんはぼくがいなくてもだいじょうぶ。
それも、わるいことじゃないのに、イヤな気持ちになる。
このあいだ、プールに行った時も、うんどーかいもそう。
みーちゃんは、大変って言わない。
思ってもないかもしれない。
だって、みーちゃんは大人だから。
チトセちゃんが言うんだ。
ぼくなんていなくても、みーちゃんはだいじょうぶだって。
ぼくも、そう思うよ。
だけど、助けたいし、守りたい。
それって、いけないことなのかな?
保健室の先生に聞いたら、先生は笑った。
「やっぱ、青島よりお前のが大人だなぁ」
「どうして?ですか?」
「いんや。…とにかく、お前さんはそのまま真っ直ぐ育てよ」
「???」
先生の言う事はムズかしい。
みーちゃんみたい。
だけど、先生に聞いてたら、早く大人になれそうな気がする。
だから、ぼくはガンバるんだ。
ホムラくんより、お兄さんたちより、ぼくがみーちゃんの力になりたいから。
守ってもらいたくないから。
クラスの子たちが、冷やかして言うみたいに。
みーちゃんの一番そばに、ぼくがいますように。
ね、みーちゃん。
ぼく、早く大人になるから、まっててね。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ミズホちゃんは、わたしの王子様。
はじめて会ったのは、ようちえんの時。
イジめられてたわたしを、ミズホちゃんがカッコ良く助けてくれたの。
世の中には、こんなにステキな人がいるのねって、わたしカンドーしちゃった。
さっそーとあらわれたミズホちゃんは、キラキラしてて…。
わたしが今まで見た誰よりも、何よりも、カッコ良かった。
王子様って、本当にいたんだって、そう思った。
だけど、ミズホちゃんは女の子で、王子様にはなってくれない。
わたしは、分かってたけど、いっしょにいたくて。
ミズホちゃんの後をついてまわった。
ミズホちゃんは大人。
だから、いっしょにいると、色んなことを見せてくれた。
みんなで遊ぶと楽しい。
みんなで食べると美味しい。
ミズホちゃんといる時間は、とてもステキなものだ。
わたしは、誰よりも何よりも、ミズホちゃんが大スキ。
一番近くにいるのも、わたしが良い。
でも、わたしは知ってるの。
ミズホちゃんの一番近くは、ホムラくんなんだって。
ミズホちゃんは、ホムラくんといっしょの時が、一番楽しそうなんだもの。
だけど、それもイヤ。
だって、ミズホちゃんはわたしの王子様なんだから。
どうして、わたしじゃダメなんだろう。
ホムラくんが、大人だから?
でも、大人なら、ハルオミお兄さんたちがいる。
どうして、ホムラくんなんだろう。
わたしも、ミズホちゃんのトクベツになりたい。
だけど、わたしは分かってるの。
ホムラくんといるミズホちゃんが、わたしはスキだって。
だから、ユーマが近くにいるのもイヤ。
ミズホちゃんのとなりは、ホムラくんなんだから。
強くて大人なミズホちゃんを守れるのは、ホムラくんなんだから。
弱くて小さいユーマなんていらないんだから。
ミズホちゃんは、やさしいから何も言わないけど。
わたしは、それもイヤ。
どうして、ミズホちゃんを守りたいなんて言うの。
ユーマは弱くて小さいんだから。
守れるなんて、おこがましーんだから。
…じゃあ、わたしは、そばにいられないの?
それも、イヤだ。
強くなきゃいけないのなら、どうしたら良いの。
わたしは、ミズホちゃんに助けられてばっかりなのに。
運動会で、手をつないでるミズホちゃんとユーマを見て、イヤな気持ちになる、わるい子じゃ、いっしょにいちゃダメ?
ユーマのクセに!
弱いクセに!
小さいクセに!
うれしそうにしないでよ。
わたしの、ミズホちゃんは、わたしのなんだから。
そうなんだから。
ミズホちゃんがイヤなんて、あり得ないんだから。
ユーマには、負けたくないだけなんだから。
それで、いっしょうけんめいガンバっても、上手く勝てない。
だけど、そんなわたしを、ミズホちゃんは見捨てない。
やさしくて、かわいくて、強いミズホちゃん。
わたしの、王子様。
わたしも、ガンバって強くなるから。
そうしたら、ユーマなんかじゃなくて、ホムラくんといてくれる?
わたしと、いてくれる?
わたし、ユーマになんか負けないから。
強い女の子になるから。
ステキな女の子になるから。
だから、ずっと友達でいてね?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ねー、若」
「うおっ!?突然何だよ、晴臣」
突然声をかけられて、思わずのけ反ってしまった。
俺は、軽く深呼吸をして、声をかけてきた人物に目をやる。
普段は、親父か瑞穂にベッタリの、双子の片割れだった。
「お前が俺に声かけるとか珍しくないか?」
「それは確かに。俺、あんまり若好きじゃないんで」
「ハッキリ言うかよ…」
「ライバルですから」
「?」
爽やかな笑顔で、一体何の宣言だ。
俺は、げんなりとしながら溜息をつく。
ただでさえ運動会で疲れてるってのに、何なんだ。
「そんなに嫌そうな顔してないで下さいよぉ」
「それなら、それなりの顔して来い」
「生まれつきこの顔ですけど?」
そう言う意味じゃない。
当然伝わってるだろうに、厭味なヤツだ。
俺は、それでも、大分このピーキーなキャラに慣れて来たなと思いながら、居住まいを正す。
何だかんだ、コイツが俺にわざわざ声を掛けて来る時は、それなりに用事がある時だと言う事は分かっている。
「で、何の用だ?」
「はい。悠馬くんと千歳ちゃんの事なんですけど…」
「アイツらがどうかしたのか?…そう言えば、悠馬の様子が最近少し変だったな」
だけど、基本的に他人に興味のない晴臣が、そんな事を心配して俺に声をかけるような事があるだろうか。
いや、ないと思う。
失礼かもしれないが、晴臣はそんな親切な性格をしていない。
それに、そんな理由なら、俺より二人と仲の良い瑞穂に相談するだろう。
…考えてもみれば、二人とも本来であれば俺と関わりの深い人間だ。
何で俺よりアイツのが仲良いんだ。
物凄いフラグ建築士だと思ってたが、ある意味フラグクラッシャーなのかもしれないな。
ま、今となってはどっちでも良いんだけど。
面倒事にさえならなければ。
「若は、どう言う理由だと思ってますか?」
「うーん…良く分からないな。とりあえず、病気とかじゃなさそうだし、瑞穂の話でも、ストレスとかって事でもないらしいし、心配しなくても良いんじゃないかと思ってるけど」
「ふーん」
何でかニヤニヤする晴臣。
スゲー腹立つんだが。
眉を顰めると、晴臣は察知したように肩をすくめて見せた。
「怒らないで下さいよ、若ぁ。馬鹿にしたワケじゃないですし」
「俺は不愉快だったんだが」
「いえいえ。参考になりました。それじゃ!」
「あっ、おい!!」
…言い逃げかよ。
晴臣は、聞きたい事を聞いたら、さっさと俺の部屋を出て行った。
やっぱり、部屋に鍵でも付けた方が良いだろうか。
何か見られて困るものがあるワケじゃないから良いんだけど、心臓に悪い。
俺は、小さく溜息をつくと、机に向き直った。
考えても分からない事は考えない。
その方が楽だと、最近ようやく学んだ。
「何も起きないと良いんだけどな…」
俺の小さな呟きは、一人だけの部屋に反響して、やがて消えた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「晴臣。焔様に迷惑をかけるな」
「迷惑なんてかけてないって。ただ、質問して来ただけだし」
「…はぁ。傍迷惑な牽制もあったものだな」
「気付いてないんだからオッケーだろ?」
「気付いてないならしなくて構わないだろう」
「いやいや。だって、今の所、若が一番のライバルだしぃ?」
「…お前な。大人げないぞ」
「えぇ?どこが?」
「まだ本人も自覚していないような恋心に焦ってる所」
「……マサ。お前ね、朴念仁みたいな顔して、なんて事に気付くんだよ」
「僕は小説が好きだ。恋愛物も、お前より読んでいる自信がある」
「うわっ、似合わな過ぎ」
「…あまり茶々を入れてやるな。二人が可哀想だ」
「お優しいお言葉だことで。…大丈夫。なるようになるさ。現実そんなもんさ」
「……だと、良いがな」
それぞれの心情、伝わっていますでしょうか?