表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二軍恋愛-知らない漫画のモブに転生したようです-  作者: 獅象羊
第一章「小学生編」(二年生)
47/152

44.体育祭と距離感

 夏休みも終わりまして、今日は体育祭です。


 え?飛び過ぎ?

 いやいや、そんな事言われても、大した事無かったんですよ。


 うーん、一応あった?

 いや、やっぱ無かったな。

 うん、大した事無かったです。


 と、言う訳で体育祭頑張るよー。


「今年は負けないからね、(ほむら)!!」

「はいはい。まぁ、今年も俺の勝ちだと思うけどな?」

「きーっ、悔しい!!」


 分かりやすく地団太を踏んでみる。

 因みに、参考は廉太郎(れんたろう)くんだ。

 こうやってみると、結構スッキリするね、これ。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 なんて、ふざけてたのがいけないんだろうか。

 気付くと普通に(ほむら)が優勢な状況に陥っている。

 これが生まれながらの差と言うものだろうか。

 うおおお、悔しい…!!


「ゆーちゃん!一緒に頑張ろうね!!」

「うんっ」


 次は、ゆーちゃんと組んでの二人三脚だ。

 かなり練習したし、ここは勝てる自信があった。


 早速位置について、肩を組む。

 身長的にも丁度良いし、なんだかんだ足の速さも近い。

 だから、かなり好条件なのは間違いないはず。


 そう思いながら、私は合図のピストルの音が響くと同時に踏み出した。


 初速は成功した。

 今の所一位だけど、余計な事を考えて遅れてしまったら笑えない。

 とにかく、足を合わせて前へ進む事を考える。


 舞う砂埃。

 一、二、一、二、とピタリと合うかけ声。

 迫る足音。


 最後の方は、あまりの勢いに転んでしまいそうになった。

 だけど、グッと堪えてゴールテープを切る。


 そう、一位を取ったのだ。


「やっ」

「やった…うわああっ!!」


 それをすぐさま理解したゆーちゃんが、反射的に足を止めた。

 だけど、私は残念ながらそこまですぐに止まれなかった。

 そのせいで、引っ張られたゆーちゃんが転んでしまった。

 直後、私も足を取られて転んでしまう。


「い、いたた…」

「あー、ビックリした。ゆーちゃん大丈夫だった?」

「うん…」


 ゆーちゃんは平気と言うけど、良く見ると膝辺りに怪我をしている。

 深くはないけど、無視してバイキンでも入ったら大変だ。


 そう思って、手を引きながら急いで水道の所へ向かう。

 傷は、清潔な水で洗って、綺麗にぬぐっておくと治りが速いって聞いたし。


「ゆーちゃん、早く手当てしないと!」

「えっ、ぼく一人でいけるよ?みーちゃん、まだ出るのに…」

「間に合うから問題ないよ。それに、ゆーちゃんの事心配だしね」

「……えへへ」


 痛いだろうに、何でか嬉しそうに目を細めるゆーちゃん。

 手を繋いでいるのが嬉しいのだろうか。

 もしそうなら、遠慮せずにいつでも言ってくれて良いのに!

 お姉さんの両手、いつでも空いてますよ!!


「おっ、ミズホーあいかわらず仲いいじゃねーか」

「けっこんしちまえー」

「ヒューヒュー」

「ヒューヒュー」


「やかましいわ!!」


 クラスの男子が、夏休みを終えて、何か変なボキャブラリー増やして来た。

 鬱陶しい事この上ない。

 …まぁ、私だけに言われるなら可愛いものだし、気にしないんだけどね。

 ゆーちゃんは、こんな事言われたら良い迷惑だろう。


 心配になってゆーちゃんを見る。

 と、割とご機嫌な顔をしている。

 どうやら、ムカついてはいないようだ。

 恥ずかしくもないみたいだし。


 何だ、杞憂だったか。

 私は胸を撫で下ろすと、適当に男子達に注意すると、その場を後にした。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 ゆーちゃんの治療を見守り終え、次の試合にちゃんと参加して。

 それからお昼を終えて現在。

 私は、ふとちーちゃんの姿が見えない事に気付いて、探しに来ていた。


 勿論、ちーちゃんは違うクラスだし、別行動をしている。

 とは言え、あの子は可愛くて目立つから、いないとすぐに分かる。

 だから心配になって探しに来たんだけど、過保護だろうか。

 ちょっと自分でも思う。


 杞憂ならそれで良い。

 そう思いながら姿を探していると、人気ひとけのない中庭の方に、小さな背中を見つけた。

 体操着を着ていて後ろ姿でも分かる。

 ちーちゃんだ。


 小さくしゃがみ込んでいる背中は、何処となく憂いを帯びている。

 もしかして、ゆーちゃんに続いて、ちーちゃんまで何か悩みを持ってしまったのだろうか。

 私は、もしその想像が当たっているのだとしても、私で力になれるような内容でありますようにと祈りながら声をかけた。


「ちーちゃん?」

「ミズホちゃん…」

「どうかしたの?」


 ちーちゃんは振りかえってくれるも、いつもの元気がない。

 サッと見える範囲で全身を見てみるも、怪我をしている訳ではなさそうだ。

 とりあえず、一安心である。

 フッと軽く息をつくと、私は彼女の横にしゃがんで目線を合わせる。


「ミズホちゃんは、強いよね」

「??え、そうかな」

「うん。ユーマじゃ守れないくらいだよ」

「うん?」


 えーっと、強さ?

 ゆーちゃん??


 突然何の話だろうか。

 どうやら、悩んでいる、と言うのはアタリだったみたいだ。

 けれど、その中身が見えて来ない。

 私は首を傾げながら、ちーちゃんの次の言葉を待つ。


「ユーマ、ミズホちゃんのこと守るって、ガンバってるのに、それでもムリなのにわたし…わたしじゃ、よけい、ダメ…」

「え?え?お、落ち着いて、ちーちゃん!」


 ど、どど、どう言う事??

 ちーちゃんが、めちゃくちゃ沈んだ顔をしている。

 原因が私にあるのはヒシヒシと感じるんだけど、駄目だ、分からない。

 ちーちゃんも、私を守りたい、なんて考えてくれてるって事だろうか。


 だから寧ろ私が守りたいんですけども!?

 皆どうしてそう言う発想になるんだろうか。

 あれか。私が無茶ばっかりしてるからか。

 反省する!するからしょんぼりしないで!!


「わたしも、つよくなりたいよ…」

「ちーちゃん…」

「だから今日も、ガンバってるのに…」


 そう言えば、ちーちゃんの戦績は、あまり芳しくなかった。

 それで落ち込んでたのか。

 私を守りたい云々と言うよりも、それでテンションが低いのかもしれない。

 それなら納得だ。


「ちーちゃん。千里の道も一歩から、って言葉知ってる?」

「?しらない…」

「どんなに遠い所でも、まずはその一歩を踏み出さなくちゃ、絶対に辿り着けない…つまり、強くなりたいって、ちーちゃんがそう思って踏み出した一歩は、どんなに小さく見えても、千里先に繋がってるんだよ。

 だから、今理想の自分でいられなくても、ガッカリする必要はないんだよ」


「…ミズホちゃん…」


 ……。


「ミズホちゃんの言うこと、いつもムズかしくてよく分かんない…」

「デスヨネー」


 ごめん、ちょっと調子に乗ってました。

 良い事言ったんじゃね、私?とか思ってました。

 言葉なんて、伝わらなきゃ意味ないよね。


 そう思ってヘコんでいたら、ちーちゃんは笑ってくれた。


「よく分かんないけど、分かった。わたし、ガッカリしない」

「うん!それが良いと思うよ!」


 良かった。

 どうやら、何とか上手い方に転がってくれたらしい。

 ふいー、嫌な汗かいた。


「でも、わたしやっぱり強くなりたい!ユーマには負けないんだから!」

「お、おお?」

「ねぇ、ミズホちゃん。どうしたら強くなれるの?」


 私が聞きたい。

 心の強さとか、身体的な強さとか、色々あるけど…どんなもんだろう。

 どっちも大事で、どっちも鍛えるべきだと、私は思う。


 だからと言って、私の中に正答は無い。

 私は、しばらく唸ってから、適当に思いついた事を言った。


「うーん……剣道やるとか?」

「ケンドウ?」

「あっ、ごめん。今のなし!やっぱり、自分で考えた方が…」

「ケンドウかぁ…」


 あっ、これ駄目なヤツ。

 ちーちゃんの目が輝きだしちゃってるもん。

 私は、自分のポロッと零した言葉が、将来的に悪く作用する事が無いようにと、とりあえず祈るのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「うえーい、借り物競走ー!」


 元気の出たちーちゃんと別れ、グラウンドに戻ると、私の番だった。

 え?私の番多過ぎ?

 そ、そんな事ないよ!全部立候補だし。


 ヒューヒュー煩いクラスメートを蹴りつけてから、位置につく。

 借り物競走って、コミュ力低いとエグい事態になるよね。

 私、前世でフリーズしちゃった子を見たよ。

 あれは哀れだった。


 でも、私だって他人事じゃない。

 引き当てるものによっては、私も棒立ちになってしまうかもしれないのだ。

 ここは、集中していかなくては。


 そう思いながら、本日何試合目かの戦いに臨んだ。


「(えーと、これ!)」


 箱の中から、適当な紙を引いて、素早く開く。

 すると、そこに書かれていたお題は、えらく抽象的なものだった。


「赤……」


 色か。

 考えようによっては非常に楽だ。

 赤組からハチマキ奪うとか、赤いリボンをした子から借りるとか。

 色々なパターンがあり得るからだ。


 だけど、私はすぐに連想した一つに向かって駆け出した。


(ほむら)ァーー!!」

「は、俺!?」

「良いから付いて来て!」

「あっ、おい!」


 問答無用で(ほむら)の手を握る。

 すると、(ほむら)の顔が、カッと照れからか赤くなる。

 そのまま急いでゴールテープを切る。

 流石は(ほむら)。足早い。


 そんな事を思いながら、お題の紙を審判に手渡す。

 審判の先輩は、紙と(ほむら)を見比べてキョトンとしている。

 確かに、今の(ほむら)は、赤組のハチマキをしていない。

 パッと見分からないのだろう。


 私は、力強く頷きながら(ほむら)に抱きついて言った。


「テーマ、赤に対して、恥ずかしさで赤くなってる(ほむら)!どうです?完璧でしょ!」

「何処がだよ!?せめて、名字が赤河(あこう)だから、とかにしとけ!!」

「あてっ」


 本人に頭を叩かれた。

 だけど、物の見事に(ほむら)の顔は赤い。

 完璧だと思うんだけどなぁ。

 そう思っていたら、審判の先輩は笑いながら、OKを出してくれた。

 (ほむら)は愕然としていたけど、結果オーライだ。

 遊び心万歳!


 ……だけど、最終結果は、そんな微妙な思いをさせられたせいか、本気を出して来た(ほむら)率いる一組に大敗を喫する形で終わってしまった。

 多分私のせいだと思います。

 だけど、悔いはないです。


「ああああ、でも悔しいー!!」

「真面目にやらなかったからだろ、バーカ」

「真面目だった!大真面目だった!!」

「何処がだよ!?」


 えーと、来年はちゃんとやろう。

 そうしよう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ